Policy(提言・報告書) 地域別・国別 アジア・大洋州  第6回アジア・ビジネス・サミット共同声明

正文英語
2015年7月13日

2015年7月13日、東京の経団連において開催された第6回アジア・ビジネス・サミットには、アジアの11の国・地域を代表する13の経済団体が参加した。アジアの経済界のリーダーは、世界経済の現状を踏まえつつ、アジア経済の抱える主要な課題について議論を行い、本共同声明を取りまとめた。参加メンバーは、本サミットで掲げられた目標を実現するため、積極的な役割を果たすとともに、各国・地域の政策立案者に対して、実現に向けた働きかけを行うことに合意した。本共同声明は、アジア経済の活力を今後も持続していく上でのアジア経済界の期待と要望ならびに民間が果たす今後の役割について表明するものである。

1.地域経済統合

2015年は、FTAAPの構築に向けた足掛かりとなるASEAN経済共同体が発足する節目の年である。本サミットでは、各経済団体のトップがFTA・EPA交渉のさらなる推進に向けて連携していくことに合意した。

互恵関係の構築のため、FTAやEPAは、主要分野をカバーする包括的な内容でなければならない。輸出部品や構成品にかかる関税の削減(漸進的削減を含む)は、最終製品の価格を引き下げ、ひいてはバリューチェーン全体の競争力の強化へとつながる。サービス貿易と投資の自由化は、海外の投資家だけでなく、資本の集積、技術移転や雇用創出を通じて、投資受入国にも利益をもたらす。知的財産権の適切な保護やロイヤルティ送金の自由の確保は、技術移転の促進にもつながる。法規制の透明化や行政手続の迅速化といったビジネス環境の改善が図られれば、国内外双方の企業に等しく恩恵をもたらすことになる。

本サミットにおいて、参加者はEPAやFTAは排他的な内容であってはならない点を改めて確認した。当初から交渉に参加していない場合でも、その後、他の全ての参加国が合意した条件の下、いずれの国・地域も交渉への参加が認められるべきである。

加えて、本サミットは、WTO加盟国に対し「貿易円滑化協定」の批准を求めると同時に、2013年12月のWTOバリ閣僚会議で合意された事項の前進を呼びかける。調和の取れた形でバリ合意を実施することはドーハ・ラウンドの妥結に近づくことへの一助となる。

2.人材

アジアが単なる生産基地や消費市場でなく、研究開発拠点としても成長を果たすには、イノベーションを通じて高い付加価値の製品や新たなビジネスモデルが創出されるような環境整備が不可欠である。このため、人材育成、研究開発への資源投入に加え、高度な専門能力を持った人材が国籍を問わず自由に移動できる環境を整備すべきである。

本サミット参加者は、人口変動の悪影響を最小化するため、国境を越える人の往来促進が必要であることを再確認した。アジアの一部の国・地域が労働力不足に直面している医療、福祉、農業、建設等の分野について、特に配慮が求められる。

3.インフラ

アジアの持続的かつ安定的な成長に向けて、さらなるインフラ整備が必要である。インフラ整備によってアジアの地域間の連結性を強化することで、海外からの直接投資を促し、産業集積を形成し、資源・エネルギーの開発基盤を構築することができる。

基礎的なインフラ整備には多額の資金が必要となる。従って、公的資金と民間資金のパッケージ化が必要となる。民間で採算がとれる分野については民間が担う一方、基礎的なインフラについては公的資金で整備を行う。多様な資金需要を担うため、アジア債券市場育成イニシアティブの促進とともに、国際機関による融資や支援が不可欠である。本サミットの参加者は、民間の立場から、質・量の両面でインフラ整備を促進するため、PPPに積極的に取り組むこととした。

投資先の法制度の適切な設計・運用に対するニーズも顕在化している。ここには、国営企業とのパートナーシップのあり方、実体を伴うことを前提としたSPC(特定目的会社)設立の自由化、技術者や技能者の国を超えた移動の緩和、政府の調達手続の透明化が含まれる。こうした取組みは民間の投資意欲を促し、インフラ投資の促進につながる。

4.環境

気候変動問題の解決は、持続的成長の実現に向けて避けることができない課題である。国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で成果を挙げるべく、現在、国際枠組の議論が進められている。アジアは世界の温室効果ガス排出量の40%以上を占めるため、我々はこの問題に関して積極的な役割を果たすことが重要である。

本サミットでは、経済成長との両立を図りながら、気候変動問題の解決に向けた努力を進めるため、ポスト京都議定書の国際的な枠組は、公平でかつ実効性のある、柔軟な内容とすべきと考えている。エネルギー原単位の改善をはじめとする気候変動対策は、限られた資源を効率的に活用し、エネルギー安全保障やコスト削減にもつながる点に留意すべきである。民間においても、高効率石炭火力発電、スマートグリッド、LRT、エコ住宅、エコビルディングといった環境に優しい技術の普及を通じて、省エネ政策の面で政府と協力していく。民間資金、輸出クレジット、二国間オフセット制度等のスキームはこのような取組みを進める上で有用である。

また、各国・地域の経済界が環境適応、防災対策、水供給、廃棄物リサイクル、生物多様性といった国境を超えた課題について協力していくことも重要である。

5.経済安全保障

経済成長に伴い、資源・エネルギーの不足が顕在化している。本サミットでは、資源の共同開発や精製の可能性を探るとともに、参加国間でエネルギー融通の手法や制度の構築に向けて、協力していくことで合意した。また、資源・エネルギー分野への投資や技術移転を通じて開発資源に付加価値をつけることが重要である。なお、その輸出についてはWTOと整合的な方法で行われることが不可欠である。また、本サミットは、各国首脳に対して、エネルギーと天然資源の輸送を確保するための協力を求める。

世界の人口増加は、中長期的に食料需給の逼迫を招く惧れがある。本サミットでは、食料安全保障の観点から、食料生産の持続的拡大に向けて、公的資金を活用して、研究開発協力を促進するよう、各国・地域の首脳に対して働きかけることに合意した。民間も、ビジネス上可能な範囲で、農業、畜産、水耕技術の普及、輸送システムの高度化、その結果としての食料のサプライチェーンの拡大を通じて貢献することができる。

今日、海外でビジネスを行う民間企業はテロの脅威に曝される場合がある。経済界は安全で安心な社会の構築に向けて社会的責任を果たしていく。我々はいかなるテロ行為にも強く反対するものであり、各国・地域に対して民間と安全に関する情報共有を図るとともに、テロに対峙し、各国国民の安全を確保するため、あらゆる手段を講ずるよう求める。

以上