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Policy(提言・報告書) 科学技術、情報通信、知財政策 不正競争防止法改正へのコメント

2017年11月2日
経団連 知的財産委員会 企画部会

「Society 5.0」の実現に向けては、データの利活用が大きな鍵を握る。今般、産業構造審議会知的財産分科会 不正競争防止小委員会において、データの利活用促進を目的として不正競争防止法(以下、不競法)の改正につき議論していることは、有意義なことである。

但し、今回議論の対象としているのは、不競法上の「営業秘密」とは明確に異なる、外部提供目的の「データ」である。外部提供目的の「データ」について、差止めという強い民事的措置を伴う法律である不競法の規制を適用することについては、その程度が過度になれば、今次改正の目的であるデータの利活用促進が実現しないばかりか、データ取引の安定性を阻害し、データ利活用の萎縮につながるおそれがある。

改正にあたっては、諸外国における法規制の現状も踏まえつつ、データ利活用と保護の適正なバランスに配慮し、他の既存の法律では十分に保護することができない利益を保護すべき最小限の場合に限定するとの考え方に立脚することが肝要である。

現在、小委員会において行われている議論の中には、意見が分かれる論点も存在する。複数の委員から懸念や疑問が呈されている論点については、慎重な意見にも十分に耳を傾け、合意形成に向けた真摯な努力を行うことが求められる。十分な合意を得られない論点を今次改正に盛り込むことは慎むべきである。

こうした基本的な認識のもと、以下、具体的なコメントを記す。

1.データの要件

(1)内部データの取扱い

  • 「内部データ」は「営業秘密」として保護されるべきであり、引き続き、「営業秘密」についてのガイドラインの周知が必要である。

(2)他社が無制限・無条件で提供しているデータ(オープンなデータ)の取扱い

  • オープンなデータから必要な情報を抽出・加工したデータを、今回のデータの範囲に含めることは理解できる。他方、オープンなデータそのものは全ての者が利用可能な公知のデータである。仮に、「技術的な管理手段」が施されたオープンなデータを不競法の規制対象に含めたとしても、同じデータは他の経路から入手可能であるため、差止めの実効性はないに等しい。また、「技術的な管理手段」を破る行為自体については、現行法上、不正アクセス禁止法・窃盗罪等の既存の規制によって抑止が図られており、不競法によりさらなる規制を加重する必要性は乏しい。したがって、オープンなデータそのものを規制対象に含める必要はない

(3)企業の取引実態に即した「データの要件」の明確化

  • 企業が行う取引には、何らかの「データ」のやりとりが介在しているのが通常である。こうしたデータが広く不競法の適用対象となれば、データの利活用を萎縮させることになる。今次の不競法改正においては、企業が行う取引の実態に即し、適用対象が過度に拡大しないよう「データの要件」を限定的なかたちで明確化すべきである

  • その際、不競法上の「営業秘密」や著作権法などの他の既存の法律や契約では十分に保護することができないのか、データ利活用とのバランスを踏まえた上で新たに不競法に基づく差止め請求権を認めるだけの必要性が認められるのかを、十分に検討すべきである。

2.行為規制の範囲

(1)転得者による取得・使用・提供行為/適用除外

  • 取得時悪意の転得者の場合(データを転得した者が、データの不正提供が介在したことを知って取得した場合)は、転得者がデータの不正取得を行った者と通じていること等も想定され、悪質性が高い行為であると考えられることから、取得時悪意の転得者による「使用」「提供」行為を不競法で規制することには、賛成する

  • データ提供者は、民法上の債務不履行責任、不法行為責任に基づいて、データの不正取得者、図利加害目的で権限外の使用・提供行為を行った正当取得者、転得者に対して損害賠償請求を行うことは可能である。さらに、取引相手を信頼してデータを取得したにも関わらず、その取引の相手方、或いはさらに上流の全く無関係の者の不正取得や権限外の提供に起因して、通常のデータの利活用行為が差し止められることは、取得時善意の転得者の取引の安全を害する。取得時善意(過失の有無は問わない)の転得者の「使用」「提供」行為については、基本的には不競法の適用対象とすべきでない。なお、今後、データを利活用した現時点では予期し得ないビジネスが起こることも十分に想定される。今次の改正が、係る新しいビジネスの進展を萎縮させることがないように留意すべきである。

  • 他方、取得時善意の転得者の場合でも、データ提供者の利益を保護する観点から、一定の悪質な行為を規制すべきとの意見もあることから、議論の収斂に向けた十分な努力を行なうべきである。

  • 取得時善意無重過失の転得者が、悪意または重過失に転じた後、転得者にデータを提供した者から付与された権原(すなわち、契約)の範囲を超えて使用・提供する行為を不競法で規制する案が提起されており、データ提供者の利益を保護する観点から、この案に賛成する意見もある。

  • 一方で、こうした提案は、転得者によるデータの取引の「契約違反」に対し差止めの効力を認めるものであり、知的財産権でもなく公示制度も無いデータというものの取引に関する契約違反に対して差止請求権を認めることは、規制としてのバランスを欠くものと考えられる。また、契約の解釈が相違し、事後的に「契約違反」が認定される場合など、意図せずして「契約違反」となるケースも実務的に想定され、「契約違反」で一律に不競法違反での差止めを認めることは、データの取引を萎縮させる可能性がある。さらに、既に高額の投資を行っている場合、その投資が無駄になるという不利益も考えられる。検討にあたっては、こうした懸念を十分念頭に置くべきである。

(2)正当取得したデータの不正使用・提供行為

  • 正当に取得したデータを不正に使用、提供する行為については、民法上の債務不履行責任、不法行為責任に基づく責任追及など既存の法律で十分であり、基本的には不競法で規制する必要はない

  • 「図利加害目的」の意味するところが判然とせず、広く解釈されることが懸念される状況では、「図利加害目的」を要件に、正当取得したデータの不正使用・提供行為に規制を課すことは、企業の予見可能性を害するとともに、不競法に基づく係争を過剰に誘発する可能性があることから賛成できない。

  • 一方で、極めて悪質な不正使用・提供行為に対する規制を設けるべきとの意見もある。仮に、不競法で規制を課す場合には、「図利加害目的」の行為の内容を極力限定して、明確に示すことが必要である。

3.刑事措置

  • 現在は、データの不正取得等自体には刑事罰は適用されないが、「盗まれる前の入り口」の規制である、建造物侵入罪、窃盗罪や、不正アクセス禁止法には、刑事罰が適用される。さらに、不競法違反には、差止めという強力な民事的措置を伴う。悪質性の高い行為に対し、刑事罰を導入すべきとの意見もあるが、今回の目的は、不競法で、データ利活用の促進に向けた必要最小限の手当てを行うことであることから、まずは既存の規制及び不競法の差止めを含む民事的措置によって運用を行うことが適当であり、現時点において、刑事罰を導入することには賛成できない

以上

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