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Policy(提言・報告書) 科学技術、情報通信、知財政策 日米IED民間作業部会共同声明2018

2018年7月23日
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はじめに

2012年以来、経団連と在日米国商工会議所(ACCJ)は、グローバルな視点から国境を越えるデータの流通、個人情報の保護と利活用の両立、サイバーセキュリティ等に関する産業界の意見を発信してきた#1。また、経団連はデジタルテクノロジーとデータの活用により経済成長と社会課題解決の両立が図られた社会を目指すSociety 5.0(図表1)というコンセプトを掲げてきたところ#2、ACCJもこれを支持するものである。これらの提言を踏まえ、本共同宣言では、デジタルエコノミーをめぐる状況を振り返りつつ、日米両国が目指すべき方向性や具体的に取り組むべき施策を示すこととしたい。

〔図表1 Society 5.0は次世代の社会経済モデル〕

Ⅰ.デジタル時代の展望と課題

今や、人々の生活はデジタルテクノロジーを利用しない日はなくなり、すべての企業が情報通信技術に依存し、また活用する時代へと突入してきている。このいわゆるデジタルトランスフォーメーション#3(デジタル革新)が新たな段階へと進みつつあり、クラウドによるシステム・データ連携、IoTそしてAIというイノベーションが生まれ変容のペースが加速化してきている。

このデジタルトランスフォーメーションは、革新的な製品やサービス、新たなビジネスモデルを次々と生み出し、デジタル化を通じて得られたモノ・ヒト・コトの膨大なデータはインターネットを介して瞬時に国境を越えて流通し、データによって可視化された課題やその解決法などの知識・知恵が共有され、新たな価値創造や社会的課題の解決に寄与している。

しかし、膨大なデータの活用が世界経済の成長を牽引し、人々の生活を豊かにする一方、新たな課題も生まれている。最も大きな課題としてプライバシーやサイバーセキュリティの問題が挙げられる。個人に関するデータが活用されることにより、その個人のニーズに合ったサービスが提供される一方、プライバシーが侵害されたり、悪用されたりするのではないかという懸念が広がっている。データが不正な目的で使用されることで、人々の行動を恣意的に支配する問題も生じている。さらに、サイバー空間は政府がコントロールすべきという考えのもと国家が一元的に他国のものも含めたデータを管理することなどがあれば、安全保障上の問題に発展することも懸念されている。

また、あらゆるモノがインターネットにつながるIoT時代には、サイバー空間で価値が生み出される一方で、悪意を持ったサイバー攻撃の対象や起点が無数に広がるという、新たなリスクを抱えることとなった。サイバー攻撃によって、個人情報をはじめ知的財産、機密情報、金融資産が窃取されるばかりか、サービスの停止や物理的な機能障害などまでもが引き起こされている。価値創造とリスクマネジメントの観点からこれらの対策に取り組むことが必要となっている。

デジタルエコノミーの進展によりデータの流通量は年々増加しており、容易に物理的な国境を越えて流通することから、各国・地域の制度体系内に閉じた規制ではもはや規律できない。しかし現実には、各国によるデータ争奪の思惑に加えて、安全保障、政治体制維持、人権保護などの事情が複雑に絡み合い、データの越境移転を規制する「データローカライゼーション」に関する法制度の制定・施行の動きが、ブルネイ、中国、インドネシア、ナイジェリア、ロシア、ベトナム等で進みつつある#4(図表2 参照)。

〔図表2 世界的に広がりを見せるデータローカライゼーション〕
Blocking the Global Flow of Data

また、プライバシー保護の観点から、個人データの越境移転等に条件を設ける規制も存在する。EUが2018年5月に施行した「一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection Regulation)」は、域外への個人データ移転、プロファイリングやデータポータビリティに関する厳しい規定を設けている。またEUは、電子通信データの保護強化を目的として、「eプライバシー規則」案の検討も進めている。

このようにデジタルトランスフォーメーションに対し、各国・地域でさまざまな対応が試みられ、繰り広げられる有り様は、新たな世界秩序の構築の始まりでもある。

Ⅱ.日米両国がとるべき戦略

こうしたデジタルエコノミーをめぐる基本的な認識を踏まえて、今後日米両国がとるべき戦略として、(1)安全なサイバー空間の確保(2)データローカライゼーション規制撤廃の働きかけ、(3)個人データ保護規則の調和的な運用への努力、(4)グローバルな制度の構築・調和に向けた日米の主導的役割の発揮を挙げたい。

(1)安全なサイバー空間の確保

安心してデータを活用できる環境確保に向けて、サイバーセキュリティやITリテラシーの向上も含めたインターネット公共政策の議論などサイバー空間をめぐる諸課題に対し、イノベーションや企業活動を促進する方向で、グローバルな視点で制度の調和を進める必要があり、日米両国政府のイニシアチブを期待する。とくに、日米両国においてサイバーセキュリティ対策に関する民間との連携を継続し、サイバーセキュリティの分野におけるベストプラクティスの共有やキャパシティ・ビルディングの拡充などの強い関係構築を期待している。

(2)データローカライゼーション規制撤廃の働きかけ

デジタルエコノミーを世界に展開し、すべての人が利益を享受するうえで、越境データ流通の確保が不可欠である。デジタルエコノミーの基盤はデータがインターネットを介して瞬時に国境を越えて流通することにあり、グローバルな展開によって世界中の人々に利便性の高いサービスを提供できることに意義がある。今後、デジタルサービスを展開し、モノやヒトに関わる多数のデータをクラウドなどで扱うにあたって、国境を越えて情報が自由に流通することは、開かれたマーケットとともにビジネスの大前提となる。

データローカライゼーション規制は、国外企業に追加的なコストや過度なビジネスリスクを生じさせる非関税障壁となり得るばかりか、規制国の経済成長を阻害する要因ともなり得る。とくにデジタル技術を駆使してグローバルに打って出ようというスタートアップや中小企業にとって影響は甚大である。米国は加盟していないものの、TPP協定の電子商取引章は国境を越える情報の自由な移転の確保やサーバー等のコンピュータ関連設備の自国内設置要求の禁止、ソースコード開示要求の禁止等を規定している。TPPにおいて表明されている基準に則って、アジア太平洋地域をはじめとする新興国に過度な規制がスタンダードとして広がることのないよう、日米両国政府がリーダーシップを発揮し、各国と協力して規制の緩和・撤廃を働きかけるべきである。

(3)個人データ保護規則の調和的な運用への努力

越境データ流通を基盤としたデジタルエコノミー推進による持続可能な世界の実現のためには、過度なプライバシー保護や規制、あるいは軽視の両極に陥ることなく、個人データの活用と保護の両立によって、イノベーションを起こし続けることが重要である。その観点から、イノベーションとプライバシー保護のバランスをとりながら個人情報を含むデータが国境を越えて流通する制度・仕組みを、地球レベルで構築していくことが求められる。そのための第一歩として、越境データの適切な保護と円滑な流通を確保するため、日米が主導的にAPECの越境プライバシールール(CBPR)を推し進めることが肝要である。同時に実務上の運用面でさらなる成熟と、APEC/APEC外のより多くの経済圏からの支持と参加、さらにはCBPRとGDPRの相互運用性が確保されることを期待する。

なお、今後、IoTの普及により、生み出されるデータは多様なものになり、物そのものや、個人と結びついたモノのデータも多数生み出される。こうしたデータの取り扱いやプライバシーとして守るべき情報の範囲に関する議論も重視すべきである。

(4)グローバルな制度の構築・調和に向けた日米の主導的役割の発揮

官民が一体となって諸外国の立場を見極めながら、同じような立場をとる国々との連携を深めつつ、徐々に各国間の隔たりを埋め歩み寄りを図るべく、マルチステークホルダーによる対話を重ねていかなければならない。

EU、英国、中国、東南アジアをはじめとする各国当局やステークホルダーとの間で戦略に基づく対話を重ねて連携を図るとともに、G7やG20、OECD、APEC、等の多国間の枠組みを活用し、より高いレベルでバランスのとれた制度の構築や調和に向けて日米両国政府が主導的役割を果たすとともに、国際的に認知されたビジネスを円滑にするルールを支持し、その普及を促すことを望む。

経済界としても、各国のステークホルダーとの協調を通じて議論の後押しに貢献するとともに、国際会合等でのマルチステークホルダーの議論においてデータの自由な流通の確保やデジタルトランスフォーメーションによる投資の促進や経済発展などに関するテーマ提起や議論の牽引など、早い段階から積極的に参画し、貢献していく。また、具体的な事例を示すことでより良い社会の実現を訴えかけていかなければならないと考えている。

Ⅲ.おわりに

デジタルエコノミーは組織や産業、国境などのさまざまな壁を越えたつながりを実現することで、革新をもたらしてきている。各国はデジタルエコノミー政策を国の最重要戦略と位置づけて官民一体の取り組みを進めており、デジタル化によって世界が大きく日々大きく変動している。

我々は、日米両国としてもデジタルエコノミー政策を国家戦略の中心に据えて推進することを期待する。プライベート・セクターとしても、国民生活の質を向上させるサービスを生み出し、消費者の信頼を築きながら、デジタルトランスフォーメーションに向けた積極経営に取り組みつつ、政策立案に積極的に参加しデジタルエコノミーの進展に伴うベスト・プラクティスの確立を進めていく。

経団連およびACCJは、企業と企業を支える個人や地域の活力を引き出し、経済の自律的な発展と国民生活の向上に寄与するため、Society 5.0の実現に向けてデジタル革新によるイノベーションを推進・主導していくとともに、協力してグローバルな議論への参画を続けていく。

日米両国政府におかれても、(1)安全なサイバー空間の確保、(2)データローカライゼーション規制の撤廃、(3)個人データ保護規則の調和的な運用への努力、(4)グローバルな制度の構築・調和に向けた日米の主導的役割の発揮など、ここで提言したことをそれぞれ実現するために、緊密に連携をとりつつ、関連する政策を強力に推し進めることを強く期待する。

昨年12月にブエノスアイレスで開催された第11回WTO閣僚会議において、WTOで電子商取引の議論を積極的に進めたい70カ国・地域の有志国が共同声明を発出しており、今後、WTOで電子商取引の議論の進捗が期待される。こうしたなか、データローカライゼーション規制導入の禁止やソースコード開示請求の禁止といったTPP電子商取引章における合意内容を一歩進める形で、TPP電子商取引章の金融分野への拡張、CBPRの成熟化・加盟国の拡大への協力、質の高いインフラの第三国輸出への協調等について、日米両国政府が協力できれば、既述のような様々な課題を抱える第三国へ向けた明確な意思表示となると考えられることから、両国政府が前向きにその可能性を追求することを期待する。

以上

  1. 経団連・ACCJ「インターネットエコノミーに関する日米政府への共同書簡」(2017年4月)
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2017/031.html 等を参照。
  2. 経団連「Society 5.0の実現に向けたイノベーション・エコシステムの構築」(2018年2月)
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/010.html 等を参照。
  3. 「デジタルトランフォーメーション」とは、デジタル化を通じて様々なものがつながりイノベーションや社会の変革まで含む動態的状態を指す。
  4. ITIF "Blocking the Global Flow of Data"
    http://www2.itif.org/2017-block-global-data-flow-one-pager.pdf

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