Policy(提言・報告書) 都市住宅、地域活性化、観光  地域経済活性化に資する地方分権改革のあり方

2019年7月16日
一般社団法人 日本経済団体連合会

地域経済活性化に資する地方分権改革のあり方 概要

1.地域経済活性化の必要性

国内GDPの7割を占める地域経済は可能性にあふれ、イノベーションを通じて成長する余地がある。農業においては、大規模化・スマート化を通じて生産性向上が可能であり、ブランド農・畜産物の展開や六次産業化による高付加価値化も見込める。右肩上がりに拡大する訪日インバウンド需要を取り込むことで、地域に新たな経済循環がもたらされ、さらなる活力向上が図られよう。自然文化などの特性を踏まえながら、地域特有の資源を活用した基盤となる産業を振興し、その集積・育成を図れば、地域への人の流れが生まれ、新たなイノベーション創出も期待できる。

高齢化・少子化による生産年齢人口の減少と大都市圏への人口流出、CPTPPや日欧EPAの発効といった経済のグローバル化、AI、IoT、ロボットをはじめとする技術革新の進展など、地域経済を取り巻く環境変化を受け入れ、地域自らが創りたい社会を描きながら変革を遂げることでその真価が発揮され、わが国経済の持続的成長へとつながっていく。実際、自治体の中には国家戦略特区等を最大限活用しながら、首長の強いリーダーシップの下に先進的な取り組みを進め、課題解決・活性化へとつなげるところも出てきている。地域経済の土台である行政システムについても、多様性を認め、自由度を高めた制度・体制へと改革すれば、大きなインパクトをもたらす課題を乗り越えてさらなる発展が可能となろう。

今般、「第二期まち・ひと・しごと創生総合戦略」の策定を機に、これまでの地方創生・分権改革に関わる課題を踏まえた上で、同戦略を含め、政府において重点的に取り組むべき制度改革等について提言する。こうした改革を推し進めることが、経団連が提唱する道州制#1への道筋をつけることにもなろう。

2.政府の「地方創生」における課題

政府では、地方創生を最重要課題と位置づけ、まち・ひと・しごと創生本部、地方創生推進事務局等を中心に、種々取り組みを進めている。特に2014年には「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し、地域特性を考慮しない「全国一律」の手法、効果検証を伴わない「バラマキ」、府省庁・制度ごとの「縦割り」構造の排除等を念頭に置きつつ、地域経済の活性化につながる施策を展開してきた。約5年が経過するなか、各地域が自主的・自立的に地域経営に取り組める体制の構築は道半ばであり、地域によってはそのポテンシャルを発揮できておらず、引き続き厳しい経営状況にある。なかでも、施策の実効性等ということでは主に3つの課題が存在している。

(1) 地方分権・広域連携の視点の欠如

地域の特性に基づいた施策を進める上で何より重要なことは、地域経済圏の担い手の中心である住民はもとより、各自治体や地元経済界、大学などが一体となって、関係機関との連携、外部からの人材受け入れなども図りながら、自立性・主体性を発揮できる体制・制度を整備することである。そのためには、必要な権限・財源・人材の移譲、広域連携の推進、すなわち地方分権改革が必要であるが、地域が求める施策・発意を体現できるまでには至っていないのが実情である。例えば、各自治体からそれぞれが抱える課題等を解決するための提案を募集し、その実現を図る「提案募集方式」も、新たな地方分権改革の手法として位置づけられているが、その多くは手続きなど個別事務の改善にとどまっている。運用面においても、各自治体からの事前相談の段階で関係府省との調整対象外とされる、自治体側に支障事例の立証責任が課されている、支障が顕在化していない案件の提案ができない、検討するとされた案件もフォローが十分でないといった課題が存在している。

また、広域連携に関しても、連携中枢都市圏#2や定住自立都市圏#3の形成を促進し、広域での協定締結等を求める一方、都道府県・市町村単位での地方版総合戦略の作成を求めるなど、政策全体で連携を図り、整合的に進める視点が弱い。

(2) 施策の妥当性・有効性に関する検証不足

まち・ひと・しごと創生総合戦略をはじめ、地方創生・地域経済の活性化を後押しする施策・KPIについて、その効果や妥当性・有効性・施策とKPIとの関係性等に関する検証が不十分であると言わざるを得ない。本来、具体的な成果につながる事項をKPIとして用いるべきところ、まち・ひと・しごと創生総合戦略の基本目標やアクションプラン等では、成果指標の手段に過ぎない「計画の策定数」が設定されるなど、わが国全体の活性化に寄与するのか疑わしいものも散見される。

(3) 中央集権的な推進体制

地域が抱える課題は一様ではないなか、自主的な地域経営を促すためには、地域特性に応じてきめ細かく施策を展開する必要がある。

しかしながら、地方創生推進交付金を含め、中央省庁が用意したパッケージから各自治体が選択し、国が計画を認定する仕組みであるため、地域の主体性が発揮しにくい。加えてその体制も、まち・ひと・しごと創生本部事務局や地方制度調査会#4など多岐にわたる上、縦割りで中央集権的なため、相互の施策の一貫性・整合性を確保しにくい状況にある。

3.地域の自立性・持続性を高める制度・体制の構築

人口減少、高齢化が急速に進展するなか、もはやすべての地域で定住人口の増加・昔の賑わいを取り戻すことは不可能である。プレーヤーである各地域が、主体性をもって積極的に改革を進めるのは当然であるが、政府においては、地域自らが自立的・持続的に、創意工夫をこらした独自の経営ができる体制の構築、地域経営を担える人材の確保・育成に尽力し、意欲ある自治体を制度面で支えるべきである。

以下では、そのために不可欠な4つの改革等について提言する。

(1) 分権改革の徹底、権限・財源・人材の移譲

  • 意欲ある自治体の発意を実現すべく、各自治体が求める権限を全面的に移譲
  • 地方創生推進交付金の運用の弾力化
  • 地方創生人材支援制度の機能拡充および同趣旨の制度の整理・統合

地域が主体性をもって独自の経営を行えるようにするには、分権改革を通じて、各自治体に必要な権限・財源・人材を移譲することが不可欠である。

  1. 権限
    例えば兵庫県養父市では、中山間地域である同市が抱える農業の担い手不足・耕作放棄地の拡大などの課題に対応するため、国家戦略特区を活用し、企業による農地所有を可能とするなど、農業分野への企業参入を積極的に促している。また、千葉県千葉市においても同特区を活用し、東京湾臨海部に立地する物流倉庫から都心型住宅への物流効率化を図るため、ドローン宅配や自動運転といった先端技術の実証実験を進めている。併せて行政コストの削減・市民サービスの向上の観点から、押印の廃止をはじめ、事務手続きの大幅な見直しなど、効率化を進めている。
    こうした意欲ある自治体の発意を最大限尊重し、地域の実情に沿った施策を実施できるよう、各自治体が求める権限は移譲すべきである。手始めに、現行の提案募集方式は抜本的に見直す必要があり、検討するとされた項目については早急に着手し結論を得るのはもちろん、担当省庁が規制の必要性を立証できない限り、提案は原則すべて認めることとすべきである。

  2. 財源
    厳しい状況にあるわが国財政の下では、「わが国財政の健全化に向けた基本的な考え方(2018年4月17日)」でも示した通り、地域においても歳出抑制策を実行する必要がある。地方財政計画において主要な経費や収入に関する見積もりを徹底して精査し、歳出規模等の適正化を図るとともに、PDCAサイクルを不断に改善するなど、財政健全化に向けて取り組むのは当然である。
    その上で、自治体が独自の戦略を実行に移し、資源の最適配分を自ら決定できるよう、財源確保に努める必要がある。具体的には、国として地方が行政上の役割を果たす上で必要な財源を確保しつつ、地方の自主性や創意工夫を促す観点から、国庫支出金を必要最低限にとどめるべきである。また、地方創生推進交付金なども運用の弾力化を図り、適切なKPI設定と徹底した進捗管理の下、例えば、計画の期中変更や大幅な見直しを認める、複数年度をまたぐ形での予算編成・執行を可能にすることも検討すべきである。
    なお、岩手県紫波町では、公有地の開発や庁舎・図書館等のインフラ整備を官民複合施設として公民連携により進め、地価価値の向上を成し遂げ、自立的な財源確保を実現している。PPP・PFIを含め、民間活力を取り込むことも効果的である。

  3. 人材
    地域経営を担う人材も、権限・財源とあわせて移譲・確保し、その育成が図られなければ、最大の効果を発揮しえない。まずは各地域が、その特色や実情に基づき必要な人材を明確にした上で、当面、まち・ひと・しごと創生総合戦略における地方創生人材支援制度#5等について、マッチング機能の強化による民間人材の活用など、機能を拡充していくことが望ましい。その際、総務省の「地域おこし企業人#6」といった同趣旨の制度を整理・統合し、一体的な運用を図るとともに、任期の長期化・派遣可能な人数の弾力化、派遣対象(役職)の拡大、待遇・条件の改善など、制度の柔軟性・利便性向上に努めるべきである。

(2) 国家戦略特区制度の見直し

  • 区域の追加指定、全国展開の一層の推進に加え、特区の認定制の届け出化など柔軟な制度へと見直し

国家戦略特区は「岩盤規制の突破口」としての役割を担う一方、区域を指定して特例措置が実施されることから、その地域特有の課題を解決し、活性化を図る上でも有効である。国も各自治体に特区の活用を提案しているが、現行制度では、区域内で活用できる規制の特例措置は法律により規定され、区域も国が指定する仕組みとなっている。このため、メニューにない項目は実行することができず、特例措置を追加的に実施しようにも、法改正や区域指定が必要となるため、改革の実現まで相当期間を要している。

地域が抱える課題へのきめ細かな対応が求められるにもかかわらず、特例措置を個別に規定していては、スピーディな地域経営の足かせとなる。すでに特区制度については「規制改革の推進体制の在り方に関する提言(2019年3月19日)」において、区域の追加指定や全国展開のさらなる推進等を提言したが、今後はより一歩進めて、特区の認定制を届け出制にする、あるいは特例措置の内容も法では包括的な規定にとどめて柔軟性を高めるなど、各地域の特性・特色に応じた取り組みを全面的に実現できるようにすべきである。

(3) 広域連携の推進

  • デジタル・ガバメントの実現
  • 「連携中枢都市圏構想」、「定住自立都市圏構想」、「地方版総合戦略」の一体的推進
    (同構想でのビジョン等を地方版総合戦略に位置づけ)

経済活動の広域化、インバウンドの拡大、グローバルな都市間競争の激化などを踏まえると、地域においても、観光をはじめ地域の中核となる産業について広域で振興を図るとともに、一定規模を有する経済圏域を軸として、ビジョン・戦略を策定していく視点が重要となる。また、環境問題等、個々の自治体だけでは解決できない行政課題に対応するにも、現行の行政単位を超えた広域での連携が欠かせない。

広域連携には、自治体ごとの業務プロセスの標準化が不可欠なことから、デジタル・ガバメントの実現を強力に推進する必要がある。各自治体で異なる情報システムについて、国主導の下で集約化に取り組むとともに、行政機関・自治体間の情報連携を進めなければならない。

さらに、総務省が進める「連携中枢都市圏構想」「定住自立都市圏構想」、まち・ひと・しごと創生本部が各自治体に策定を促す「地方版総合戦略」について、一体的推進・運用を図るべきである。例えば、第二期まち・ひと・しごと創生総合戦略においては、1,741の市区町村それぞれに地方版総合戦略の策定を促すのではなく、むしろ各地域が主体的に広域連携を目指せるよう、両構想で策定された圏域の戦略・ビジョン等をもって地方版総合戦略とすることも有効である。その際、施設の統廃合や行政機能の集約化などにも踏み込んだものとすることが重要である。

なお、地方支分部局については、分権改革を徹底する観点から、整理・廃止を進めるとともに、権限・財源移譲の受け皿となりうる広域行政体の形成を促す必要がある。

(4) 地域の主体性発揮につながる推進体制の整備

  • 地方創生に関する機関等について、整理・廃止など機能の一元化・統合化

すでに指摘した通り、地域経営は住民をはじめ、自治体、経済界、大学など各経済圏の担い手が主体となって取り組むものであり、国はサポート役、すなわち、行政手続きシステムの整備・一元化、国家戦略特区で実現した措置の全国展開など、地域が進める改革の後押しに徹することが原則である。

しかしながら現状は、関係省庁が縦割りで用意した施策を地域が選択する仕組みであるなど、中央集権的な手法が取られているのが実態である。加えて、地方制度調査会やまち・ひと・しごと創生本部、地方創生推進事務局、地方分権改革推進室をはじめ、施策ごとに対応する本部・省庁が細分化されているため一体性を欠いており、地方創生全体の責任主体もわかりにくい。

したがって、こうした機関等については、中央依存からの脱却を促し、各自治体の主体性発揮・独自施策の展開の後押しへとつなげられるよう、整理・廃止も含め、その機能に関する一元化・統合化を図るべきである。

以上

  1. 道州制については、「道州制の導入に向けた第1次提言(2007年3月28日、http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2007/025.pdf)」及び「道州制の導入に向けた第2次提言(2008年11月18日、http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2008/081.pdf)」において、その意義・目的、目指すべき姿、国・道州・基礎自治体の役割など基本的な枠組を示したところ。
  2. 指定都市、または中核市であること等、一定の要件を満たす連携中枢都市が、コンパクト化・ネットワーク化等により近隣の市町村と連携し、活力ある社会経済の維持を目指す圏域。
  3. 人口5万人程度以上等、一定要件を満たす中心市が都市機能を、近隣市町村が生活機能を確保するなど相互に役割分担し、連携・協力することにより、圏域全体で必要な機能を確保することを目指す圏域。
  4. 現行地方制度に全般的な検討を加えることを目的として、内閣総理大臣の諮問に応じ、地方制度に関する重要事項を調査審議する内閣府の審議会。
  5. 地方創生に積極的に取り組む人口10万人以下の市町村に対し、意欲と能力のある国家公務員や大学研究者、民間人材を市町村長の補佐役として派遣する制度。内閣府地方創生推進室にて所管。
  6. 定住自立圏に取り組む市町村、もしくは条件不利地域を有する市町村に対し、地域独自の魅力や価値の向上等につながる業務に従事することとして、三大都市圏に所在する民間企業等の社員を一定期間派遣する制度。総務省にて所管。