Policy(提言・報告書) 国際協力  戦略的なインフラシステムの海外展開に向けて -2019年度版-

2020年3月17日
一般社団法人 日本経済団体連合会

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Ⅰ.総論

現在、わが国では、デジタル革新と多様な人々の想像・創造力の融合によって社会的課題を解決し、価値を創造する社会「Society 5.0」の実現に向けた取り組みを官民一体で展開している。経団連でもデジタル技術を活用したSociety 5.0を通じて、国連の掲げる持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)を達成する「Society 5.0 for SDGs」を提唱し、デジタルソリューションの社会実装によってその推進に取り組んでいる#1

とりわけエネルギー、交通、情報通信、上下水道等の基盤インフラは、人々の生活および経済活動の基盤である。「Society 5.0 for SDGs」の達成を通じた包摂的で持続可能な安定と繁栄のため、わが国が有するハード・ソフト両面の高い技術力やノウハウを活かしながら、各国・地域の質の高いインフラの整備に貢献することは極めて重要である。同時に、各国・地域の経済成長等に伴い今後も世界のインフラ需要は拡大し続け、また、新興国・先進国を問わずインフラの維持管理更新ニーズも増大する見通しであることから、わが国の持続的な経済成長の実現に向け、旺盛なインフラ需要を中長期的な視点に立って戦略的に取り込んでいくことが不可欠である。

こうしたなか、日本政府はインフラシステムの海外展開を国の重要な成長戦略・国際戦略の一つとして位置づけ、経協インフラ戦略会議が策定した「インフラシステム輸出戦略」(2013年5月)で掲げた「2020年に約30兆円のインフラシステム受注」の目標達成に向けて、各種支援ツールの充実等の具体的施策を推進するとともに、その進捗状況を踏まえ、同戦略を毎年度改訂し各種施策の拡充を図っている。

昨年度以降、日本政府ならびに各機関では、首脳会談や国際会議等の機会を捉えた強力なトップセールスや戦略的対外広報、各国政府・機関との関係構築等とともに、受注拡大に向けた戦略的取り組みの充実策として、運営・メンテナンス(O&M)ビジネス拡大に向けた公的金融の活用や第三国連携の推進、「質の高いインフラ」の国際スタンダード化や新たなファシリティの導入等を実施している。これらにより、インフラシステム受注額は着実に増加するなど大きな成果を上げており、経団連は政府の取り組みを高く評価している。

今後とも、「経協インフラ戦略会議」を司令塔とした省庁・関係機関の連携・協力と官民連携の一層の推進の下、強力なトップセールスや戦略的な情報収集・発信の強化、予算措置の拡充と制度改善の推進等を図るとともに、近年のデジタルトランスフォーメーションの進展に伴う経済社会の急速な変化等を踏まえ、デジタル技術を活用しつつ各国・地域の社会的課題・ニーズ等に的確に対応していく必要がある。同時に、激しさを増すインフラ事業の獲得競争を勝ち抜くとともに、Society 5.0 for SDGsの達成に貢献するため、日本が国際的なリーダーシップを発揮しながら、質の高いインフラシステムの普及促進に努めることが求められる。

経団連としても、インフラシステムの海外展開に取り組む会員企業の要望に基づく提言を取りまとめており、政府の戦略改定による一層の充実した各種施策の支援を得ながら、質の高いインフラシステムの海外展開を通じたSDGsの達成にわが国政府とともに強力に取り組んでいきたい。また、日本政府によって新たに策定される、2020年以降のインフラシステム海外展開に関する新戦略の取りまとめにおいても、本提言内容が反映され官民の連携が一層推進されることを期待する。

Ⅱ.インフラシステム受注拡大に向けた要望

(1)日本政府・各府省庁等

① 強力なトップセールスとホスト国からの情報収集の強化

インフラシステムの海外展開を推進するためには、日頃からホスト国政府・関係機関に対し、日本の優れた技術やノウハウ、多様な公的支援メニュー等の広報と情報発信を戦略的に行い、受注獲得につなげていかねばならない。とりわけ、首脳・閣僚会談や国際会議・展示会等の機会を捉え、質の高い日本の製品・サービスの活用を働きかけるトップセールスをさらに強力に展開していくことが重要となる。従前より多彩で積極的なトップセールスは、国家レベルの大型プロジェクトをはじめとする受注獲得に大きな実績を上げており、これを高く評価するとともに、こうした流れが継続することを期待する。

また、トップセールスが効果を上げ質の高いインフラの海外展開を一層推進していくためには、ホスト国の実状やニーズ等の的確な情報を適時適切に収集することが重要である。同時に、こうしたホスト国の実状やニーズを踏まえたマスタープランの策定を積極的に提案し、様々な課題を総合的に解決できるトータルソリューション#2を提供していくことも競争力強化に不可欠である。今後とも在外公館や関係機関の持つホスト国とのネットワークを最大限に活用した情報収集や上流段階からの関与・働きかけの強化と、これらの情報の企業関係者との交流の定期的開催等を通じた迅速な提供等を期待する。

② 予算措置の拡充および制度改善の推進

インフラシステムの海外展開の更なる推進には、「経協インフラ戦略会議」を司令塔として、政府開発援助(ODA)や公的機関による支援等の経済協力ツールを充実・総動員するとともに、これらの相互連携による総合力の発揮が重要である。そのため、外務省予算をはじめFS事業費、招聘・人材育成費等の各省予算等のODA事業費を十分に確保するとともに、重点市場や重点分野を適切に選択するなど、その戦略的な活用が引き続き不可欠である。ODA等の公的支援ツールと民間資金・民間投資との連携も重要である。

同時に、ビジネスのスピードへの対応を意識し、各種施策の迅速化措置を徹底するとともに、ニーズに応じた制度の拡充にも取り組むべきである。とりわけ、迅速化措置を徹底するうえで、準備調査等実施機関が実施する個々の業務に対する主務大臣等の関与の在り方については、改めて「独立行政法人の業務運営は主務大臣が与える目標に基づき各法人の自主性・自律性の下に行われるとともに事後に主務大臣がその業務実績について評価を行う」#3との独立法人制度の趣旨に基づき実施機関の自主性を尊重するよう見直すべきである。

③ デジタル技術を活用したインフラ整備の促進

世界的なデジタル化の進展に伴い、インフラシステムについてもデジタル技術の活用への関心が高まっている。デジタルテクノロジーは社会インフラや経済システム全体に大きな変革をもたらすようになることから、デジタル技術や新たな技術を積極的に活用することで、より包括的かつ経済的な社会インフラの整備が可能となり、SDGsに示されるような社会課題の解決と人々のQOL(Quality of Life)の向上につながる。現地の社会課題を解決し価値を提供する新たなインフラシステムを社会実装するためには、ビジネスモデルの転換が重要であり、ステークホルダーと共に現地の社会課題を解決する協創型のアプローチに加え、MaaS(Mobility as a Service)、IaaS(Infrastructure as a Service)等のデジタルをベースとしたサービス型やサブスクリプション型へと変化していくことが予想される。こうした変化を捉え、経団連が進める前述の「Society 5.0 for SDGs」の実現においても、デジタル技術を活用したイノベーション推進とソリューションの提供を通じた質の高いインフラ整備が一層重要となる。

その推進においては、イノベーションを生み出すヒト、モノ、カネ、技術、データ等の主要要素が国境を越えて自由に移動し得る国際環境が不可欠である。わが国は、信頼ある自由なデータ流通(Data Free Flow with Trust:DFFT)の促進はじめ、これらの国際ルールの形成において主導的な役割を発揮することが求められる#4。また、日本の技術基準と規格の戦略的・体系的な整備と海外展開・国際標準化、特にアジア諸国等への基準・規格の戦略的展開推進の取り組みも重要である#5。同時に、海底ケーブル等の信頼できる安全なデジタルインフラの整備も重要であり、特に民間のみではリスクが取り切れない案件等においては、こうしたハード面の整備も関係国の官民が連携して推進すべきである#6

経団連ではデジタルトランスフォーメーション推進に向けた各種取り組みを進めており、デジタル技術を活用したインフラ整備においても、デジタルトランスフォーメーション会議等、他のデジタルトランスフォーメーションに向けた経団連活動との連携を図り、政府の取り組みに反映させていく所存である。また、現在、経団連と独立行政法人国際協力機構(JICA)では、デジタル技術を活用したインフラシステムの海外展開を推進すべく、日本企業の有するデジタル技術を活用した各種ソリューションとJICAが実施する政府開発援助(ODA、円借款、技術協力、民間支援各種調査等)を組み合わせたメニューブック(「Digital Development Strategy under Society 5.0 for SDGs(仮称)」)を作成しているところである。今後、このメニューブックを活用し、提案企業にメリットがあるように、日本政府による政策対話やJICAのネットワークを通じたホスト国への採用の働きかけを検討しているところであり、各省庁・関係機関の他の支援措置を含め、広範な官民連携の取り組みへの発展を期待している。

加えて、デジタル技術をはじめ、高度な技術や独創的なアイデアを有するスタートアップなどの現地パートナーが多彩な事業を展開している国・地域も少なくない。こうした現地パートナーと連携・協創活動を強化するなど、当該国・地域の多様な社会的課題の解決に資する革新的なビジネスを創出する官民連携の取り組みも重要である#7

④ 質の高いインフラ推進に向けた国際的なルール整備・標準化

「質の高いインフラ」が評価され、ホスト国での導入を促進するためには、わが国政府が、質の高いインフラ整備の推進に向けた国際的なルール整備・標準化にイニシアティブを発揮することが重要である。

わが国は2016年にG7議長国として「質の高いインフラ投資の推進のためのG7伊勢志摩原則」を取りまとめるとともに、2018年11月のAPEC貿易・投資委員会において、「APECインフラ開発・投資の質に関するガイドブック」の改訂を主導し、インフラの質を確保するための5要素#8を明記した。2019年6月のG20大阪サミットにおいても、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」が首脳間で合意されており、これら日本政府による一連の成果を評価している。すでに、ベトナム、インドネシアでは、APECガイドブックを活用したキャパシティ・ビルディング支援が行われており、今後とも、首脳、閣僚、実務担当者等あらゆるレベルでの対話と人材交流等を通じて、質の高いインフラの理解促進を図るとともに、各国における具体的な制度整備を継続して働きかける必要がある。

その一環として、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」に類似する原則を満たすプロジェクトを認証する制度作り(「Blue Dot Network(BDN)#9」)が検討されており、その進展により質高インフラの包摂的な国際スタンダード作りと関係国際機関等による活用・普及促進に貢献することが期待される。

また、輸出信用ルールについては、OECD諸国に加えて中国等も参加する「輸出信用に関する国際作業部会(IWG)」において、非OECD諸国を含めたルールの策定に向けた議論が行われており、閣僚会議での共有やターゲットイヤーの設定等により、議論の加速と実効性の強化が求められる。

これらの取り組みを通じて、開放性、透明性、経済性、債務持続可能性等が確保された、先進国、新興国、被援助国の全てのパートナーが裨益する「質の高いインフラ」の国際スタンダードの策定・普及を粘り強く推進すべきである。

⑤ 第三国市場連携を通じた競争力の強化

コスト競争力の強化やビジネス機会の拡大、政治・治安リスクの低減等を図るうえで、わが国企業と関係国・企業が、第三国市場において双方の有する強みを活かして相互補完的に連携・協力することも重要である。すでにこれまで「日米戦略エネルギーパートナーシップ」、「日米第三国インフラ協力官民ラウンドテーブル」、「日中民間ビジネスの第三国展開推進に関する委員会」、「日中第三国市場協力フォーラム」、「アジア・アフリカ地域における日印ビジネス協力プラットフォーム」等、第三国市場における連携の強化に向けた枠組みの整備と今後の展開に関する議論が行われてきた。また、2018年11月、日米豪政府は、「インド太平洋におけるインフラ投資に関する三機関#10パートナーシップ」に関する共同声明を発表するなどの取り組みを進めている。

今後とも、「自由で開かれたインド太平洋(Free and Open Indo-Pacific:FOIP)」の下、官民の連携により、開放性、透明性、経済性、財政健全性等の国際スタンダードを前提に、日本企業のビジネス機会を確保したうえで、第三国を含めた三者がwin-win-winとなる案件の具体的な形成を期待する。同時に、質の高いインフラ整備等を通じた第三国の経済・社会基盤整備や地域の安定と繁栄に貢献すべきであり、第三国連携に対応した公的支援の充実を図るとともに、パートナー国との緊密な対話促進とわが国企業との情報共有を通じ具体的案件の創出を一層促進すべきである。

⑥ 幅広い分野におけるインフラの展開

日本政府では、IoTやAIなど高度なICTを活用した取り組みを積極的に推進している。デジタル・ICTを活用することでホスト国における社会的課題・ニーズに対応するなど、今後一層のインフラシステムの海外展開が期待できる主要分野として次が挙げられ、より充実した官民連携の推進を期待している。同時に、組成段階からハードインフラ整備業界等(コンサルタント、土木・建設、エンジニアリング等)、IT業界(電機・電子、システムベンダー等)ならびに商社等が連携し、業種横断的に取り組んでいくことが求められる。

ア)スマートシティ

2019年10月に「日ASEANスマートシティ・ネットワーク官民協議会#11」が発足し、省庁横断的に取り組む体制が構築されたことを評価する。これらを通じた取り組みを継続・強化するとともに、他の国・地域へ同様の枠組みを展開することなどを通じ、関係省庁と産業界の継続的な連携、ワンストップ窓口の創設、スマートシティに関するデータ整備の強化および同データの民間活用が一層進展し、具体的案件の組成につながることを期待する。

イ)セキュリティ

あらゆる場面でITとの融合が進む中、サイバー空間の秩序や安全の確保のためのサイバーセキュリティ対策の重要性は増している。こうした治安・セキュリティ分野においては、生体認証(顔・虹彩認証、指紋・掌紋認証、静脈認証等)、行動検知、街中監視システム等、わが国企業が優れた技術・ノウハウを有しており、有償・無償資金協力・技術協力等を通じたこれらの活用推進により、各国における安全の確保と向上への貢献が期待できる。

ウ)ロジスティクス

ホスト国における経済・産業活動の発展と活発化により、また、電子商取引市場の拡大やサプライチェーンのグローバル化の進展により、ICTを活用した倉庫やコールドチェーン物流運営事業等、より高度で効率的かつ生産的なロジスティクスへの需要が高まっている。こうしたニーズに応じて、先進的なロジスティクス・システムの海外展開が期待されており、一層の官民連携による案件形成・受注獲得が求められる。

エ)農業

世界人口の増加に伴う食料需要の拡大や新興国を中心とする経済発展による生活水準の向上を受け、農産物の収量拡大や安全かつ良質な食へのニーズが高まっている。とりわけ、農業を主要産業とする国々では、農業の生産性向上と高度化が重要な課題となっており、ICTを活用した農業生産の増大や効率化等の営農支援、知的財産権保護に留意した日本品種の野菜・果物の栽培等を含む植物工場・温室の販売促進、流通・販売の高度化等への支援の充実が求められている。

オ)エネルギーインフラ

人口の増加や経済成長に伴う産業活動の拡大・生活水準向上への関心等の要因により、各国・地域におけるエネルギー需要が増加するなか、より効率的で環境に配慮した電力インフラを整備し、より広範なエネルギーアクセスを提供することが求められている。OECDルールの下、高効率発電設備を含めホスト国のニーズに応じた多様な選択肢を提供するとともに、気候変動に対応した再生可能エネルギーの導入拡大やLNG関連インフラの整備等に貢献していくべきである。また、各国の人口分布や電力ネットワークの整備状況等によっては分散型エネルギー供給システムの構築が効果的なソリューションとなることから、こうした事業を実現するための支援の拡充も望まれる#12

⑦ 安全対策の一層の拡充

海外において事業活動を推進するうえで、安全の確保は最も重要な課題の一つである。わが国政府には、各国の治安当局等との連携強化を通じ、迅速な情報収集・分析および民間企業への情報提供の一層の強化を要望する。現在、外務省を中心に海外進出企業向けの安全対策セミナー等が開催されており、こうした取り組みをさらに推進し、海外安全対策の能力向上を図る必要がある。

(2)ODA(円借款、無償資金協力、技術協力)

ODAはインフラ海外展開における主要な支援措置として積極的に活用され、これまでも大きな成果を達成してきた。今後も更なる活用拡大の観点から、既存施策の周知・活用促進とともに、民間のニーズを踏まえた制度の新設・拡充が求められる。併せて、企業が計画的に入札に参加できるよう、中長期的な支援計画や重点分野の明確化等とともに、入札スケジュールの平準化や各種手続きの可視化、簡素化・迅速化が強く求められる。

① O&Mにおける円借款と無償資金協力の利用拡大

近年のインフラ整備をめぐる厳しい競争環境の下で、わが国企業が有する強みを活かす形でインフラプロジェクトの経営および運営・メンテナンス(O&M)に参画することの重要性が高まっている。こうした状況に対応するため、昨年来、インフラプロジェクトにおけるO&M単体に円借款適用を可能にする等の制度改善が実現した。すでに、円借款で整備したインフラのメンテナンス契約終了後の対応が課題となり日本企業が改めて補修・更新する事例#13や、他国企業が整備したインフラの更新・能力向上を目的としたO&Mを日本企業が行う事例#14等での活用も進みつつあり、高く評価している。今後、設備・機器の導入および人材育成や技術移転、O&Mを一体的に実施する案件に加え、更新期を迎えるインフラの増加が予想されることもあり、上記事例も含め様々な形でのO&M円借款の一層の活用促進とともに、無償資金協力によるO&Mへの支援#15の拡充を期待する。

併せて無償資金協力について、設計変更に関する執務参考資料(2018年12月)の確実な実施とそれに伴う追加的なコンサルティング費用の予算措置とともに、複数通貨契約制度導入を引き続き要望する。

② ハイスペック借款、STEP等の周知と充実

2016年5月のG7伊勢志摩サミットにて「質の高いインフラ投資の推進のためのG7伊勢志摩原則」を取りまとめたことに基づき、「質の高いインフラ」の推進に資すると特に認められる案件に対し、譲許性の高い円借款を供与する「ハイスペック借款」制度が創設されており、その活用拡大に向けた周知・普及促進が期待される。併せて、質の高さを担保するために、入札時には実績や公共機関の証明書等の提出による証明を求めることが期待される。わが国の優れた技術・ノウハウを活用した「顔が見える援助」の重要なツールである円借款・本邦技術活用条件(STEP)についても、同制度および日本製品・サービスの優位性についてホスト国の理解促進に努めるとともに、各国のニーズを踏まえつつ制度の充実を図り活用拡大につなげるべきである。その一環として、2018年12月に「原産地ルール」と「主契約者条件」が改訂されたことを評価しており、今後の実施状況や関連業界の考えを総合的に踏まえた更なる改善策を必要に応じ検討するとともに、より自由度の高い「顔が見える援助」の新たな仕組みの導入促進が期待される。

③ PPP支援の拡充

ホスト国の財政面での制約等を背景にPPP(Public Private Partnership)へのニーズが高まっている。その推進に向けて、ライフサイクルにわたる経済性や信頼等を総合的に評価する入札制度の導入等の関連制度の整備や官民の適切なリスク分担#16の徹底をホスト国政府に働きかけるとともに、PPP促進に資する支援策を強化すべきである。例えば、PPP案件に関連する周辺インフラをODAでファイナンスするなどODAと民間投資をパッケージ化し面的に整備する案件(いわゆる「ハイブリッド型PPP」)の推進などが有効である#17。ミャンマー・ティラワ特別経済区事業やモンゴル・新ウランバートル国際空港事業などはこれらの好例であり、現地の雇用創出を通じた経済社会の発展に貢献している。こうした事例を拡大するためのマスタープラン策定の提案・参画等の具体的戦略を関係機関が連携して立案・推進すべきである。また、VGF(Viability Gap Funding)円借款やEBF(Equity Back Finance)円借款等の支援策の周知や利点の発信に努めつつ、その活用をホスト国政府に働きかけるとともに、無償資金協力予算の増額を図り、これら制度の無償化の検討が求められる。為替リスクを低減するための現地通貨建て資金支援制度を図ることも重要である。

(3)JICA海外投融資等

日本企業による積極的な事業投資を望むホスト国は多く、PPPインフラ事業など民間企業等が実施する開発プロジェクトへの支援策とし、JICAのPPP-F/S調査、SDGsビジネス支援制度、JICA海外投融資等は、極めて有益である。とりわけ海外投融資業務は、民間企業等が行う開発効果の高い事業を資金面から支えるものであり、近年のプロジェクトの大型化・複雑化による資金規模の確保やその効率的な活用が求められるなか、JICAが世界銀行グループ(WBG)、アジア開発銀行(ADB)、米州開発銀行(IDB)、米国海外民間投資公社(OPIC/現・国際開発金融公社(USDFC))、アフリカ開発銀行(AfDB)、欧州復興開発銀行(EBRD)などの国際開発金融機関と連携し、競争力のある資金供与を積極的に立案・実施していることを評価する。今後とも、予算・人員の充実により、JICA海外投融資が積極的に供与されるとともに、国際開発金融機関等と連携した質の高いインフラ整備が促進されることを期待する。

また、JICA海外投融資の対象は、「既存の金融機関による貸付け又は出資では事業が成立しないことが認められること」とされ、実質的にJBICに先議権が認められている。近年のインフラ整備をめぐる厳しい国際競争環境の下で、案件の迅速な実施が死活的に重要となっているなか、JBIC特別業務とJICA事業の境界(デマケーション)が不明確になっている印象もあり、案件審査・手続きに遅延が生じている。こうした状況を踏まえ、審査・手続きの一層の迅速化および予見可能性の向上を実現すべく、JBICの先議権を見直し、企業側が案件に応じてJICA海外投融資とJBIC投融資の利用を柔軟に選択できるよう制度改善を行うべきである。

(4)JBIC投融資

JBIC投融資は、民間企業等によるインフラ整備に対する重要な支援手段である。その機能強化の一環として、2020年1月に2つのウィンドウ#18からなる新たなファシリティ「成長投資ファシリティ」が創設されるとともに、株式会社国際協力銀行法施行令の改正(2020年1月施行)によりJBICの支援の対象となる先進国向け事業が追加されたことを高く評価する。引き続き、わが国の経済・産業競争力向上に重要な分野への柔軟な支援の強化を期待するとともに、従来型よりもリスクの高い案件を含めた一層の支援機能の強化を期待する。

① 金融支援メニューの多様化

今般の政令改正によって新たに支援対象となった、水素、蓄電、空港・港湾、植物を原料とする化学製品は、日本の特長である技術とアフターサービスを統合して活かすことができる分野であり、質の高いインフラ投資の展開の推進と日本の持続的な経済成長に資するものである。また、将来的なリファイナンスを前提とするファイナンス(ミニパームローン)に対応した融資の実施を評価するとともに、引き続き、様々なインフラプロジェクトへの柔軟な資金提供を可能にするため、支援メニューの多様化が求められる。具体的には、エクイティやシニアローンの補完的な役割を果たすメザニン・ファイナンスの拡充、借入れリスク低減に資するノンリコースのプロジェクトファイナンスの拡充、オフグリッド事業のような小規模・分散型案件への対応に向けたクレジットライン型融資の創設等が期待される。

② 国際協調融資の促進

国際共同プロジェクトや第三国連携を推進するためには、各国輸出信用機関(ECA: Export Credit Agency)や国際開発金融機関との協調融資を促進することが有効である。「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向け、JBICが米国の国際開発金融公社(USDFC)、豪州の外務貿易省(DFAT)等の政府系金融機関とともに具体的な案件組成を推進していることを評価している。今後とも円滑な国際協調融資に支障が生じないよう、各種手続きのさらなる迅速化・簡素化#19が求められる。

③ リスクテイクの拡充

特別業務勘定#20の対象が拡大され、リスクテイク機能が強化されたことを評価するとともに、専用相談窓口の設置(2018年5月)を歓迎する。一方、個別案件を持ち込んでも対応可能か明確にならないことがあることから、特別業務の運用に関する具体的な指針等の整理・共有や相談窓口の積極活用を通じた特別業務勘定の活用拡大を期待する。インフラプロジェクトのリスクを低減するため、ホスト国の政府保証がないサブ・ソブリン向けの融資についても対応の強化が期待される。

④ 現地事業への支援強化

現地法人を主体とする事業が拡大しており、かつ一部の国・地域のプロジェクトでは現地通貨建てのファイナンス組成が求められるケースが増えている。金融為替制度が発展しておらず、為替ヘッジが出来ない国向けの投資において、外国為替変動リスクを低減するような仕組みの構築が求められる。

(5)日本貿易保険(NEXI)等

① NEXI

NEXIは民間企業が輸出や海外事業におけるリスクを軽減する上で重要な貿易保険を提供しており、リスクの高いインフラプロジェクトへの民間企業の参画を促すために不可欠である。2017年4月の特殊会社化以降、運営の機動化・効率化とともに各種機能強化の実現が進んでいる。

2019年8月に東京で開催されたTICAD7の際には、NEXIとアフリカ貿易保険機構やイスラム開発銀行等との連携による、輸入費用およびプロジェクト融資の100%をカバーする新スキームの構築が合意されるとともに、同年12月には、インフラ整備に機関投資家を含めた民間資金をより一層呼び込むためのインフラファンド向けの貿易保険スキーム等が創設された。また、ミニパームローンに対する貿易代金貸付保険および海外事業資金貸付保険の引受等が行われており、これらの機能強化を評価するとともに、更なる制度・運用・手続等の強化・改善に向けた継続的な取り組みを期待する。とりわけ、ホスト国側が負担すべき頭金15%をカバーするスキームが創設されたことは画期的であり、こうした仕組みが他の地域にも展開されることを期待する。

併せて、中小企業(コンサルティング企業)向けの技術提供保険の柔軟な適用、建設工事の特性を考慮した利便性の高い包括保険制度の創設、政府保証のない案件に対する融資への付保の強化、為替変動リスクへの信用補完供与の強化、金利スワップ保険特約の運用改善(適用要件の緩和等)、海外投資保険および海外事業資金貸付保険における契約違反特約の積極的な引受等の改善などが望まれる。

② その他の独立行政法人等

各種の独立行政法人が所掌する分野別では、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)による投資対象の拡充#21や、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による国際実証事業のプロセス効率化およびホスト国政府機関との交渉への支援強化が必要である。また、海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)による郵便事業のICT化の推進および大容量・高速ネットワークを下支えする海底ケーブルプロジェクトに対する一層の支援拡大、海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)による対象セクター#22への積極的な支援と対象の拡充等が期待される。さらに、地域別の取り組みでは、アフリカ・インフラ協議会(JAIDA)による具体的な案件形成の一層の強化が求められる。

Ⅲ.ホスト国の課題解決に向けた日本政府への要望

(1)ホスト国における各種トラブル解決への支援

わが国企業とホスト国政府・発注機関等とのトラブル(税金問題、現地政府負担事項の不履行、工事代金支払遅延等)の解決においては、わが国政府・関係機関によるホスト国側への要望の申し入れなど継続的な支援が不可欠である。

税金問題については、円借款における交換公文等で免税条項が明記されていない事例、明記されている場合でも現地政府が課税と解釈する事例や現地の税務当局が認識していない事例、還付手続に時間を要する事例、また、現地政府負担事項(用地買収、住民移転、工事に必要なユーティリティ(電力、水道等)の確保、労働ビザ・滞在許可証の発行、通関、自己負担工事等)の不履行によるプロジェクトの大幅な遅延等の事例が往々にして発生している。さらに、ホスト国政府・現地関係機関において、プロジェクトに必要な予算が確保されていないことに起因する工事遅延および支払い延引や、事業予算と入札価格の乖離による入札不成立も発生している。このため、わが国政府・関係機関から、交換公文等における免税措置担保の徹底、免税措置が担保されない場合における企業負担の軽減措置の検討#23、免税項目・免税措置の明確化や工事契約前のホスト国側関係機関(財政・税務当局、発注者)への周知徹底を求めるとともに、現地政府負担事項の詳細化や必要な予算の確保、履行スケジュール等の明確化や履行状況のモニタリング等を通じて、履行徹底を働きかけるなどの取り組み強化を強く要望したい。

(2)法制度整備およびビジネス環境改善

インフラプロジェクトを着実に推進するため、ホスト国の各種制度の安定性、透明性、予見可能性の確保とともに、外資規制、送金規制、過度なローカルコンテンツ要求、当該国民の雇用義務等の緩和・撤廃が不可欠である。官民一体となり、これらホスト国のビジネス環境の整備・改善とともに、ライフサイクルコスト等を総合的に評価する入札制度の導入等を、中央政府はもとより地方政府や関係組織等を含めて粘り強く働きかけていかなければならない。

加えて、現在は現地保険関連法により、本邦保険会社による本邦企業への直接付保ができないことから、保険証券の発行遅延による工事開始の遅れや、保険金の遅延・未払い、現地保険会社の引き受け不可(設計・制作瑕疵等)等により、プロジェクトに遅延が生じるケースが起きている。また、契約者が現地保険会社に保険料を支払った場合でも、外貨送金規制により本邦保険会社に再保険料が支払われず再保険契約が失効するケース、あるいは保険金を現地通貨で受領しても、外貨送金規制により本国に送金出来ないため、ホスト国内で使用せざるを得ないといった事例が生じていることから、これらを解決するための方策の検討が求められる。

併せて、各種プロジェクトの円滑な遂行に向け、紛争が生じた際に迅速に解決が図られるよう、紛争裁定委員会設置の義務付けと裁定の順守および紛争発生時の仲裁制度の整備・改善、とりわけ紛争解決手段として公正中立な仲裁廷の採用、また仲裁裁定の尊重と的確な執行も望まれる。

(3)人材招聘と人材育成の強化

日本の質の高いインフラシステムへの理解を促進して受注獲得につなげるためには、ホスト国の政府高官や若手官僚等の人材招聘を一層戦略的に推進することが求められる。例えば、日本企業は経済産業省・海外産業人材育成協会(AOTS)やJICA等の人材招聘スキームを通じて、ホスト国のカウンターパートとの連携強化や信頼関係の構築がなされていることを多としており、これらの事業規模の拡大・受け入れ人材の増大が強く期待される。

加えて、ホスト国における人材育成に向けた取り組みも必須である。特に、現地でのオペレーションを担う人材の育成強化は急務であり、併せて、法制度整備や評価能力向上に関する専門家の派遣等の更なる強化が求められる。また、競合国との差別化を図るべく、相手国の実情に寄り添った提案ができるよう、在外日本大使館の「インフラプロジェクト専門官」による案件の適切な形成支援も重要である。

以上

  1. 提言「Society 5.0-ともに創造する未来-」(2018年11月)
  2. 有償・無償資金協力・技術協力の有機的連携、EPC(Engineering, Procurement, and Construction)とO&M(Operation and Maintenance)のパッケージ化や、ODAとPPP等民間投資のパッケージ化等。
  3. 総務省(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/gyoukan/kanri/satei2_01.html
  4. WTOやFTA/EPA等の包括的ルールおよびデータローカライゼーション規制の撤廃促進や新領域(MaaS等)のルール整備への初期段階からの参画。
  5. 例えば、日本の通関システム(NACCS:Nippon Automated Cargo and Port Consolidated System:輸出入・港湾関連情報処理システム)については、官民連携してベトナム、ミャンマー等への海外展開が図られており、これらシステムのAPEC諸国への面的展開などが挙げられる。
  6. 現在、日・米・豪・アジア諸国をつなぐ日本~グアム~豪州光海底ケーブル事業が進められている。JICT(株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構)などが最大4,450万米ドルを出融資。建設は米資本の光海底ケーブル専門事業者が請負。
  7. JICAではカンボジアやルワンダにおける現地起業家の育成等、具体的な協力事例も出てきている。また、経団連は、経済産業省、JETRO等と連携し、インドネシアのスタートアップ企業と「オープンイノベーション・ミートアップ」を共催予定。
  8. ①開放性、透明性、財政健全性および開発戦略との整合性、②安定・安全・強靭性、③経済性と市場活用(LCCを含む費用対効果)、④社会環境配慮、⑤質の高い地域の発展(雇用創出・能力構築および技術・ノウハウの移転)。
  9. 2019年11月のインド太平洋ビジネスフォーラムにおいて、日本:株式会社国際協力銀行(JBIC)、米国:海外民間投資公社(OPIC/現・国際開発金融公社(USDFC))、豪州:外務貿易省(DFAT)が発表。
  10. 日本:株式会社国際協力銀行(JBIC)、米国:海外民間投資公社(OPIC/現・国際開発金融公社(USDFC))、豪州:外務貿易省・輸出信用機関(EFIC)。
  11. 日本のスマートシティの推進技術や経験等をASEAN各国に情報発信し、相手国との官民双方の関係構築を図り、相手国・都市での案件組成を推進することを目的とする。
  12. オフグリッド事業拡大への資金支援の強化(クレジットライン設定型の海外投資金融の創設等)等。
  13. フィリピン・マニラMRT3号線(借款金額:381億100万円)(2018年)
    https://www.jica.go.jp/press/2018/20181108_01.html
  14. ウズベキスタン・電力セクター能力強化事業(フェーズ2)(借款金額:366億2,100万円)(2019年)
    https://www.jica.go.jp/press/2019/20191220_20.html
  15. 事業・運営権対応型無償資金協力
  16. 例えば、需要によらず事業者のパフォーマンスに応じて支払いがなされる方式(アベイラビリティ・ペイメント方式)の採用。米国の道路PPPでは、利用者からの通行料金収入に応じて事業者に対価が支払われるのではなく、事業者のパフォーマンスに応じて公的セクターの財源(税金)から支払いがなされる仕組みとなっている。
  17. 例えば、IPPでの発電事業では、送配電網の整備の遅延により民間のIPP事業が滞る事例があることから、円借款等で送配電網を整備するなど。
  18. 「質高インフラ環境成長ウィンドウ(QI-ESG)」(質の高いインフラプロジェクトを対象)および「海外展開支援ウィンドウ」(日本企業による海外M&A、グローバル・バリュー・チェーンの再編等を対象)
  19. 競争入札案件に於けるインディケーション提示時期の早期化、要求項目の簡素化等。
  20. 勘定全体で収支相償原則を満たすことを前提に、個別案件ごとの償還確実性は問わない勘定。
  21. 例えば、LNGプロジェクトでは、探鉱・開発の上流事業に加えて、受け入れ基地建設等の中下流事業が想定される。
  22. 廃棄物発電、上下水道関連、病院等。
  23. 契約企業が不利とならないよう、納税額が円借款に含まれ、現地政府によって負担や還付がなされることを明記する等。