Policy(提言・報告書) CSR、消費者、防災、教育、DE&I  新型コロナウイルス対策に関する緊急提言

2020年3月30日
一般社団法人 日本経済団体連合会

新型コロナウイルス感染症のパンデミックに伴い、企業活動や人々の日常生活は一変した。感染拡大を抑制するための移動制限や生産活動の停止は、ヒトやモノの動きを急激に停滞させ、グローバル規模のサプライチェーンを毀損するなど、世界経済に大きな打撃を与えている。世界の分断を回避し、国際的な連携・協調を強めていく必要がある中、各国は、トレードオフの関係にある感染拡大の防止と経済活動の維持を同時に達成するという重い課題に直面している。

近代社会において例のない深刻な事態を打開するため、我が国においてもリーマン・ショック時の対策と同等規模以上の機動的な財政出動を求めたい。その際、先行き不透明な中、追加措置も含めて様々な局面に応じた措置を適時適切に講じること、また、真に困窮する就業者や事業者への重点的支援を念頭に置いた対策としていくことが重要である。さらに、日本経済の将来に必要不可欠なデジタルトランスフォーメーションに集中的に投資し、デジタル技術の活用と新たな規制体系の構築によってSociety 5.0の実現を急ぐことが求められる。なお、今次の対策において、消費税減税は適切ではない。これら方針に基づき、具体の対策を以下の考え方により策定すべきである。

第一は、即効性かつ実効性ある対策の必要性である。まずは、科学的根拠に基づき、国・地方自治体が広域レベルで連携のとれた情報発信を日々行うことで国民の不安払しょくに努め、国民の適切な行動を促すべきである。また、ワクチンを始めとする治療薬の早期開発・普及を目指し十分な資源を投入しつつ、パンデミックを終息に導くことが望まれる。仮に緊急事態宣言が発動される場合にあっては政府要請に従うことは当然のことながら、社会機能維持を中心とする経済活動が過度に萎縮しないよう、政府の見解に基づく具体的な目安を示す必要もある。さらに、金融・資本市場の安定化に向けた国際連携・協調も欠かせない。これらを含めこの間の危機対応として、国民生活の安心・安全を担保するための政策を総動員し、官民挙げて事態の収束を図るべきである。

第二は、パンデミック終息後の潜在成長率に回帰するための施策展開の在り方である。東京オリンピック・パラリンピック延期に伴う影響も見極め、効果の高い消費喚起や投資拡大のための施策を最善のタイミングで全面的に展開すべきである。

第三は、Society 5.0の実現に向けた未来社会への投資である。デジタル革新投資、環境・エネルギー/SDGs投資を促す施策や、国・地方を通じたデジタル・ガバメントの実現など、社会変容を促進する施策を間断なく着実に講じるべきである。

経済界は、医療従事者をはじめとする関係者の昼夜を問わない尽力を多としつつ、この難局の一日も早い収束を目指し、自らも率先して行動する。以上を踏まえ、下記により政府に対して個別の対策内容を提言するとともに、経済界の取り組みを発信する。

Ⅰ.具体的措置要望

1.当面の危機対策

雇用の維持・事業継続
  • 観光等影響の大きな業種や中小企業の事業継続支援、キャリア自立支援等の観点から、雇用調整助成金の特例措置の拡大・柔軟な運用。
  • 資金繰り支援
    • 新規・既存融資に関わる各種保証機関・制度(信用保証協会、セーフティネット保証制度)における保証料の実質無料化。
    • 新型コロナウイルス対策枠のマル経融資、地方自治体による制度融資等における利子補給を通じた実質無利子化。
    • 公的金融機関による資金繰り支援等、資金繰り対策の拡充(業種・業態、地域の実状に合わせ民間金融機関の活用も含めて柔軟に)。
  • 行政機関による定期調査・検査の延期や申告書類の提出期限の延長など事業法令の弾力的運用(①医薬品、衛生用品、食糧・食料、燃料等の安定供給、②電気・ガス・水道・公共交通・運輸、金融・決済システム、報道、通信等のライフライン継続確保、③医療サービスの着実な提供など社会機能維持に必要な事業体を中心に)。
  • 労働関連法令の弾力的運用(定期健診の特例の延長、放射線業務・除染業務等に常時従事する者を除く特殊健診の特例等)。
  • 人手不足への対応(休業等で影響を受けた者の中で希望する者の農業現場での積極的活用の検討等)。
  • 医療機関・福祉施設・消毒清掃業者へのマスクや防護服、消毒液等、不可欠な資材調達の支援や国産化に伴う完全自動化設備導入への助成。
  • 重要物資の輸送従事者(外航船員、海外航空貨物便乗員)の隔離措置の適用除外を含めた緩和や外航船の乗員交代円滑化など国際物流機能の維持に向けた措置(国際ガイドラインの早期策定を含む)。
税制支援
  • 国税通則法を確実に適用するなど法人に係る法人税及び消費税等の申告・納付期限の延長。税務調査の時期も申告・納付期限の延長を踏まえて後ろ倒し(納付の延長に際しては、利子税・延滞金を課さない)。
  • 災害損失の定義にあてはまるかどうかに関わらず、中小法人に関しては、欠損金の前2年間の繰戻還付を認め、中間申告での還付を可能に。特定の大法人についても同様の措置を許容。
  • 中小企業の固定資産税の減税の拡充。
  • 影響の大きい航空・鉄道等運輸業や観光・サービス産業等に対し、継続的な事業運営担保の観点から、固定資産税や航空機燃料税等の還付・課税の減免・課税の繰り延べを実施(納付の延長に際しては、利子税・延滞金を課さない)。
  • 中小企業のテレワーク対応の支援措置。
  • イベント等がキャンセルされた場合の税制優遇措置の整備。
  • 特別貸付に係る印紙税の非課税措置の実施。
デジタル化
  • テレワーク導入に対する設備助成の拡大。
    • テレワークのためのIT化、電子データ化への支援。
    • 時間外労働等改善助成金(テレワークコース、職場意識改善コース)の拡充(パソコン、タブレット、スマートフォンの購入費用を含める)。
  • 遠隔医療(初診を含むオンライン診療・服薬指導)の推進・規制緩和、遠隔医療にかかる設備投資への支援。
  • 労働法令対応時における遠隔化(リモート化)の普及促進や労務管理のデジタル化の促進支援。
  • 遠隔教育の推進に向けた教育用端末一人一台の早急な整備。
  • 物流ロボットの導入の補助、無人搬送車導入助成等の設備投資助成。
  • エンタメライブ、スポーツイベントなどVR等を活用したライブ配信の推奨、必要な財政支援。
  • 駅構内の人流分析・混雑状況の可視化促進に向けた「カメラ画像利活用ガイドブック」の周知・徹底、事例の充実及び政府の相談体制整備。
貿易円滑化等
  • 世界税関機構(WCO)から提示された医療用品等に対する関税の暫定的撤廃および各国への働きかけ。
  • 上記医療用品等の増産ならびに治療薬・ワクチンの開発・試験・製造・流通に必要な人の移動の円滑化。
  • 新型コロナウイルス感染症対策として採用された貿易制限措置の早期撤廃・透明性確保に向けた各国への働きかけ。
国際貢献
  • ワクチンや治療薬の開発協力・支援、罹患者への速やかな投与への貢献。 ODA技術協力のスキームを活用した、感染拡大防止のためのベストプラクティスの途上国への共有(キャパシティ・ビルディング支援)。
  • 途上国における医療・衛生管理に関する重要インフラの整備協力。

2.終息後の潜在成長率に回帰するための施策展開

消費喚起
  • 個人消費を下支えしうる大胆な支援策(割引方式、現金給付、商品券配布)、特に影響の大きい業界(旅行・宿泊・飲食・エンタメ等)・地域での利用につながる効果的な支援措置(特に被害が大きい地域の支援につながるよう、訪日外国人も対象とする「ふっこう割」を参考とした費用補助(旅行クーポンの配布)の実施等)。
  • マイナポイント上限額引き上げによる消費の活性化。
税制支援
  • 生産性向上に資する幅広い設備への投資に係る減税措置(税額控除・特別償却等)の創設。大企業も含め償却資産に係る固定資産税を縮減(とりわけ新規投資分)。
  • サプライチェーンのレジリエンスを高める税制措置の創設。
  • 欠損金の繰越控除制度の拡充や大企業に係る繰戻還付制度の復活。
  • 自動車に関する需要の下支えに資する自動車関係諸税の軽減。
  • 住宅部品の納入遅延等への対応や住宅需要の下支えに資する住宅ローン減税の拡充措置(令和2年12月末まで)等の住宅取得支援策を早期に延長。
  • 住宅取得資金贈与特例の拡充。
  • 土地・建物等に係る固定資産税の負担軽減を検討。
  • 個人版ふるさと納税制度の返礼品における旅行券等の還元率にかかる要件緩和。
地域経済の活性化
  • 地方百貨店を含む中小・個人の小売・流通事業者への支援。
  • 国内観光需要創造に向けた官民キャンペーンの実施(風評被害対策等含む)。
  • 国際交流の復活に向けた新たな検疫のあり方の検討と国際的な仕組みづくりを進め発信。
  • 国産農水産物の消費拡大促進(生産基盤の強化、物流・流通網の高度化・効率化、農泊など観光等他産業との連携推進、直売所で利用可能な商品券の配布等)。
  • 農林水産物輸出拡大に向けた国際基準との適合化推進及び各種認証取得支援。
貿易投資の拡大
  • WTOの機能強化、EPA/FTAの推進などを通じた自由な貿易投資の実現。
  • G20における貿易投資の拡大に向けた課題の特定と解決策の提示。
国際的イベントの成功
  • 2021年における東京オリンピック・パラリンピック大会の完全な形での実施に向けた機運醸成・諸施策の実施。

3.Society 5.0の実現に向けた未来社会への投資

デジタル化
  • デジタル・ガバメントの推進
    • 国と地方自治体を通じたデジタル3原則の完遂及び個人情報保護法制の一本化。
    • マイナンバーカードの普及加速(運転免許証一体化を含む)・義務化とインフラとしてのマイナンバー制度の徹底活用(緊急時の物資対策やマイナポイントと連動した給付での活用)。
    • 各種資格制度の更新手続のデジタル化(講習のオンライン化等を含む)。
    • 輸出入関連の申告手続き等をはじめとする各種申請手続きの完全デジタル化、オンライン化。
  • 医療(ヘルスケア)分野のデジタル化
    • 医療情報の完全電子化・標準化。
    • マイナンバーカードと個人の投薬情報や受診状況の紐づけ。
    • 介護データベースの構築。
    • 個人のライフコースデータをつなぐIDの整備とその活用。
    • Personal Data Store(PDS)の構築とメディカル・ブロックチェーンでの分散管理。
    • EHR(Electronic Health Record)、PHR(Personal Health Record)の整備(全国保健医療情報ネットワーク)。
    • 保健医療データプラットフォームの整備。
    • NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)等のオープンデータ化の推進、民間利用の拡大。
    • 次世代医療基盤法(オプトアウト等)の運用改善。
  • EdTechの普及
    • 習熟度に応じた授業の推進と学びの履歴を記録する仕組みの構築・活用。
    • EdTech向けの教員研修の拡充。
    • ITの活用や探究型学習に関する人材の確保のための制度整備(外部人材の活用を含む)。
    • 個別最適化学習に必要なデータ収集・連携・活用ルールの策定。
    • 全国学力調査結果等の教育データの開示。
    • 教育単元のコード化、学習者IDによるデータの連携。
    • EdTechによる校務支援。
  • データ利活用の基盤整備
    • DFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)/大阪トラックの具現化に向けた取り組み強化。
    • 国・地方を通じた公共データのオープン化、標準化の推進(機械判読可能かつ二次利用可能な形のオープンデータ化、社会基盤となる台帳類のデジタル化、地方公共団体の公共データのオープン化の取組みへのさらなる努力や国によるサポート)。
    • 学習済みモデルの流通・再利用の促進(AI)。
    • データ連携基盤の構築。
    • 個人の納得・信頼を前提として企業が個人データを活用できる個人情報保護法制の整備。
    • デジタル・プラットフォーム事業者の振興。
    • サイバーセキュリティ対策の強化に向けた人材や技術への重点投資。
    • データローカライゼーション規制の撤廃。
    • 企業間取引のデジタル化(特に中小企業における共通EDI化)支援。
  • デジタル技術活用による物流の省人化・最適化の推進。
    • サプライチェーン統合プラットフォームの早期構築。
    • IT投資(ロボット導入等)への支援強化。
    • 隊列走行やドローン等革新技術実装に向けた研究開発・インフラ整備の促進
    • 港湾におけるAIターミナル早期実現等
  • スマートシティモデル事業への大胆な予算措置。
税制支援
  • 研究開発税制の拡充(控除上限、試験研究費の範囲等)。
  • 経済社会のデジタル化に資する税制措置の創設等。
    • 非対面・遠隔サービス(テレワーク、遠隔医療等)を促進する設備に係る投資等への支援措置の創設。
    • 経済社会のデジタル化を支えるインフラの整備への支援。
  • 経済の落ち込み後もM&A等を促進する観点から、自社株式を対価としたM&Aに応じた株主について株式譲渡損益の繰延措置を本則化。
  • 都市再開発・再生プロジェクトに対する支援措置の拡充等。
投資拡大(社会インフラ整備等)
  • 高いストック効果が期待できるインフラ(大都市圏環状道路等)の早期整備。
  • 大都市圏交通網のボトルネックの解消(環状道路の整備、公費による電線類の地中化、踏切の解消(立体交差化)、Wi-Fi拠点の整備等)。
  • 防災・減災の観点からの老朽化した社会インフラ整備の前倒し。
  • 送配電網など電力投資拡大に向けた環境整備。
  • 脱炭素社会の実現に資するイノベーションの官民一体での推進。
地域経済の活性化
  • 地方分権改革の推進(権限・財源の移譲、柔軟な資源配分の可能化)、地域の主体性を発揮しうる特区制度への転換。
  • 関係人口の拡大・二地域居住の振興・支援。
  • 政府機関の地方移転。
  • リニア新幹線・整備新幹線の整備前倒し。
  • MICE、ブレジャー、ワーケーションの推進に向けた環境整備(コロナの影響の大きかった地域に焦点)。
  • 農業への最先端技術の活用・実装を可能とする規制緩和(ドローン、無人トラクター等)。
  • フードバリューチェーン構築の加速(6次産業化や技術・商品開発の推進・支援策の拡充、物流・流通網のデジタル化による高度化・効率化・生産性向上、農林水産物輸出インフラの整備等への支援)。
スタートアップ
  • 起業環境の整備。
  • 大企業とスタートアップの連携促進に向けた施策展開。
  • 公共調達等の拡大、海外展開支援の強化、起業家人材の育成、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の拡大・継続、海外ベンチャーキャピタルからのリスクマネー獲得拡大に繋がる効果的支援。
  • スタートアップ情報データベースの整備。
研究開発投資
  • 政府研究開発投資の「対GDP比1%」目標の着実な実行。
  • 政府開発投資の質の向上のため「選択と集中」から「戦略と創発」への転換。
  • 戦略と創発の充実に向けたイノベーションエコシステムの構築。
  • 若手研究者の無期雇用の確保。

Ⅱ.経済界の取り組み

1.雇用を守り、柔軟な働き方を拡げる

社員の雇用の維持を最優先に対応する。仮に当面の業務がなくなった場合であっても、他業務等への配置転換はもとより、雇用調整助成金の活用により、休業、出向等を命じながら雇用の維持に万全を期す。また、仕事がない期間について、社員には積極的に教育訓練を勧奨し、自らの強みを磨く機会を積極的に提供するなど人材投資を行う。

新卒採用については、第二の就職氷河期世代を作らないよう、全力を尽くす。採用情報発信の透明性を上げつつ、エントリーシート締切りの延長や、ウェブサイトを活用した説明会や選考、スケジュールの弾力化など様々な工夫により最大限柔軟に対応し、納得ある就職活動が全うできるよう手を尽くす。

時差通勤やテレワーク等、時間や場所に縛られない働き方、学び方を推進する。あるいはサテライトオフィスで就業可能な情報機器やネットワークの整備を進める。

併せて、経団連企業行動憲章を踏まえ、新型コロナウイルス感染症の拡大により影響を受ける下請事業者等との取引の適正化を行うよう努める。

2.未来社会を創造する

企業は、人的・資金的など様々な社内リソースを十分に活用しながら、経済社会の仕組みを抜本的に変革することで、Society 5.0の実現を目指す。経団連、東京大学、GPIFの共同研究報告書(「ESGの進化、Society 5.0の実現、そしてSDGsの達成へ」:2020年3月)の中の試算によれば、革新的技術の社会実装への投資(15年間の累積で約850兆円)により、Society 5.0が実現すれば、新たな付加価値が継続的に250兆円超生まれる。投資分野はスマートシティー、ヘルスケア、モビリティ、ものづくり、フィンテック、エネルギー・環境等多岐にわたるが、経団連は、新たな付加価値創造への挑戦を促す規制・制度改革や必要となる社会基盤の整備に全力を挙げて取組み、未来社会の創造をリードする。

3.官民挙げた取り組みの推進

企業はこれまで政府並びに地方自治体からの要請を受けて、様々な新型コロナウイルス対策に協力してきた。今後も経済界は政府・地方自治体と共同して迅速に動く。

以上