Policy(提言・報告書) 科学技術、情報通信、知財政策  AI社会実装アーキテクチャー検討会 中間報告書
「我が国のAIガバナンスの在り方 ver.1.0」に対する意見

2021年2月12
一般社団法人 日本経済団体連合会
デジタルエコノミー推進委員会
AI活用戦略タスクフォース
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AIは人類規模の課題を解決する可能性を秘めており、経団連が目標として掲げるSociety 5.0を実現するうえで中核となる技術である。このようなAIの潜在力が最大限に発揮されるためには、企業をはじめとする利用者が、AIをその進歩にあわせて迅速かつ戦略的に利用できる環境の整備が必要である。

こうした観点から、AI社会実装アーキテクチャー検討会が公表した中間報告書に対し、下記のとおり意見を述べる。

全般

  • 本中間報告書では企業ガバナンス・ガイドラインの作成に代表される企業の取組みに焦点が当てられているが、AIおよび学習データを企業が活用できるよう環境を整備し、わが国全体でAIガバナンスを推進するうえでは、地方公共団体を含む政府全体のAIガバナンスが極めて重要である。
  • 公共の福祉に資するデータを保有する・保有し得る主体の責任に関しても明記すべきである。特に、積極的なAIの活用で社会問題を解決するために、政府・自治体が、データの整備と利活用を推進するため具体的に行動をする責務に関して明記すべきである。
  • 発展を続けるAI技術の社会実装を推進するには、技術の発展に応じたリスクベースのマネジメントが望ましい。したがって、法的拘束力のある横断的な規制を導入せず、柔軟な対応を前提とする法的拘束力のないガイダンスを前提とするアプローチを採用した「我が国にとって望ましいAIガバナンス」の方向性に賛同する。
  • 規制を重視するAIガバナンスが国際的な潮流とならないよう、日本が非拘束的なガイドラインを基にしたAIガバナンスを進めることには意義がある。日本のデータ利活用を促進するためにも、規律と産業活性化のバランスが取れたガイドラインにすべきである。
  • 今後、本中間報告書をもとに、多様な視点からの検討に基づき十分に具体的なガバナンス・ガイドラインを取りまとめることを期待する。
  • AIガバナンス・ガイドラインは、経済産業省が策定した「DX時代における企業のプライバシーガバナンスガイドブックver1.0」と同様の観点を多く含むことから、位置づけを整理しつつ検討を深めることが求められる。
  • 本中間報告書にはAIガバナンスを実践すべき主体・客体が明記されていない。今後策定されるガイドラインでは、それぞれの取組みについて、実施することが想定されている主体が誰であるかを明示し、当事者が直面する課題に応じた対応を支援することが望ましい。

2.AIガバナンスをめぐる国内外の動向
E.国際的な調和とレイヤー間の協調(17~18ページ)

  • 企業のグローバルな事業展開を阻害することのないよう、国際的な規制調和を重視することに賛同する。ただし、AI原則に含まれる価値観は地域や文化によって異なり得ることから、画一性を過度に追求せず、わが国は自らの価値観を踏まえたAIガバナンスを検討することが重要である。
  • 本報告書やガイドラインに基づく実践により国際的な水準のAIガバナンスを達成できることを明らかにするため、本報告書の内容が国際的な趨勢と調和していることを示すべきである。
  • わが国のAIガバナンスを検討するうえで、AI技術の社会実装を先行して進めている国の状況に関する分析が必要である。

3.我が国のAIガバナンスのあり方
B.ステークホルダーの意見(20~24ページ)

  • 日本政府と諸外国行政機関との連携や情報収集も必要であることを明記すべきである。
  • AIシステムの開発・運用に際しては様々な主体が関わることから、それぞれの主体が担う役割に応じて持つべき認識を明確化すべきである。とくに、AIサービスの提供者(AIシステム発注者)とAIシステムの開発者(受注者)を明確化した記述や、AIサービスの提供者とAIシステムの運用者が異なる場合に対する言及が必要である。

(1)産業界の意見(欧州委員会に寄せられた意見)(20~21ページ)

  • 欧州委員会のAI白書における「ハイリスクAI」を定義し規制するのは現時点で時期尚早であるという産業界の意見#1を明記すべきである。

(2)本検討会とヒアリングにおける指摘(21~23ページ)

  • 「日本のコーポレートガバナンスは、・・・(中略)・・・利害関係者(ステークホルダー)にも配慮するという特徴は今でも失われていないとの指摘があるところ」という箇所について、国際的にマルチステークホルダーとの対話・配慮を重視した新しい資本主義の形を模索している#2状況を鑑み、これまで日本の産業界が重視し続けてきたマルチステークホルダー主義を主軸に据え、SDGs実現などを含む持続的な成長に向けた環境整備が必要であるといった前向きな表現とすべきである。

C.我が国にとって望ましいAIガバナンス(25~28ページ)

  • リスクベース・アプローチやゴールベース・アプローチでAIガバナンスを進めるにあたっては、AIに関する各府省庁の施策との整合性を取りつつ進めることが必要である。経済産業省は、本報告書の提案に基づいて、各府省庁に対して法改正や運用の改善等を働きかけるべきである。

(1)法的拘束力のない企業ガバナンス・ガイドライン(25~27ページ)

  • 25ページの図において大規模企業に求められると記載されている「AIマネジメント」が具体的に何を示すか、明確にすべきである。併せて、小規模企業における「AIマネジメント」が書かれていない理由を記載することで、大規模企業、小規模企業それぞれに求められるAIガバナンスの相違を明確にすべきである。
  • 策定されるガイドラインの要求内容を企業が満たしているか客観的に評価する仕組みを作る場合、あくまでも企業自身の行動を促すことを主眼に置き、企業がガイドラインのすべての項目への対応を事実上強制されるようなことがないようにすべきである。併せて、政府内で同様の仕組みが乱立しないようにすることが求められる。
  • AIシステムを構築するために必要となるデータの利用を規律する場合、既存の法令の適用を原則としたうえで、AIに特有の規律が必要となる場合には、法的拘束力のある規制を導入するのではなく、非拘束的なガイドラインによって適切に規律されることが望ましい。

(4)個別分野にフォーカスした規制(28ページ)

  • AI技術の社会実装を目指すうえでは、AI技術によって代替される部分が現行の規制や業法に関わる場合こそ、ゴールベースおよびリスクベースのアプローチを行うことが重要である。
  • 国民生活に身近な健康・医療や教育の分野でのAI利用を加速するためには、わが国全体での取組みが必要であり、企業自身の取組みに加え、政府による環境整備も重要である。

D.今後の課題
(1)非拘束の中間的なガイドラインを利用するインセンティブの確保(29ページ)

  • 非拘束の中間的なガイドラインの利用を促進するため、ビジネス上の利用や意義を周知することや、「AIシステムの政府調達先を決める際にAI原則を尊重している企業に加点する」というようなインセンティブを付与することに賛同する。
  • AI原則やその前提となるデータガバナンス体制の構築が進んでいないわが国では、「DX時代における企業のプライバシーガバナンスガイドブックver1.0」と一体的にAIガバナンス・ガイドラインを周知広報することが第一に必要である。
以上

  1. AIはあくまでツールであり、それ自体がハイリスクという考え方は適切でない。リスクは、技術自体ではなく、その使い方や運用者によってもたらされるのであり、「ハイリスク応用」や「ハイリスク運用者」を定義する方がより適切である。ハイリスクAIを定義すれば、定義された領域における技術開発の萎縮が懸念されることから、定義・規制を行うのは時期尚早である。(経団連「White Paper on Artificial Intelligence: a European approach to excellence and trust への意見」より)
  2. 経団連では「企業行動憲章-持続可能な社会の実現のために-」(2017年)や「。新成長戦略」(2020年)をとりまとめ、株主利益の尊重のみならず、マルチステークホルダーとの対話を通じた価値の創造と持続可能な成長の重要性を掲げている。また、2021年1月の世界経済フォーラムでステークホルダー資本主義の重要性が主要テーマとして取り上げられるなど、国際的な議論も日本の産業界の姿勢と軌を一にしている。