Policy(提言・報告書) CSR、消費者、防災、教育、DE&I  新型コロナウイルスワクチン接種に関する緊急提言 -ワクチン接種の加速と集団免疫獲得による早期の経済再生に向けて-

2021年6月1
一般社団法人 日本経済団体連合会
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新型コロナウイルス感染症の拡大から1年以上が経過した。これまでの間、医療従事者はもとより、政府・地方自治体、そして全ての国民が一丸となって感染拡大防止に取り組んできたことに、改めて敬意を表したい。

変異ウイルスの流行等を背景とする全国的な感染拡大は、様々な業種に大きな経済的打撃を与え、国民生活は今なお厳しい制約下にある。

この暗いトンネルを抜け出す方策は、ワクチンによる集団免疫の獲得しかない。最新の知見によれば、ワクチン接種は、発症や重症化を防ぐのみならず、感染の予防にも高い効果を発揮することが明らかになってきた#1。接種が進む諸外国では、既に社会経済活動が再開されつつある。わが国としても、ワクチン接種の進展により、早期に集団免疫を獲得することで、一日も早い経済の再生、社会経済活動の正常化が求められる。

わが国でも、菅首相の強いリーダーシップの下、接種の担い手の確保や大規模会場での集団接種の実施が進むなど、既に各種の取り組みが展開されている。こうした精力的な取り組みをさらに後押しすべく、以下の通り提言する。

1.政府への提言

冬の到来までに、「集団免疫の獲得」を目指し、早急にワクチン接種体制を確立し、一気呵成にワクチン接種を進めるべき

新型コロナウイルス感染症は、呼吸器疾患であることから、寒く乾燥する冬季に流行しやすい。実際、昨年末から本年初にかけて、全国的に感染が急拡大したことは記憶に新しい。こうした点を踏まえ、冬が到来する前に集団免疫を獲得し、一日も早く社会経済活動を正常化すべきである。

具体的には、冬の到来までに、国民の7~8割の接種が完了する形で集団免疫の獲得を目指し#2、そこからバックキャストしてワクチン接種を一気呵成に進めるべきである。現在、わが国政府は「7月末までに65歳以上の高齢者ワクチン接種を完了し、9月末までに全国民に2回接種が可能なワクチン全量の供給を受ける」というタイムスケジュールを示している。ここに、「冬の到来までに集団免疫を獲得する」という明確なゴールを設定することで、バックキャストしながら、より具体的なロードマップを描いていくべきである。

こうしたワクチン接種に関する将来見通しを描き、感染症からの出口戦略を示すことは、国民や苦境に立つ事業者に、安心感と将来への希望をもたらす。集団免疫の獲得が社会経済活動の正常化につながることは明らかである。政府は、接種体制の整備とともに、ワクチン接種の意義をわかりやすく説明し、特に、政府が承認したワクチンは、高い効果を誇り、重篤な副反応の少ないものであることを、科学的知見に基づくメッセージとして発信することで、国民が進んで接種を受ける機運を高めていくことが重要である。加えて、政府は、ワクチン接種証明の基盤整備(ワクチンパスポートの発行)や、ワクチン接種後に可能となる活動やワクチン接種を受けていない方への差別や偏見につながらないようにするための留意点について、具体的なガイドラインを示すべきである。

2.経済界としての取り組み

職域接種の実施や就業環境の整備に加え、産業医の派遣、接種会場の提供等の取り組みを通じ、ワクチン接種加速と経済活性化に貢献

集団免疫の獲得に向けて、ワクチン接種を加速するためには、政府や地方自治体にとどまらず、接種のチャネルを増やすことが重要である。この点、既に各界有識者から同様の趣旨の考えが示されている#3。わが国経済界としても、ワクチン接種の加速に向けて協力を惜しまない。

具体的には、各企業における職域接種の実施に加え、従業員や従業員の家族がワクチン接種を受けやすいよう、休暇の取得促進等、就業環境の整備を行う。

また、政府や地方自治体の求めに応じ、大規模接種会場等への産業医の派遣や接種会場の提供等、国・地方公共団体のワクチン接種にも全面的な協力を行う。

さらに、ワクチン接種の進展後の社会経済活動の正常化を見据え、経済界としてもワクチンパスポートの活用をはじめとする経済活性化に向けた工夫を展開するとともに、経済界として、ワクチン接種への理解促進、職場での差別や不当な取り扱いなどが生じないよう、改めて徹底を呼びかけていく。

ワクチン接種の先に待つ、わが国経済の再生に向け、政府・自治体・医療従事者、そして国民と一丸となって、現下のウイルスとの戦いに打ち勝つ決意である。

以上

  1. 米国CDCは、ワクチン接種後(米国で認可された3種)の死亡率は、0.0001%、感染率も0.01%まで抑えられている旨、公表(2021年5月28日 西村国務大臣が記者会見で言及)。
  2. 人口の何割が免疫を持てば、集団免疫は達成されるのかについては諸説あるが、米国政府新型コロナウイルス対策チーム(ファウチ博士ら)は「7割~9割」とする見解を示している。
  3. 平野俊夫 前大阪大学総長ら(新型コロナウイルス感染症に対する提言2021(2021年5月28日))