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Policy(提言・報告書) 総合政策 夏季フォーラム2021 総括提言 ― サステイナブルな資本主義への転換を加速する ―

2021年10月1
一般社団法人 日本経済団体連合会
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従来の新自由主義は、格差の拡大、地球温暖化による気候変動、生物多様性への影響、保護主義やポピュリズムの台頭による地政学リスクの高まりや民主主義の危機などの課題を先鋭化させてきた。コロナ禍の長期化は、こうした課題を一層、増幅し、経済、社会のありように変化を迫っている。

こうした中、経団連では昨年11月「。新成長戦略」を取りまとめ、新しい資本主義のあり方として「サステイナブルな資本主義」を掲げた。その中心軸となるのが、DX(デジタル・トランスフォーメーション)とGX(グリーン・トランスフォーメーション)である。更にわが国においては、人口減少社会への対応、働き方改革や人材育成、地方創生、財政健全化、D&I(ダイバーシティ・インクルージョン)、スタートアップ振興なども重要課題である。これら諸課題を踏まえ、withコロナにあっても、Society 5.0 for SDGsの実現、サステイナブルな資本主義への転換を加速する必要がある。

また国際社会に目を転じると、米中の対立、中東情勢の不安定化など国際秩序は大きく揺らいでいる。同時に、わが国の国際的プレゼンス低下への危機感も一層高まっている。こうした中、わが国は国際協調を軸とし、自由で開かれた国際経済秩序の再構築に取組む必要がある。また、わが国の経済安全保障を官民一体で確保するとともに、価値観を共有する国々を中心に連携し、必要なルール形成を進めて行く必要がある。

折しも、日本の新しいリーダーが選出された。今こそ政治には、強い危機感を持って、リーダーシップを発揮し、短期のみならず長期の国家ビジョンを掲げ、これら諸課題を日本再生のチャンスに変えるべく、下記の取組みを果敢に進めるよう強く期待する。

経団連としても、政治と経済が車の両輪であると強く認識し、自らが社会変革の旗手となって、新たな成長の実現に向けて、一気呵成に取組む。同時に、ソーシャルポイントオブビューをもってマルチステークホルダーの要請に積極的に応え、国民各層、社会全体から支持されることを目指す。

1. Society 5.0実現に向けたDXのスピードアップ

  1. ① 生活者価値の協創(DXにより生活者が暮らしやすさを実感する社会の実現)に向け、コロナ禍を踏まえた取組みが不可欠。
  2. ② デジタル庁を司令塔として、デジタル臨調の設置を視野に、官民の密接な協力のもとに社会全体のDXを早急に進めるべき。
  3. ③ 経団連としては、生活者を含む全てのステークホルダーを巻き込みながらDXをこれまで以上に加速し、生活者価値を創造する。
  • 生活のあらゆる場面で人々の行動が変容し、B to Cはもとより、それ以外のビジネスにおいても事業環境が一変しており、DXを通じたビジネスの刷新は不可避である。また、コロナ対策における弱者支援のアキレス腱ともなった行政DXの遅れや、デジタルデバイドを含む社会のDXの遅れ等、わが国全体のDXの停滞が多様な主体の協創による価値創造を阻害し、生活者がDXのメリットを享受する機会を損失しているため、今後、将来的な変化を前提とした拡張性のあるアーキテクチャに基づく、スピード感あるサービスの提供が重要である。

  • データのさらなる利活用は死活的に重要であり、政府においては、データの生成・収集、各分野横断のデータ連携基盤の構築、公益目的のデータ利活用に関する検討等が喫緊の課題である。また、DXに関する施策を進めるうえで、国民の信頼獲得は不可欠である。セキュリティリスクへの対応・情報管理の透明性を前提に、デジタル3原則に基づく行政サービスを国・地方自治体において提供することで、生活者の利便性・アクセシビリティを高めるべき。さらに、企業の取組みを加速するうえでは、デジタル臨調の設置を視野に入れつつ、DXを阻害する規制の撤廃とともに、デジタル技術・データの利活用によってさらなる規制改革を可能にすることでDXと規制改革の好循環を築き、自律的で活力ある経済活動基盤を生み出すべき。同時に、DXに資するイノベーションへの研究開発・設備投資に関する長期間の税制優遇措置、企業の人材育成・投資促進に向けた環境整備を進めるべき。

  • 経団連としては、コロナ禍で顕在化した課題・機会を契機として、わが国におけるDXの停滞を一気呵成に挽回する。サステイナブルな資本主義実現に向けては、サプライチェーンを含む全てのステークホルダーを包摂し、格差を助長することなく行政・教育・ヘルスケア等あらゆる分野のDXを推進し、新たな製品やサービスの開発・実装を加速することで、具体的な利便性・生活者価値を目に見える形で提示する。

2. GXに向けたグリーン成長の創出

  1. ① GXによる経済社会の根底からの変革を、わが国の持続的成長につなげるべき。
  2. ② 政府は、イノベーションとその社会実装に向けて、諸外国に劣後しない規模での複数年度にわたる予算措置を含め、あらゆる政策リソースを総動員すべき。また、GXに向けた行動変容を促す手段として、成長に資するカーボンプライシングを幅広く検討すべき。
  3. ③ わが国は、地球規模でのカーボンニュートラルに向けて着実な取組を進めているところ。経団連は、「カーボンニュートラル行動計画」「チャレンジ・ゼロ」等の主体的取組を通じて、引き続き積極的な役割を果たす。
  • GXの実現には、人類とエネルギーの関わりや生産プロセスの根本的な変革、革新的製品・サービスの大規模な普及、循環経済(サーキュラーエコノミー)・自然共生社会への移行、国民のライフスタイルの転換などが不可欠となる。GXに向け、イノベーションや国内投資を喚起し、わが国の持続的成長や国民生活の向上につなげる必要がある。

  • 政府は、2030年目標や2050年カーボンニュートラルを踏まえ、GX実現に向けたロードマップを明示すべき。その上で、省エネ、再エネ、水素、アンモニア、原子力、核融合、CCUSといった分野のイノベーションとその社会実装、必要なインフラ整備に向けて、諸外国に劣後しない規模での複数年度にわたる予算措置を含め、あらゆる政策リソースを総動員すべき。また、S+3Eを大前提に、再エネの導入拡大や原子力の持続的活用を含むエネルギー政策の具体化を図る必要がある。さらに、サステナブル・ファイナンスに関する環境整備、パリ協定における市場メカニズム等の国際的なルール作りの主導・国際連携の推進・国際会議の主催、国民目線に立った情報発信や対話を通じた理解醸成も求められる。また、GXに向けた行動変容を促す手段として、成長に資するカーボンプライシングを幅広く検討すべきである。

  • わが国は、産学官連携の下、地球規模でのカーボンニュートラルに向けて着実な取組を進めているところ。経団連は、GX実現に向けた道筋を示し、そのための政策要望を取りまとめ発信すると同時に、自らも引き続き積極的な役割を果たす。具体的には、「カーボンニュートラル行動計画」を通じて、BAT(Best Available Technology)の最大限の導入による着実な排出削減を進めるとともに、「チャレンジ・ゼロ」を通じて、革新的技術の開発・社会実装、これらへのファイナンスといった企業の挑戦を後押しする。

3. 産業構造の転換を見据えた働き方、人材育成

  1. ① 自社型雇用システムの確立を図り、多様な働き手の主体性を引き出す。
  2. ② その実現のため、多様性を受容する労働法制改革を政府に求める。
  3. ③ Society 5.0に求められる能力等の向上に向けて、主体的に学び続けることが重要。産学官が連携し、目的・対象別のリカレント教育等を推進すべき。
  • ビジネスモデルや産業構造の転換が求められる中、働き方・雇用制度や人材育成・教育のあり方を新しい時代に対応するものに変える必要がある。新たな成長を実現するため、マッチング機能の強化とセーフティネットの見直しにより、円滑な労働移動を促しつつ、多様で複線的なキャリアパスの構築に向け、人々の意識や企業の仕組みを変革し、「学び」と「仕事」の好循環を確立することが重要である。

  • 政府には、裁量労働制の対象拡大など多様性を認める労働法制改革を強く求める。経団連は、Society 5.0における新たな社会での多様な働き方の実現を目指し、場所と時間に捉われない働き方をはじめ、採用方法の多様化、専門人材の採用・育成、ジョブ型雇用の活用、副業・兼業の促進、社内公募制・FA制の推進を図る。

  • EdTechの活用による個別最適な学びやリベラルアーツ教育、尖った個性や能力を伸ばし、起業家精神を育む教育が重要である。政府には、多様性の受容を基本とする教育・大学改革に加え、働き手等の主体的な学び直しに対する支援を求める。柔軟な勤務形態の導入など働き手が主体的・自律的に学び続ける環境を整えるとともに、産学官連携による目的・対象別のリカレント教育等を推進する。

4. 人口減少による社会構造の転換とサステイナブルな日本社会

  1. ① 日本においては、人口減の抑制策をとりつつ、一定の人口減少を前提とした持続可能な社会構築に向けた国家像を描き、そのためのハイブリッドな国家戦略の策定が必要。
  2. ② 人口減少下の社会保障の持続可能性を担保するためには、パイの拡大が必要である。経済界はDXの徹底的な推進や働き方改革を含めた、労働生産性向上、リスキリング教育の強化による人材高度化、積極的な投資戦略の推進等、官と学と協力しながら、持続可能な経済成長の実現に尽力する。
  3. ③ 政府においては、人口減少を前提とした持続可能な社会構築に向け、必要な規制改革や税制改革を実行し、社会構造の変革をサポートするとともに、社会保障の安定性の確保等を進めるべき。
  • わが国は国内の人口減の影響と、世界全体での中長期的な人口増の影響を受ける。人口減の抑制策をとりつつ、一定の人口減を前提とした持続可能な社会構築に向けた国家像を描き、そのためのわが国の特徴を生かしたハイブリッドな国家戦略が求められる。

  • わが国の「強み」や「特徴」を生かした国家戦略の策定によって、持続的な経済成長を実現し、パイを増やした上で、社会保障の質と量を確保していく必要。

  • 政府においては、国民に対して、社会保障制度の抱える現状と将来の見通しをしっかりと示す必要がある。足元の少子化対策とともに、出生率低下が想定より加速している現状を認識し、人口減少を前提とした国家像を示しつつ、持続可能な社会構築に向け、効率的な行政サービスの提供、必要な規制改革の実行、社会保障の安定性の確保に向けた給付と負担のバランスのとれた改革等を進めるべき。

  • 経済界は、財務リソースを活用して、DXの徹底的な推進、労働生産性向上のための設備投資、産業高度化のための技術開発の推進、産学連携による人材高度化、労働力の流動性向上に取り組む。

以上

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