Policy(提言・報告書) 総合政策  サステイナブルな資本主義を実践する -2022年度事業方針-

2022年6月1
一般社団法人 日本経済団体連合会

ロシアによるウクライナ侵略は、戦後の繁栄を築いてきた国際秩序を揺るがす、重大な危機である。力による一方的な現状変更は断じて許されるものではない。企業がグローバルな経済活動を行えるのも、自由で開かれた国際経済秩序があってこそである。わが国として、自由・民主主義・法の支配等、価値観を共有するG7諸国との結束を一層強化するとともに、各国とも連携して、世界の分断を回避し、経済、外交、安全保障を一体的に捉えた取り組みを進めていくことが肝要である。

他方、行き過ぎた株主資本主義や市場原理主義への傾注が、地球環境や生態系の破壊、格差の拡大・再生産など様々な社会的課題をもたらした。また、新興感染症の蔓延、頻発する自然災害、世界的に加速するインフレなどへの迅速な対応も求められている。さらに、資源・食糧価格の高騰を受けて、エネルギー・食料安全保障の確保が新たな課題として浮き彫りになった。

このような局面にあって、わが国経済界が為すべきは、政府が提唱する「新しい資本主義」と軌を一にする「サステイナブルな資本主義」の実践である。我々は、Well-beingの向上、Society 5.0 for SDGsの実現を目指し、産業競争力の強化を通じた成長と分配の好循環、地球環境の保全、分厚い中間層復活と公正で公平な社会の実現、有事対応への備えの視点から、下記を本年度の重点的な取り組みと位置づける。内外の情勢が激変する中、経団連は、社会性の視座に立脚した公正な意見を国内外の社会に向けて発信していく。

1.自由で開かれた国際経済秩序の再構築に向けた連携強化

  • ロシアによるウクライナ侵略には国際社会の結束した対応を求める。
  • CPTPP#1の拡大やRCEP#2協定の着実な実施・運用等を図る。
  • 経済活動の自由に留意した経済安全保障の確保#3に取り組む。
  • 地政学リスクや環境・人権等に関する国際的な政策動向を踏まえてサプライチェーンの強靭化を図り、わが国産業の国際競争力の維持・強化に努める。
  • 人権デュー・ディリジェンスの推進など人権を尊重した経営を推進する。
  • 欧米アジア等、各国の政府・経済団体との連携・対話を進め、B7・B20サミット等への主体的な参加を通じて民間外交を展開する。

2.出口戦略に向けた新型コロナ対策の実施
―パンデミックからエンデミックへ―

  • 「With コロナ」のなか、感染拡大防止と社会経済活動の両立を図る。
  • 出口戦略の策定・実行に向けて対応し、エンデミック#4対策へ舵を切る。
  • 実効ある感染症対策の推進、強靭な医療体制の構築に向けた政府・地方自治体の権限の強化等に関する法整備を働きかける。
  • 国際的な往来の本格的な再開に向け、科学的知見や諸外国の動向を踏まえた出入国管理の適正化#5を働きかける。

3.グリーントランスフォーメーション(GX)の加速

  • 経団連提言「グリーントランスフォーメーション(GX)に向けて」の実現を図り、「経済と環境の好循環」を創出し、2050年カーボンニュートラルに不退転の決意で取り組む。
  • 「経団連カーボンニュートラル行動計画」「チャレンジ・ゼロ」の取り組みを強化するとともに、研究開発を含めた民間投資を促し産業競争力の強化を図る「GX政策パッケージ」の策定を政府に強く働きかける。
  • 成長に資するカーボンプライシングについて、GXリーグに積極的に参加し知見の蓄積に貢献するとともに、海外の動向を踏まえ、わが国の産業競争力の維持・強化につながる検討を求める。
  • 円滑なトランジションも視野に、サステナブル・ファイナンスの促進に向けた国際的なルール形成への積極的な関与を働きかける。
  • アジア諸国への支援等を通じ地球規模でのカーボンニュートラル実現に取り組むとともに、海外の旺盛なグリーン需要の取り込みによる成長実現に向けて、攻めの経済外交戦略を求める。
  • エネルギー供給構造を転換する中でのS+3E#6の確保に向け、大きく変動する国際情勢を踏まえたエネルギーの安価・安定供給の維持、準国産エネルギーとして大きな意義を有する原子力の継続的利活用(既設プラントの最大限活用、リプレース・新増設、SMR(小型モジュール炉)の推進)、核融合等の新たな技術開発の促進、再生可能エネルギーの主力電源化、送配電網の次世代化などのエネルギー政策の具体化を働きかける。
  • GXとともに、循環経済(サーキュラー・エコノミー)、生物多様性、環境リスク管理等に関する取り組みを統合的に推進する。

4.デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進

  • デジタル社会の実現に向けてDXを推進し、多様な個人のWell-beingと、社会全体の最適化を両立させ、誰一人取り残さないオールインクルーシブな社会の実現に取り組む。
  • デジタル・ガバメントの着実な実現、ヘルスケア、教育等の分野におけるDXの推進とともに、生活者価値の実現に向けた企業横断協創プロジェクトの加速等に取り組む。
  • 真のデジタル完結の徹底をはじめ、デジタル臨時行政調査会による構造改革が着実に実現するよう、デジタル庁ほか関係方面に働きかける。
  • DXを阻害する規制や行政手続きの改革を個別具体的に要望するとともに、DXの推進に資する所要の税制措置を提言する。
  • DX推進の基盤としてのデータ流通の推進、マイナンバー制度の徹底活用、AI利活用の促進、サイバーセキュリティの強化に取り組む。

5.科学技術立国の実現と産業競争力の強化

  • 教育・研究の充実や先端分野におけるイノベーション創出環境の整備など、科学技術立国の実現に向けた財政面での手当てを含めた中長期的な取り組みを強化する。その一環として、研究開発税制の拡充・維持に取り組む。
  • 量子、AI、バイオ・ライフサイエンスなど、国家にとって重要であり産業競争力の強化につながる分野への集中的な資源の投下と、創発的な研究の促進に向けた若手研究者・融合分野への支援を働きかける。企業の国際競争力の維持・強化に向けて、わが国事業環境に関し、諸外国とのイコールフッティングを働きかける。
  • Society 5.0の実現に向けて、新技術の基礎研究から社会実装まで一貫した産学官による取り組みを強化する。戦略的イノベーション創造プログラムをはじめとする研究開発スキームの改革・実施に経済界として協力する。
  • 他国から信頼・共感を得るソフトパワーの発揮に向けて、エンターテインメント・コンテンツ産業をはじめとするクリエイティブエコノミーの振興に取り組む。
  • 新たな技術の社会実装を阻害する規制の撤廃や、機動的で柔軟なガバナンスを求める。とりわけブロックチェーン技術や仮想空間における新たなビジネスを慫慂する制度的枠組みの構築等を後押しする。
  • 地震・台風等の災害に関わる防災・減災、国土強靭化、復興への取り組みを強化するとともに、パンデミックなどの危機管理における国家としての体制整備、企業のBCP(事業継続計画)の実効性向上を図る。

6.スタートアップの振興

  • スタートアップエコシステムを抜本的に強化して、日本経済全体を浮揚させ、競争力を取り戻す。
  • 2027年までにスタートアップの裾野、起業数を10倍にする。そのうち成功するスタートアップが到達するレベルも10倍に高める目標を掲げ、その確実な達成に向けてKPIを設定し実現状況をモニタリングする。
  • 前項の目標を達成するため、地方発も念頭に、官民挙げて起業家教育、人材流動化、成長資金供給、税制措置、調達改革等、必要な施策を一斉に迅速に力強く推進する。
  • 大企業の人材流動化やスタートアップの成長に資する大企業との連携促進、大企業によるM&Aの拡大に努める。

7.働き方の変革と人への投資、教育改革の推進

  • 裁量労働制の対象拡大の早期実現等、労働時間と成果が比例しない働き手の能力発揮を可能とする労働時間法制の見直しを目指す。
  • 成長分野・産業等への円滑な労働移動に資する環境整備を働きかける。
  • 「学びと仕事の好循環」の確立を目指し、産学官連携によるリカレント教育・リスキリング、インターンシップを含む学生のキャリア形成支援活動等を推進する。また、新しい時代に対応した教育改革を働きかける。
  • 働き方改革の深化とともに、多様な人材の活躍を力にするダイバーシティ&インクルージョンの推進や各企業の実情に適した「自社型雇用システム」の検討を呼びかける。
  • 「人への投資」と「働き手への適切な分配」の観点から、「賃金決定の大原則」に則りつつ、賃金引上げと総合的な処遇改善に取り組むよう、引き続き働きかける。
  • 「パートナーシップ構築宣言」への参加を通じ、取引適正化を推進する。

8.地方の経済・社会の活性化

  • 地方発の持続可能な社会を目指すべく、地方のニーズを踏まえた都市部からの新たな人の流れと新たな産業の創出、質の高い暮らしの基盤の整備を推進する。
  • 「デジタル田園都市国家構想」の実現に向けて、DX・GX等の成長投資を加速する。
  • 経団連「地域協創アクションプログラム」(2021年11月)に基づき、政府・自治体・大学・スポーツ団体・文化団体等との連携を進め、魅力ある地域づくりを推進し、「地域協創」による課題解決を通じた成長を実現する。
  • 地域経済のけん引役である農業の成長産業化、輸出産業化、持続可能でレジリエントな観光産業の実現に向けた施策を検討し政府に働きかける。

9.財政健全化と全世代型社会保障・税制の改革

  • 人口減少のスピード抑制を図りつつ、人口減少を前提とした経済・社会の構築を検討する。
  • 給付と負担の在り方を含め、国民の安心・安全、持続可能性を高める全世代型社会保障の構築に向けた制度改革の実現に向けて取り組む。
  • 成長と財政健全化の両立に資する歳入歳出の改革を働きかける。
  • 企業活動の活性化に資する国内税制改正に係る提言や、デジタル経済活動の進展に即した各国間の合意に基づく国際課税ルールの見直しに向けた対応を行う。
以上

  1. 環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定
  2. 地域的な包括的経済連携
  3. 経済安全保障推進法の関連政省令についての働きかけ等
  4. エンデミック(endemic)=医療・公衆衛生で、ある感染症が、一定の地域に一定の罹患率で、または一定の季節に繰り返し発生すること。疾病の罹患者が、通常の予測を超えて大量に発生するエピデミック(epidemic)よりも狭い範囲で比較的緩やかに広がり、予測の範囲を超えないものをいう。一方、パンデミック(pandemic)は、エピデミックが世界各地で同時に発生した状態。(デジタル大辞泉より一部改編)
  5. 入国人数枠や目的による入国制限の撤廃、入国審査の効率化、到着地(空港)での検査の省略や簡素化など
  6. 安全性の確保を大前提とする、エネルギーの安定供給・安全保障、経済効率性、環境性のバランス確保