Policy(提言・報告書) 科学技術、情報通信、知財政策  次期SIPに対する意見

2022年12月1
一般社団法人 日本経済団体連合会
イノベーション委員会

次期SIPについては産業界からの期待も高く、研究開発への参画について関心を持つ企業も多い。ただし、実際にリソースを提供するにあたっては下記のとおりに具体的にクリアすべき課題がある。

また、社会実装を進めるにあたっては、研究開発の進展のみならず、先端技術の利活用の観点から規制緩和等の制度整備が併せて必要となることにも留意すべきである。

1. 課題設定

技術先行ではなく将来像(Society 5.0)からバックキャストによる課題・テーマの検討をしている点や、第2期までに見出された改善点への対策を講じている点は大きな前進である。一方、課題が抽象的で、具体的に取り組むべき研究内容が明確になっていないものもあるため、Feasibility Study(FS)の結果について、適宜の開示を求める

また、取り上げるべき領域や課題の選定にあたっては、民間企業による通常の営利活動では到底実施できないような戦略課題を国策としてリードする視点も重要である。

2. 社会実装のレベル

社会実装を加速するためには、GRL(Governance Readiness Level)、SRL(Social Readiness Level)を上げることが不可欠である。例えばサーキュラーエコノミーシステムの構築では、官民が連携して再生材料の保証・認定、利用を促進する仕組みの導入や、それらを運営する公的機関の設置などが考えられる。また、先進的量子技術基盤の社会課題への応用促進では、例えば光量子で立ち上げた開発拠点等、SIP第2期で得られた社会実装につながる成果に対して継続した支援なども考えられる。

実用化・事業化までを見据えた一気通貫の研究開発をするため、社会実装に向けた成熟度レベルの設定について、課題によっては「社会実装を目指す」レベルではなく、市場への浸透といった「社会実装されている」レベルを目標にすべきと考える。

3. アジャイルな運用による予算・人材の手当

SIPにて新たに開発される技術や知見について、協力する企業における期間内での商業利用に向けた積極的な促進のための枠組みを構築すべきである。そのための試みとして、新たな対応予算を該当省庁にて付与・発注するという予算の枠組みを構築することも考えられる。

社会実装を確実にするには、リソースを必要十分に配分する必要があり、開発段階において成果が著しいテーマでは、社会実装に取り組む段階で新たな対応のための予算や人材等が必要となるケースが想定される。当初の予算や計画の枠組みに縛られず、分野内もしくは分野横断的な流用等による予算の補充や新たな実施機関の参画などについて、迅速、柔軟に判断し、執行できる仕組みが必要となる。

特に、研究開発計画作成の段階から産業界の視点が入ることが重要である一方で、プログラム初期の基礎研究段階は事業化の見通しを立てることが難しいためにリスクが大きく、企業の参入ハードルが高い。このため、初期の費用は主に国費で負担し、社会実装が見えてきたプログラム後期以降で企業の費用負担を大きくする(段階に応じてマッチングファンドのマッチング率を変更可能にする)といった予算の柔軟な運用をお願いしたい。

4. 民間からの人的支援

民間から提供できる要員は限られているため、まずは必要とされる専門性、知見等がどのようなものかを明確にすべきである。また、人的支援を行うことに対する補償やメリットを事前に国から分かりやすく示すことが必要である。

人的・物的な貢献は、数値的指標として表に現れにくいが、企業としてはそれも投資の一環であり、その貢献も評価できるよう数値化することで、企業の人的貢献も引き出しやすくなる。人的な貢献(企業人材の投入)を通じて産学官の交流や協働も促進され、SIPの副次的な効果も期待できると考えられる。

5. 企業の利益確保

民間企業においては、当該SIPに協力するうえで、人的・物的・知的技術といったリソースの提供が必須となることから、積極的な参加を促すためには手続きの簡素化に加えて、様々な企業の経営状況を勘案することが非常に重要であり、総じて利益確保のできる民間委託方式(諸経費率など)への見直しが必須になるものと考える。その点が改善されることにより、協力体制を維持しながらの技術移転、さらには、各企業における産業化にむけた社会実装、その先には各分野の団体も含めた商業化への展開が一層現実的になる。

6. スタートアップ

第3期SIPの成果の社会実装促進とスタートアップの起業支援のために、スタートアップ特別枠の設置による支援は極めて重要である。既存の企業では、現在の自社ビジネスとの関係でSIP成果の社会実装に着手しにくい場合もあるが、スタートアップであれば、しがらみも少なく迅速に社会実装への取り組みにチャレンジできることもある。検討中の取り組み(①技術シーズの活用、②スピンアウトによる事業化、③SIP成果を活用した新事業創出等)について、スタートアップが利用しやすい実効性の高い制度設計としていただきたい。研究開発部分をスタートアップ企業が担い、実装の部分をそれ以外の企業が担うなど、それぞれが技術や知見のある分野を担うといったすみ分けができるようになることも期待する。

7. ルール形成及び国際標準化

開発した技術を広く普及させるための市場創出には、国際標準化をはじめとするルール形成に取り組むことが有効である。社会実装に向けた取組を評価する指標として、ルール形成に関する取組(国際標準化、認証等に関する有識者会議への参加)を事業採択の評価項目に加えることも検討すべきである。

8. 享受者のリテラシー向上

社会実装にあたっては、産業界側(提供側)だけでなくそのサービス/メリットを享受する側のリテラシー向上や積極的な関与が必要である。すべての人がその恩恵にあずかるための施策、特に高齢化社会の中で情報・技術リテラシーが高くない方々に対してのケアを技術・制度の両面から検討することも必要である。

9. 研究推進法人

研究推進法人は、SIPの所管省庁の管轄する研究開発法人となっているが、社会実装を見据えた事業改革や運営、資金計画などを考えると、研究機関を主体とする機関のみが必ずしも適切な組織というわけではなく、一般社団法人なども候補となりうる。適切な運営を担保するために、本格稼働の際に改めて研究推進法人の必要条件等を見直し、研究推進法人の選択肢を広げることも有用である。

10. 他の政策等(PRISMなど)との整理

PRISMや他の研究プロジェクトとの制度・テーマ面でのすみ分けが重要と考える。企業側の研究リソースも有限のため、テーマや目的の重複はできる限りの排除をお願いしたい。

第6期科学技術基本計画の推進を目的とした各省庁の施策とSIP、及び内閣府内の各施策とSIPの有機的な連携により、効果的な支援がされることを期待する。そのためには府省庁間での連携はもちろん、PDや研究開発実施者がPRISMとSIPの関係性やスタートアップ企業におけるSIPとSBIRの役割分担の整理といった、各施策の役割・関係性を理解することが必要であり、それによりSIPの成果を他の施策に継承するといった発展的な継続が推進される。

11. 情報共有のあり方

SIPの概要と研究過程の各ステップがまとめられて明示されていると企業側の理解が深まると考えられる。具体的には、全体を把握できる概念図およびスケジュール上の各マイルストンで何を行うかが簡潔にまとめられた資料を求める。特に、RFI、PD候補の公募、研究開発責任者・実施者の公募、マッチングファンド(企業に求められる資金や工数)について説明があると、企業としてどのようなアクション・負担が求められるのかが理解しやすい。

現状ではFSの内容については概要のみ公開されている状態であり、企業としては社内で参入について検討していない段階でFSの具体的な検討内容や状況について問い合わせることは敷居が高いため、途中経過の公表を求める。併せて過去のSIPでの成果についても引き続き周知を図ることで、事業化までのイメージを持ちやすくなる。

第1期、第2期の企業出身PDがSIPを通して得た知識やスキル等の共有もお願いしたい。また、参入を前提としない企業との情報交換の場を設けるなど、既存の役割以外の関わり方の検討をお願いしたい。

以上