会長コメント/スピーチ 会長スピーチ  経済社会のイノベーションを進め、日本を再興する ~経団連定時総会における榊原会長就任挨拶~

2014年6月3日(火)

1.はじめに

この度、会員の皆様のご信任を頂き、経団連会長に選任頂きました榊原定征でございます。

日本経済は、世界的な金融危機や未曾有の東日本大震災を乗り越えつつ、ようやくデフレ脱却が視野に入るところにまでまいりました。今後、日本経済を本格的な成長軌道に乗せることができるか否かは、ここ数年の政府並びにわれわれ経済界の取り組みにかかっております。このような中、経団連に寄せられる内外の期待の大きさとその使命の重さを考えますと、会長としての責任の重大さにまさに身の引き締まる思いでございます。

会員の皆様のご支援、ご協力の下に職務を全うすべく全力を傾注する覚悟でございますので、何卒よろしくお願い申しあげます。

また、米倉前会長におかれましては、東日本大震災や政権交代など、激動の4年間において、優れた識見とリーダーシップをもって経団連をリードしてこられました。この間の多大なるご貢献に、改めて、心からの敬意と謝意を表する次第でございます。

2.現状認識

ご案内の通り、安倍総理は、「強い経済」を取り戻すことを最優先課題に掲げ、大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間投資を促進する成長戦略という、「3本の矢」からなる所謂「アベノミクス」を積極的に推進され、その結果、「経済の好循環」が始動しつつあります。加えて、「日本を世界で一番、企業が活動しやすい国にする」との目標の下、積極果敢な取り組みを進めておられます。

将来への明るい展望が拓け、成長への自信が取り戻されつつある今こそ、「日本再興」の絶好のチャンスであります。この機を逃さず、真の「日本再興」を実現することは、私たちの「未来への責任」であります。

2020年には、東京でオリンピック・パラリンピックが開催されます。50年前の東京オリンピックが、わが国が経済大国となるための大きなモメンタムを提供したように、2020年のオリンピックも、21世紀の日本が、世界から信頼され、より豊かで活力に溢れる国となるための、またとないチャンスであります。2020年までの6年間は、「日本再興」の礎を築く最後のチャンスとも言えるのではないかと思っております。

3.イノベーションの推進

私は「日本再興」、日本経済再生への大きな鍵は、イノベーションにあると考えております。イノベーション、そのなかでも特に重要な技術革新は、資源に乏しいわが国が国際競争力を強化するための生命線であり、経済成長の最も大きなエンジンであります。

日本の技術力を再び世界に冠たるものに輝かせるよう、国の科学技術・イノベーション政策に呼応し、企業自身の技術革新を促進すると共に国や大学や研究機関との連携強化を進め、更には世界をリードできる高度研究・技術人材の育成に取り組むことを、私の任期中の大きな目標のひとつとしたいと思います。

われわれが大学を出て社会に出た頃、1960年代から70年代、日本は戦後の経済復興を経て、高度経済成長の真っ直中でした。企業は、欧米に追いつけ、追い越せを合い言葉に、研究開発や新製品や新事業の開発、そして工場建設に競って取組み、われわれはまさに寝食を忘れて懸命に働きました。そして日本は世界第2位の経済大国になりました。これを可能にしたのは「技術立国」日本の圧倒的な技術力と社会全体のダイナミズムでした。日本経済再生のために、今こそ「技術立国」日本の原点に立ち戻るということと、あの時代の企業のダイナミズムを取り戻すということであろうかと思います。

今こそ、企業は積極的にリスクをとって、果敢に研究開発・技術開発に挑戦し、世界に先んじて、新たなニーズを開拓し、新市場を創造する、また、率先してビジネスモデルの革新と産業構造の転換を進め、日本経済を力強く牽引する新産業・新事業を起こすこと、言うならば「未来創造型技術立国」を目指すべきであります。

もはや、足踏みをしている時間はありません。前へ、大きく踏み出すときです。われわれの活力で「日本の“強い経済”を取り戻すのだ」、「日本を前進させるのだ」、そういった気概を持って大胆に企業家精神を発揮し、リスクをとって思い切った成長路線に転換することこそ、我々経営者に課せられた責任であると思います。

私が申し上げるイノベーションには、もう一つの意味がございます。それは、政治、経済、社会など、国民生活全般にわたって、旧来の常識にとらわれず、新しい変革を起していくということです。旧来の制度や慣行と、その根底にある国民的な意識や社会的な通念をイノベートすることができれば、日本の新たな成長を牽引する原動力となるものと考えます。

たとえば、社会保障制度は、最もイノベーションを必要とする制度と考えます。現在の制度は、高度経済成長やピラミッド型の人口構成を前提に構築されたものであり、現状の延長線では、これを維持することはできません。今こそ、制度を取り巻く厳しい現実を踏まえ、この制度の改革、抜本的なイノベーションを進めなければなりません。

その人口動態問題ですが、現状のままでは50年後には日本の人口は現在の3分の2規模まで急減し、その4割が65歳以上という超高齢社会になるという極めて困難な未来が待ち受けています。この危機意識を国民各層が共有し、抜本的な対応、ここにもイノベーションが必要です。

女性の活躍推進のためにも、イノベーションが求められます。今や、女性の活躍推進は、成長戦略の要であり、これを実現するためには、意識と制度を一体として思い切った改革をする必要があります。

また、農業の競争力強化と成長産業化は喫緊の課題であり、これに向けては農地集積の推進と経営規模の拡大や多角化は不可欠であります。このためには産業界と農業界との連携・協力の拡充、これもまさにイノベーションでありますが、これを一層強化することが必要であります。

このような経済・社会のイノベーションを巻き起こすことこそ、「日本再興」に向けた、私たちの「未来への責任」であると考えます。東日本大震災の被災地の復興のためにも、大胆に経済・社会のイノベーションを進め、可能性と創造の地という「新しい東北」のシンボルを創っていかなければなりません。

4.グローバルな成長を取り込む

次に、「日本再興」のもう一つの鍵は、「グローバル経済の中で成長を勝ち取っていく」ということであります。21世紀の今日、企業活動はグローバル化し、競争はますます激化しております。このような時代においては、日本の強みを世界に果敢に発信すると共に、海外の活力・成長力を積極的に取り込むことが不可欠であります。

この観点から、特に重要な課題は、広域の経済連携の推進でございます。2020年のFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)の構築を視野に入れて、TPP、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)、日中韓FTA、更には日・EU EPAなどを主導することによってこそ、わが国企業の強みをグローバルに発信し、また世界経済の成長を取り込むことが可能になる訳です。

自由な貿易・投資環境の中で、日本企業がグローバル競争に勝ち抜くためには、国際的なイコール・フッティングの実現は不可欠であります。特に、法人実効税率の引き下げや、安全性を確認した上での原子力発電所の早期再稼働を含めたエネルギーの安定供給と経済性の確保などは、喫緊の課題であります。このことは、世界から優れた企業を日本に呼び込むためにも必要不可欠の条件です。

5.結び

既に申し上げた通り、21世紀の日本の盛衰は、ここ数年の取り組みにかかっております。経団連としても、イノベーション、特に「技術立国」日本の原点に立ち返り「未来創造型技術立国」を目指すこと、そしてもうひとつは「グローバルな成長を取り込む」、これを推進することにより「日本再興」を果たすべく全力を傾注する所存でございます。このため、経済界のみならず、広く国民が共感し支持できる「経団連ビジョン」の作成に取り掛かりたいと考えております。

また、「日本再興」を果たすために、これまで以上に政治と積極的に連携してまいりたいと存じます。そもそも、政治と経済は、活力溢れる日本を創り、豊かな国民生活を実現するための「車の両輪」であります。このため、経団連といたしましては、政治との連携を一段と強め、建設的に意見を発信するとともに、「強い日本」、「強い経済」の実現に向けて、最大限、協力していく所存でございます。

経団連は、大企業の立場だけではなく、中小企業の活動や国民生活も含めた日本経済全体の実態を踏まえながら政策提言を行い、また、その実現に向けて、日本商工会議所や経済同友会など他の経済団体とも連携を深めてまいります。地方自治体や地元経済界、農業関係者など地域経済との絆を大事にして活動を展開したいと考えます。加えて、諸外国の政府・経済界ともより活発に、そしてより戦略的に対話をし、交流してまいります。特に隣国である中国、韓国との関係はとりわけ重要であります。経団連としても両国との関係の前進を最優先課題のひとつと位置づけ、経済交流を活発に推進してまいりたいと考えております。

また、経団連に対する社会の信頼と期待を一層高め、経団連がより大きな役割を果たせるよう、自らを見直し、自らの改革にも取り組んでいかなければならないと考えております。

私は、只今申し上げたような様々な課題に真正面から取り組み、経団連会長としての責務を全うしていく覚悟でございます。会員の皆様のご理解とご協力を重ねてお願い申し上げ、私の就任のご挨拶とさせていただきます。

ご清聴、誠にありがとうございました。

以上