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会長コメント/スピーチ 会長スピーチ 「イノベーションとグローバル化の推進で日本再興を加速する」 ~共同通信社東京きさらぎ会10月例会における榊原会長講演~

2014年10月24日(金)

1.はじめに

経団連会長の榊原定征でございます。伝統ある「きさらぎ会」の講演会にお招きいただき、ありがとうございます。

6月の定時総会にて経団連会長に就任し、4ヶ月あまりが経過いたしました。この間、各種の政策課題への対応に加えて、経済財政諮問会議や政労使会議など政府の活動、また、被災地への視察や中南米、アジアへの海外ミッションなど、国内外で精力的に活動してまいりました。改めてわが国が抱える課題の多さとその重要性を実感しているところです。

経団連といたしましても、重要政策課題に真正面から取り組み、持続的な経済成長と豊かな国民生活の実現に向けて、全力で取り組んでいます。本日は山積する課題を解決し、日本再興をどのように実現していくべきか、経団連の基本的な考え方をご紹介いたします。

2.日本経済の現状

(1)経済情勢

はじめに、わが国経済の現状についてお話しします。ご案内の通り、今年4-6月期の実質GDP成長率は、消費増税後の需要の反動減や、天候不順の影響により、前期比年率7.1%減と大きく落ち込みました。しかし、先行きにつきましては、政府が公表した10月の月例経済報告の通り、個人消費などに弱めの動きがあるものの、基調的には緩やかな回復が続くと見ております。景気の先行きを過度に悲観する必要はありませんが、反動減の長期化や、輸出回復の遅れ、輸入コストの増加、人手不足の慢性化といった成長を下押しするリスクには注意が必要です。

とりわけ、駆け込み需要の反動減につきまして、足元の需要の戻りが鈍く、弱めの動きが続いています。個人消費の動向を示す「実質家計消費支出」は、前回、消費税率が3%から5%へ引上げられた1997年と比べて、大きく落ち込んでおり、注意が必要と考えております。

為替水準については、2012年秋以降、円高が大きく是正され、円安基調が続くなか、輸出は依然として伸び悩んでいます。リーマンショック後の超円高の時期に製造業の生産拠点の海外移転が進んだことや、中国をはじめとする新興国経済の成長が鈍化したことなどがその背景にあると考えられます。ただし、最近、輸出は回復傾向にあることから、この動きが続くことを期待しています。

輸出が伸び悩む一方で、原発の停止や円安によって輸入コストは大幅に増加しており、貿易・サービス収支の赤字が拡大し、経常収支も黒字が縮小しています。輸出産業の競争力強化を図るとともに、原発の再稼動プロセスを加速し、こうした状況から一刻も早く脱却すべきであると考えます。

人手不足も大きな問題となりつつあります。各産業における雇用人員の不足感をみますと、建設業をはじめとする非製造業において、人員の不足感が強まっています。また、10年前と比べて、建設、電気・ガス、教育といった分野において、若い労働者が相対的に少なくなっています。こうした人手不足の慢性化が、成長の制約要因とならないように対策を講じていくことも、国家的な課題と言えます。

このように、昨今の景気の状況は、やや力強さの面で懸念が出始めており、長年苦しんできたデフレからの脱却に向けて、まさに正念場の時にあると言えます。今こそ、政官民が総力を挙げて、日本経済の本格的な再生に取り組んでいかなければなりません。

(2)日本再興戦略改訂版への評価と今後の課題

政府では、本年6月に「日本再興戦略改訂版」を取りまとめており、これを速やかにかつ確実に実行していくためには、民間の積極的な取り組みが求められていると認識しています。この日本再興戦略には、企業の国際競争力の向上につながる画期的かつ多様な施策が盛り込まれました。企業活力の発揮を通じて国民の生活水準を高めていこうという政権の意思が強く反映されており、経団連としても、高く評価しています。

また、日本再興戦略には、大きな政治的決断を伴う施策も多く盛り込まれました。たとえば、法人税改革について、数年のうちに現在、35.64%(東京都)の法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指すとの大きな判断が下されました。さらに、岩盤規制と言われ、なかなか改革が進まなかった雇用・労働分野、農業分野、医療分野でも、改革に向けた大きな一歩が踏み出されております。ここ数年、政府では、何度も成長戦略が取りまとめられてきました。ただし、過去8年で7つの成長戦略を取りまとめながら、いざ実行するという段階で首相が変わるという事態が繰り返されました。これが経済の停滞の大きな原因ともなっています。安定政権に成長戦略を確実に実行してもらうことが重要であり、経済界としても期待しています。

今後は、再興戦略に盛り込まれた様々な施策がその趣旨に沿って着実に措置されるようフォローアップしていくと同時に、経済界としても、安倍政権の積極的な取り組みに呼応して、経済の好循環のさらなる拡大へ向けて、主体的かつ全力で取り組んでまいる覚悟です。

3.イノベーションの推進

(1)「未来創造型技術立国」の実現

その際に、重要となる視点が「イノベーションの推進」と「グローバル化への積極的な対応」であります。特に、「イノベーションの推進」は、日本再興を実現し、日本経済再生を成し遂げるうえで、まさに鍵になるものです。つまりは、従来の「技術立国」日本を越える、「未来創造型技術立国」日本を実現し、技術を基軸に日本の未来を切り拓いていくことが求められます。

この「未来創造型技術立国」という言葉には、あらゆる技術分野において日本が先頭に立って世界をリードしていくという思いを込めています。戦後の復興の時期、欧米という明確なロールモデルがあった頃は、「欧米に追いつき、追い越せ」を合言葉に、我々は新製品、新事業の開発に明け暮れました。そうしたなかで培われた技術力と社会全体のダイナミズムによって、日本は「技術立国」と賞賛され、高度経済成長を実現し、世界第二位の経済大国となりました。

日本再興のためには、こうした「技術立国」日本の原点に立ち戻り、企業・社会のダイナミズムを取り戻すことが絶対に必要です。日本企業は、より積極的にリスクをとって果敢に研究開発・技術開発に挑戦し、世界に先んじて新たな市場を創造する、あるいは率先してビジネスモデルの革新と産業構造の転換を進め、国の経済を力強く牽引する新産業・新事業を興していくことが不可欠です。私は、これこそが日本の将来を切り拓く道筋であると考えています。先般、わが国の三人の科学者がノーベル物理学賞を受賞しました。まさに「未来創造型技術立国」を先導する快挙であります。

(2)経済社会のイノベーション

  1. 社会保障・税一体改革
    日本再興のためのイノベーションは、今申し上げた「未来創造型」の技術開発のほかに、もう一つあります。それは、政治、経済、社会など、国民生活全般にわたって新しい変革を起こしていく「社会制度の革新」です。旧来の制度・慣行や、その根底にある国民の意識や社会的な通念を変革することは、日本の新たな成長の原動力となります。
    この「社会制度の革新」の具体的な例として、現在、経団連が積極的に取り組んでいる、社会保障・税の一体改革、働き方の改革、女性活躍の推進の三つを紹介します。

    まず、社会保障制度でありますが、現状において最もイノベーションを必要とする分野であると考えています。現在の制度はピラミッド型の人口構成を前提に構築されていますが、現在の1.3から1.4程度の低い出生率が続いた場合、2060年の総人口は8,000万人台まで減少し、65歳以上の高齢者が全人口の4割を占める「逆ピラミッド型」に変化します。政府では、こうした少子高齢化と人口減少を背景に、現在約110兆円の社会保障給付費が、2025年には約150兆円にまで増加すると見込んでおります。
    この状況を放置すれば、国民生活を支える社会保障制度のみならず、国家存立の大前提となる財政の持続可能性すら、危ぶまれる状況となります。将来世代に、希望の持てる明るい経済社会を引き継いでいくことは、現世代に課せられた責務であり、社会保障・税一体改革の推進は待ったなしの課題です。
    一体改革により、来年10月に消費税率が10%に引き上げられれば、14兆円の増収が見込まれます。この14兆円はすべて、医療、介護、年金、子育ての「社会保障四経費」の充実と安定化のために使われることになります。その内訳は、税率1%程度に相当する2.8兆円は、「社会保障の充実」に、残りの4%に相当する11.2兆円は、「社会保障の安定化」にあてられます。
    これら今般の一体改革は、社会保障・財政制度の持続性確保に向けた「第一歩」を踏み出すものとして評価できますが、持続可能で成長と両立する社会保障制度を構築するためには、改革のアクセルをさらに踏み込んでいくことが不可欠です。
    一体改革の推進にあたっては、当面、来年10月からの消費税率の10%への着実な引き上げ、社会保障給付の重点化・効率化、現役世代や企業が負担する社会保険料の増加の抑制、健康管理や予防など自助努力の奨励、給付・負担の変化や、国家財政・国民生活への影響などに関する国民への説明の徹底といった課題に取り組むことが必要です。
    そのうえで、中長期的な課題にも取り組んでいかなければなりません。とりわけ、社会保障の支え手となる現役世代や企業の負担能力を高めていく観点からも、経済活力の向上に資する改革が求められます。まさにイノベーションなくして実現できないものです。

  2. 働き方の改革
    2つ目の経済社会のイノベーションは、働き方の改革です。グローバル競争の激化により市場環境が大きく変化するなかで、企業が競争力を維持・強化していくためには、常に付加価値の高い、魅力ある商品・サービスを生み出していかなければなりません。その鍵を握るのが、「働き方のイノベーション」であり、労働者が持てる能力を最大限発揮できる環境づくりを進めていくことが重要です。
    この観点から、多くの企業では、恒常的な長時間労働の抑制や休日・休暇の取得促進を、経営の重要課題のひとつと位置づけ、様々な取り組みを進めています。経団連としても、こうした先進的な取り組みを行っている企業の事例を収集・共有することを通じて、会員企業・団体にその横展開を図ってまいりました。
    また、メリハリのある弾力的な働き方が可能となるよう、労働時間制度を実態やニーズに合わせて選択できるようにすることが不可欠です。とりわけ、研究職、技術職、市場調査、企画営業等の専門職・企画職に対して、十分な健康確保措置を手当てした上で、時間でなく成果で評価する仕組みを導入することや、裁量労働制の対象拡大により働き方の選択肢を増やすことが現在、強く求められています。今般、政治のリーダーシップによって、成果で評価される「新しい労働時間制度」が創設されることになったことは大いに評価でき、一歩前進であると受け止めています。

    もうひとつの働き方の改革は、外国人材の活用であります。わが国で多様な価値観や発想、能力を持つ外国人材が活躍することは、企業のイノベーション創出に貢献するだけでなく、経済社会、国民生活を豊かなものへとすることにもつながります。また、本格的な人口減少局面に差し掛かるなかで、外国人材を積極的に受け入れていくことは、日本の活力を維持する上でも喫緊の課題となっています。
    欧米の主要国は、試行錯誤を行いながら、国として必要な外国人材を幅広く、積極的に受け入れるとともに、社会統合政策を推進し、国力の維持に努めています。労働力人口の総数に占める外国人の割合を見てみますと、わが国は1%程度と極めて低い水準にあります。人口減少下における外国人材受入れのあり方について、国民的な議論を行ったうえで、諸外国の事例も参考にしながら、適切な仕組みを整備していくことが不可欠です。

  3. 女性の活躍推進
    経済社会のイノベーションを進めるためのもう一つの鍵が、女性の活躍推進です。経団連は、安倍総理の掲げる「女性が輝く社会」の実現に全面的に賛同し、去る9月12日には「女性の輝く社会に向けた国際シンポジウム」を政府と共催いたしました。
    私もパネルディスカッションに参加しましたが、その際申し上げたのは、「女性の活躍推進は、少子高齢化の下、わが国経済社会が持続的な成長を実現するための重要な成長戦略であると同時に、企業が激しいグローバル競争を勝ち抜いていくための経営戦略である」ということです。そして、その実現のためにはトップによる明確なコミットメントと強力なリーダーシップによる意識改革が不可欠であり、私自身が経済界の先頭に立って、企業トップにこのコミットメントとリーダーシップを促してまいります。
    女性の役員・管理職登用を進めていくためには、女性社員のキャリア意識や昇進意欲、キャリア形成、また、管理職層の女性部下に対する意識・マネジメント、さらには長時間労働など、多様な課題が複合的に関係しています。これを変革するためには、企業風土を様々な人が働ける「ダイバーシティ社会」へと変えていくことが急務です。全社員にこの意識を浸透させるためには、経営トップがダイバーシティの推進に向けた明確なコミットメントを行い、その達成に強いリーダーシップを発揮することが何よりも重要です。
    経団連では、4月に「女性活躍アクション・プラン」を公表し、会員企業に「女性の役員・管理職登用に関する自主行動計画」の策定・公表を要請しております。その第一弾として、7月には経団連のウェブサイト上に49社の野心的かつ実質的な自主行動計画を公表いたしました。現在、全会員企業に対して、これらの先行計画を参考に、ハイレベルな自主行動計画の策定を呼びかけており、年内にも第二弾を公開する予定です。経団連は、社会のさまざまな主体と連携しながら、女性活躍の推進を着実に実行してまいります。

4.グローバル化への積極的な対応

(1)経済連携の推進

イノベーションとならぶ日本再興の鍵は、グローバル化への積極的な対応であり、海外の活力を積極的に取り込みながら、いかにしてわが国の力強い経済成長を実現していくかが重要です。

日本企業の持つ強みを発揮するためには、物品やサービスのアクセスの自由化、投資や政府調達に係る法制度の整備、知的財産の保護、基準・認証を含む規制の調和、非関税障壁の撤廃など、国際的な貿易・投資について、包括的で高い水準のルールを整備することが急がれます。

こうした観点から、各国はFTA・EPAを推し進めており、とりわけ日本と多くの産業分野で競合する韓国は積極的にFTA・EPAを推進しています。日本は韓国に劣後することなく競争条件のイコール・フッティングを確保していかなければなりません。

他方、グローバル・バリューチェーン全体の円滑化には、二国間の経済連携では限界があることから、広域の経済連携、いわゆる「メガFTA」への注目が高まっており、現在、わが国が関係するものとして、TPP、日EU EPA、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)のメガFTA交渉が同時並行で進んでいます。経団連では、TPP、RCEP、日EU EPAの早期妥結を訴えるとともに、中期的には、TPP、RCEPを核としたアジア太平洋自由貿易圏FTAAPを2020年に構築することを提言しています。

なお、複数の交渉が同時平行的に進むなか留意すべきことは、複数の異なったルールが混在することになれば、それを利用する企業にとっては非常に使い勝手が悪く、バリュー・チェーンの円滑化という当初の目的を達成できなくなるということです。したがって、当面、先進国間のメガFTAであるTPP、日EU EPA、米EU間のTTIPのルールの調和を目指していくことが重要な課題となります。

(2)民間外交の推進

これら経済連携協定の推進と併せて、経済界として民間外交を推進し、経済交流を活発化させていくこともわが国のグローバル化の推進と国際的なプレゼンス向上に資するものであり、会長就任以来、積極的に民間外交に取り組んでまいりました。

まず、日中関係につきましては、会長就任時より、経済交流の拡大を最重要課題のひとつに位置づけて取り組んでいます。各国と中国の貿易が順調に拡大する中、日中間の輸出入はともに低迷しており、例えば、対中投資は2014年1-8月期では前年同期比43.3%減と他国に比べて大幅に減少しています。これには為替や人件費の高騰などの経済的要因だけでなく、現在の両国間の政治外交関係がもっとも影響していると考えられます。

こうした中、9月22日~25日にかけて、日中経済協会の最高顧問として訪中ミッションに参加してまいりました。日中経済協会では、1975年から毎年、訪中ミッションを派遣し、今年は40回目の節目の年となりました。89社から210名が参加し、北京で汪洋副総理ほかと懇談しました。私からは、「現状の関係打開は、両国の根本利益に沿うものである。特に、世界第2位と第3位の経済大国の関係改善はアジアのみならず、国際社会にとっても望ましい。日中間の貿易投資の停滞には政治外交関係が影響しているが、この打開が必要である。」とのメッセージを伝えたうえで、認識を共有したところです。

汪洋副総理からも、日中関係の改善に向けた強い意気込みが感じられ、日中ハイレベル経済対話を再開する意向があることに加えて、「2012年に延期された日中グリーンエキスポの再開に努力したい。日中省エネルギー・環境総合フォーラムについても、年内に開催したい」といった前向きな話をいただきました。経団連としても、今回の成果を踏まえて、中国の環境・省エネ、産業の高度化、新型都市化等の分野で協力を進め、中国経済の中速成長への転換に貢献してまいります。

日韓関係につきましては、この12月に、韓国最大の経済団体である全国経済人連合会との定期会議を7年ぶりに再開いたします。両国には少子高齢化や資源確保等の共通課題があり、こうした分野での協力を拡大し、来年の日韓国交正常化50周年に向けて、関係改善に貢献してまいります。また、政治指導者との会談にも期待しています。

また、アジア第三位の経済大国であるインドとも、ビジネス環境やインフラの整備を通じて、協力を深めてまいります。日印の経済界では、2007年以来、首脳会談に合わせて、日印ビジネス・リーダーズ・フォーラムを開催し、経済関係の強化策を提言する報告書を両国首脳に提出してまいりました。今年も、9月1日に東京にて安倍総理とモディ首相に提言を手交したところです。

5月に就任したモディ首相はグジャラート州の首相時代に電力事情の改善などのインフラ整備で成果を上げられ、その手腕が世界から注目されています。この機会に日印経済関係を一層強化するため、来年2月か3月を目途に実務レベルの経済ミッションをインドに派遣する予定です。

さらには、中南米との関係強化も重要課題であります。私は、この夏、安倍総理とともに中南米諸国(メキシコ、トリニダード・トバゴ、コロンビア、チリ、ブラジル)を訪問いたしました。官民一体となって、各国との関係強化への熱意を伝えることができ、大変有意義な訪問になりました。

中南米は豊富な資源と6億人の人口を擁するだけでなく、近年は、企業のグローバル化の重要な拠点として、また、旺盛な大型インフラの需要があることから、重要性を増しております。なかでも、メキシコ、コロンビア、チリは、わが国との関係強化を通じて、アジアとの経済連携を推進することに熱心であり、ブラジルも日本とのEPA締結に関心を示しています。現地では、各国から貿易・投資と人的交流の拡大を強く求められました。

安倍総理は中南米訪問の最終日に、「改革を進める日本を頼れるパートナーにしていただき、中南米諸国と共に発展していきたい」との強いメッセージを打ち出されましたが、経団連としても、関係委員会の活動などを通じて、中南米との経済交流を拡大してまいります。

5.地域経済の活性化

(1)東日本大震災からの復興の加速

さて、日本再興を進めていくうえで、特に取り組みを強化しなければならない課題が地域経済の活性化であり、なかでも、避けて通れないのが東日本大震災からの復興です。震災から3年半余りが経過しましたが、ご関係の皆様の懸命なご尽力によって、多くの地域で災害廃棄物の処理やインフラ復旧の目途がつき、まちづくりやなりわいの再生に向けた取り組みも進みつつあります。

しかし、いまだに24万人を超す方々が避難生活を余儀なくされており、本格復興は緒についたばかりであると思っています。特に福島県はいまだ困難な状況に置かれており、原子力事故災害の克服に向けて、国を挙げた強力な取り組みが求められます。

私も7月に石巻と女川を訪れ、現地の状況を自分の目で確認してまいりましたが、その際、地域の方々からは震災の記憶が国民各層の間で風化しているのではないかという懸念の声を数多く伺いました。改めて被災地の現実を受け止めたと同時に、本格的な復興、すなわち「新しい東北」の実現に向けて、国や自治体、経済界、NGO、国民全員が一丸となって、地道で粘り強い取り組みを継続していかなければならないとの思いを強くしました。経団連としても、震災復興を最優先課題に取り組んでおり、復興の加速に向けた基本的な考えを紹介いたします。

まず、2015年3月までとなっている集中復興期間の後も引き続き本格復興に向けて、集中的に取り組める環境を整備することが必要です。

2点目は、自立的で持続可能性の高い地域経済の再生のために必要な立地競争力と成長力の強化です。特に、復興特区制度は、多くの被災事業者の事業再建支援に貢献しているものの、域外からの投資を呼び込むという観点からは必ずしも十分に活用できているとは言えません。制度の拡充を含め、大胆なインセンティブを積極的に導入することが不可欠です。

3点目は、まちづくりです。東北全域において、まちのコンパクト化・スマート化や、地域間での連携を推進し、人口減少など将来の社会の姿を踏まえた次世代型のまちづくりに向けて、具体的な工程表を策定するべきであると考えます。

4点目は、人材不足・人口減少への対応です。被災自治体の人材不足や雇用のミスマッチなどに着実に対応していくとともに、構造的な人材不足に対して、総合的な取り組みを推進していくことが重要となります。

こうした政策提言に加えて、先日10月3日には、経団連、JAグループ、日本経済新聞社との共済で、被災地応援マルシェを開催しました。地域産品の消費拡大を通じて、被災地の本格復興を支援することを目的に、被災3県の名産品や農水産物などが販売されたほか、報道写真などの展示も行いました。当日は約3千人もの人々が訪れ、品切れするほど大いに賑わいました。復興への思いを新たにするとともに、引き続き全力で復興の加速に取り組む決意を新たにしたところです。

(2)地域活性化

  1. 地域活性化に向けた戦略
    さて、地域経済の活性化につきましては、安倍改造内閣が地方創生を最重要課題の一つに掲げているように、被災地のみならず全国共通の課題です。ここで、経団連の地域活性化に向けた取り組みについて紹介します。
    わが国の多くの地域では、若年人口の流出や雇用のミスマッチ、域内市場の縮小、高齢化による後継者問題、生産拠点の海外移転に伴う企業数の減少などが進行しています。このような状況を打開し、地域の活力を取り戻すためには、これまでのように地域の外から資本を導入するだけではなく、地域自らが地域固有の資源を活用して自身の活力を向上させていくとともに、地域外との活発な交流を通じて、自身の自立的な発展を促していくことがより重要になると思われます。

  2. 農業の競争力強化・成長産業化
    具体的な地域資源の活用としては、地域の基幹産業である農業や観光の潜在力を引き出し、競争力強化と成長産業化を推進することが重要です。
    とりわけ農業については、農業従事者の高齢化や後継者不足、耕作放棄地の拡大など多くの課題を抱えており、農業の競争力強化と成長産業化が急務となっております。今後は、経営体、すなわち農業法人による農業経営をこれまで以上に推進していくとともに、法人に農地を集約し、農業経営の大規模化を進めることが不可欠です。
    現在、政府では、企業による農地所有を可能とするための規制緩和や、農地中間管理機構を通じた農地集積に取り組んでおり、これらの施策をより強力に推進することが求められます。
    経団連としても、JAグループと共同で経済界と農業界の連携強化ワーキンググループを立ち上げ、具体的な連携プロジェクトの創出に取り組んでおり、農業を競争力のある成長産業へとしていきたいと考えています。

  3. 観光立国の実現
    観光につきましては、わが国全体の持続的な経済成長を実現していくうえでの重要な戦略分野であると考えています。旅行業・宿泊業はもちろん、商業、農林水産業をはじめとした幅広い産業への波及効果を生み出します。2012年の国内旅行消費額 22.5兆円の経済効果は、生産波及効果が46.7兆円、付加価値誘発効果が23.8兆円に上っており、GDPでは5%に相当します。また雇用効果についても399万人と、わが国の就業者数の6.2%を占めています。
    こうした中、課題となっているのが訪日外国人旅行客の拡大です。政府は、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年までに訪日外国人2,000万人を達成するとして、外国人旅行者に対するビザの発給要件の緩和や消費税の免税制度の見直し、免税店の拡大などに積極的に取り組んでいます。昨年、日本を訪れた訪日外国人旅行者は初めて1,000万人の大台を突破し、今年も1,300万人に届こうかというペースで増え続けています。
    経団連では、今後も官民を挙げた観光立国の実現に向けて、交通インフラの整備やビザの発給要件のさらなる緩和、観光プロモーションやマーケティングを担う日本政府観光局(JNTO)など国の推進体制の強化などを政府に求めていくとともに、民間外交の推進や観光立国を担う人材育成に向けた産学連携を進めてまいります。

6.「経団連ビジョン」の取りまとめ

さて、これまで申し上げてきたことは、いずれも喫緊の対応を要するものばかりでありますが、こうした当面の課題への対応と同時にわが国の将来あるべき姿をしっかりと描き、その実現に向けて取り組んでいくことも重要です。そこで、経団連では今後の活動の指針となる「経団連ビジョン」を年内に公表すべく、現在、検討を進めています。

ビジョンでは、まず、2030年に向けて目指すべき国家像を描くこととし、若者が将来への勇気や希望を持つことができる「明るい国家像」を描きたいと考えています。具体的には、豊かで活力ある国民生活を実現する国家であり、50年後も一定規模の人口が維持され、地方と都市がともに栄える国でなければなりません。そのためにも、成長国家としての強い基盤が不可欠です。

加えて、地球規模の様々な課題を解決することで、日本は世界の繁栄にも貢献していくという考え方もビジョンには必要です。特に、地球温暖化や水資源といった環境問題の克服に向けて、これまでも日本企業は技術による貢献を果たしてきましたが、引き続きしっかり取り組んでまいります。

こうした国家像を実現することで、「若者が日本国民であることに誇りを持ち、将来に対して夢や希望が持てる国」、「世界から信頼され、尊敬される国」を目指していきたいと考えています。

その上で、この実現に向けて、国や企業、国民のそれぞれが2020年までに集中的に取り組むべき課題も明らかにしてまいります。さらには、経済活動において企業が果たす役割を明らかにしつつ、その中で、企業の繁栄は国民生活の繁栄に直結するということを分かりやすく示してまいります。

7.むすび

こうした明るい国の将来像を描いていくためにも、まずは日本再興を確実に実現しなければなりません。これは将来世代に対する我々の責務です。アベノミクスの推進により、国民や企業のマインドは大きく改善され、2020年の東京オリンピック・パラリンピックという明確な目標もできました。まさに今こそが日本経済がデフレから脱却し、持続的な経済成長を実現していく上での、最大かつ最後のチャンスと言っても過言ではありません。

経団連といたしましても、政治や国民、地域、行政など、様々な主体との連携を十分に図りながら、わが国が抱える重要政策課題の解決を推進し、強い日本、強い経済の実現に全力で取り組んでまいります。皆さまのご理解とご支援のほど、どうぞ宜しくお願い致します。ご清聴ありがとうございました。

以上

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