会長コメント/スピーチ 記者会見における会長発言  記者会見における榊原会長発言要旨

2016年4月4日
一般社団法人 日本経済団体連合会

【消費税率の引上げ】

経団連としては、消費税率の10%への再引上げについて、社会保障制度の充実と財政健全化のため、予定通り行うべきだと考えており、一貫してそうした立場を取り続けている。消費増税によって経済が変調をきたさないよう手当をすることが必要である。消費は2年前に消費税率を引き上げた際の駆け込み需要に伴う反動減から戻っておらず、年間300兆円程度の横ばいで推移しており、同様のことが来年4月に繰り返されることへの懸念がある。そのため、特に消費を上昇トレンドに変えていくことが重要であり、消費税率を引き上げられるような環境を整備しなければならない。

消費が伸び悩む主な原因として次の3つが考えられる。第一は賃金が引き上げられたものの、消費増税により実質的な所得が十分に伸びていないことである。第二は将来に対する不安であり、特に若い世代の消費性向が上がらない。社会保障制度への不安によって、消費に回らず貯蓄が増えている。第三は消費を刺激するような製品、サービスが十分に提供されていないことである。

それぞれを見ると、第一の賃金については、今年の労使交渉で3年連続のベアをはじめ賃金引上げが実現した。中小企業で大企業を超える賃金引上げが行われ、非正規雇用者の待遇も改善された。第二の将来不安については、社会保障制度を充実させていくことに尽きる。これは消費増税とも関連しており、国が将来不安を払しょくできるような制度を示していくことが重要である。第三の消費を促す製品・サービスの提供は企業の責任であり、経済界もこのための知恵を絞っているところである。

また、消費を刺激する効果が大きい施策として、国内観光の促進が期待される。この10余年で国内観光の市場規模は27兆円から19兆円に縮小しているものの、これを回復させることによる消費の底上げ効果は大きい。観光の魅力を打ち出し、その振興に向けた環境整備を推進していくことが重要である。この一環として、経団連は、年休の取得促進を呼びかけているほか、国に対しても、学校休日を設定する際の自由度の向上や旅行券による需要喚起を提言している。

【春季労使交渉】

経団連の経労委報告では、業績が改善した企業において、年収ベースでの賃金引上げを前向きに検討してほしいとの指針を示した。今年の春季労使交渉では、総じて企業はこの指針に沿って対応してくれたと受け止めている。昨年よりベースアップの上げ幅は小さくなったものの、2014年から3年連続でベアが実現したことは、2009年から2013年まで5年連続でベアゼロが続いたことを思えば、非常に重要なことである。3年連続で累積されたベアの効果がもたらされることになる。また、賞与を含めた年収ベースで見れば、3%を上回る賃金引上げを実現した企業もある。さらに、非正規雇用者の正規化や待遇改善のほか、勤務時間の短縮を通じた実質的な賃金引上げ、在宅勤務など働きやすい環境整備といった様々な形での処遇改善がなされた。経済の先行きが不透明になる中で、企業側は出来得る限りの対応をしたと思う。

中小企業においても、経済の先行きへの不確実性がある中で、踏み込んだ回答が示された。連合の第一回集計では、全体で2.08%、300人未満の中小企業では2.07%の賃金引上げ率となっており、相当に高い数字となっている。中小企業を含めて、各社が踏み込んで回答した結果だと受け止めている。

わが国の最重要課題は、賃金が上昇し、消費が上向き、そして企業の業績が拡大していくという経済の好循環を力強く回していくことである。このためには賃金の持続的な上昇が必要であり、3年連続での賃金引上げが実現されたことは経済の好循環を生み出す大きな原動力になる。今後も賃金を持続的に引上げられるような環境を整備していくことが重要である。

【日銀短観】

日本経済のファンダメンタルズは揺らいでいない。年初来の株安・円高といった市場の動きや新興国経済に対する減速懸念により、企業の業況判断はマインド面を含め悪化しつつあるが、大きなマイナス材料が出てきているわけではない。2015年度の設備投資についても、若干下方修正されたものの、高い水準で推移している。

【金融政策】

日本銀行による異次元緩和がスタートしてから3年が経過したが、全体として経済の浮揚効果があったと評価している。とりわけ為替が是正されたことは大きく、1ドル80円と110円では、住む世界が違うほどの大きな変化である。株価も9000円程度だったものが、今は落ちてきているとはいえ16000円台である。日銀の金融政策は日本経済の再生に向けて大きな効果を上げており、正当に評価すべきである。

物価目標の達成は遅れているが、これは主に原油価格の下落などを背景としたものであり、物価が上昇し難い環境となっていることを認識する必要がある。達成時期は後ろ倒しになるだろうが、引き続き日銀が物価目標の実現に向けた取り組みを進めていくと期待している。

デフレ脱却・経済再生の方向に着実に前進しているものの、まだ金融政策の出口戦略を議論する段階にはない。黒田総裁もあらゆる政策を講じていくとしており、日銀が果たす役割はまだまだ大きい。引き続き、デフレ脱却・経済再生を着実に実現していくための金融政策が重要である。

【日中関係】

日中は政治、経済、文化をはじめあらゆる面で一衣帯水の関係にあり、互いに不可欠のパートナーである。中国には約2万社の日本企業が進出し、1000万人近い雇用を創出し、GDPにも大きく貢献している。

ただ、ここ数年、日中間の投資・貿易量は減少している。その背景には日中の政治外交関係の停滞があり、関係強化に向けた大きな阻害要因になっている。経済界としても、中国の政治リーダーと面談した際、日中の経済関係を強化・拡大するためには、両国の政治外交関係が良好になることが不可欠であると発信し続けてきた。それもあって、昨年以降、徐々に関係が改善傾向にあり、今年も引き続き中国との経済外交を展開していきたい。

【安全保障関連法制】

国民の生命と財産を守ることは国として最も重要な責務であり、昨年成立した安全保障関連法案を円滑に施行していくことが重要である。安全保障関連法案は国民の理解が必ずしも十分に得られていない中での成立、施行となったが、昨今の国際情勢もあって、国民の理解は得られつつある。政府は引き続き丁寧にしっかりと説明し、国民の理解を得られるよう努めてほしい。

今般の法整備は現行憲法の枠内でとれる最大限の対応であったと理解しており、国際情勢がめまぐるしく変化する中、国民にとっても大きな安心材料になったと思っている。

以上