会長コメント/スピーチ 記者会見における会長発言  記者会見における榊原会長発言要旨

2016年11月7日
一般社団法人 日本経済団体連合会

【春季労使交渉】

本日の会長・副会長会議において、来年の春季労使交渉に向けた基本方針に関する議論を行なった。主な意見としては、経済の好循環の実現という社会的要請を受けて、賃金引上げのモメンタムを維持する必要がある。また、賃上げ率などの数字ばかりが注目されがちであり、しかも単年度ベースの見方がなされるが、春季労使交渉では中期的な処遇改善、手当・賞与、ワークライフバランス、休暇取得など、総合的な議論が行われるべきであるなどがあった。

過去3年にわたり、大企業は2%超、中小企業でも1.8%前後の賃上げを続けてきたが、実体経済や個人消費は上向いていない、その背景には、賃金上昇分の40%以上が社会保険料負担で減殺されていること、国民の将来不安や教育費負担などが原因で給与が増えても消費に十分に回っていないことがある。家計の生活防衛的な消費行動を変えるためには、例えば給付型奨学金など、政府による総合的な対策が必要との意見もあった。企業として消費を促すためにも、若年者や子育て世帯への配分を高めるべきだとの考えも示された。これらの意見を踏まえながら、経営労働政策特別委員会での議論を深め、来年1月には経営側のスタンスを取りまとめたい。

今年の企業業績は全体としては昨年より厳しく、保守的な見通しを示すところもあるが、もう少し長い目で全体を見ると、今年も含めてここ数年、高水準の収益が続いている。今年は業績が良くなかったから賃金を引き上げないという単純な話ではないだろう。中期的な業績の推移の中で、賃金引上げについて考える必要がある。春季労使交渉は、各社が労使交渉の場で結論を得るものであるが、経団連としても、今年、収益を拡大した企業に年収ベースでの賃金引上げを呼びかけたように、共通の方向性を示していきたい。

【働き方・休み方改革】

社員の過労死は絶対に起こしてはならない。経団連としても、今年を働き方・休み方改革に向けた集中取組み年に位置付け、取り組んでいる。その大きな柱は長時間労働の是正であり、経営トップが自らリーダーシップを発揮し、確実に実現を図っていくことに尽きる。経団連としても引き続き、様々な機会を通じて長時間労働の是正を呼びかけていく。

36協定の見直しについては、労働者保護と事業継続性の二つの観点がある。例えば、建設業、運送業など、業種によっては繁忙期が存在しており、考慮が必要である。同時に、健康管理はじめ、従業員への配慮が不可欠である。

【企業の内部留保】

内部留保というと、その語感から企業が現金を留め込んでいるとの印象があるが、そうではない。こうしたことがきちんと理解されるよう、経団連としても引き続き、取り組んでいく。内部留保とは、利益から税金、配当を差し引いたものの集積であり、海外への投資やM&Aにも活用され、企業の成長につながっている。統計上は、GNI(Gross National Income、国民総所得)に寄与するものである。内部留保約378兆円のうち、現預金は200兆円程度であり、これは企業の運転資金の1.5~2カ月分に当たる。適正な範囲の運転資金を持つことは当然であり、決して多すぎるものではない。

【TPP】

TPPはわが国の成長戦略の柱であり、臨時国会において可及的速やかに承認する必要がある。米国の承認プロセスを後押しする意味でも、わが国が一日も早く承認することが求められている。経済界としても、TPPの早期実現に向けて、経済4団体(経団連、日本商工会議所、経済同友会、日本貿易会)で共同提言を7月に取りまとめ公表するとともに、臨時国会を控えて与党幹部への働きかけを行ってきた。TPPは経済界にとって重要な関心事であり、一日も早い承認を期待している。政府・与党には、緊張感をもって、重要課題に対応してほしい。

【米国大統領選挙】

米国の大統領選挙は、世界の政治・経済の行方に大きく影響するものである。特に、わが国にとっては、同盟国の新たな政治リーダーが誕生するという重要事であり、その行方を引き続き注意深く見守りたい。米国民の公正な判断と良識に期待したい。いずれの候補が選ばれるにせよ、政治、経済など様々な面から、同盟関係を維持・強化することが重要である。

【日ロ経済関係】

安倍総理は、戦後70年経過してもなお日ロ間で平和条約が締結されていないことを踏まえ、平和条約締結に強い意欲を示されている。これは国のリーダーとして当然のことであり、敬意を表したい。実現に向け、世耕ロシア経済分野協力担当大臣もそうした総理の意欲に応えるべく、様々な取り組みを行っていると承知している。そうした努力が実を結び、12月の日ロ首脳会談で歴史的な合意がなされることを期待している。

経済界としては、ソチでの日ロ首脳会談で日本政府が提示した8項目の協力プランの実現に積極的に協力していくが、ビジネスライクに冷静に、かつ前向きに対応するのが基本スタンスである。先般、経団連の日ロ経済委員会と露日ビジネスカウンシルの間で今後の協力拡充に関する覚書を締結した。二国間経済交流の一層の強化と推進に前向きに取り組んでいく。極東地域はじめ、ロシアには魅力的で有望なビジネスチャンスが存在しており、しっかり分析して対応していきたい。

【韓国の国政を巡る混乱】

韓国の国政に関する話なので、コメントすることは難しいが、韓国の政治・経済運営に支障が生じないことを切に願っている。現在、韓国は安全保障面で厳しい状況にあり、経済も困難な状況が続いている。このように課題が山積する中で、国政が中断することは好ましくない。政府の本来の機能が果たせるよう、事態が一刻も早く収拾することを期待したい。

以上