月刊・経済Trend 2007年2月号 巻頭言

現地現物

張副会長 張 富士夫
(ちょう ふじお)

日本経団連副会長
トヨタ自動車会長

20年少し前、わが国経済がグローバル化して以来、グローバルスタンダードとして欧米のビジネスの考え方や基準が導入され、それまでとは随分違った経営環境が出現した。同時に日本のやり方の良さを見直そうとする動きも活発化し「何を変え、何を残すべきか」についてとりわけ製造業は真剣に考えている。

日本経済が回復しつつある今日でも、この問題について結論が出たわけではなく“自分探しの旅”はまだ続いているといってよいだろう。

近年わが国産業界にも開発部門と製造部門の分離や、製造の外注化あるいは工場を海外に移転する例が出てきているが、私は特に「現地現物」の重要さを主張し、社内でもこれを教育の柱の一つにしている。

考えてみれば、開発、設計はもとより人事、調達、営業、生産計画など主要各部門の仕事の成果は、それぞれの現場に現れることが多い。自分の仕事の成果は現場に出て現場で確かめるのは、プロとして当たり前のことであり、QCサークル(P―D―C―A)のC(チェック)もこれを意味している。

現地現物は経営者にとっても大切なことで、経営方針や年間の計画が間違っていないか確認するだけではなく、実務に携わっている人から多くの意見を聞き、直すべき点を教えてもらう貴重な機会と言える。

日本のものづくりが、大切な考え方や手法を残しつつ、またさらに発展させ、グローバル化市場の中で勝ち残っていくことが、われわれに課せられている使命であり、そのために「現地現物」は欠かせない価値観だと思っている。


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