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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年11月9日 No.3612 米国の対中政策と日本企業への影響 -アメリカ委員会連携強化部会

シルバーバーグ氏

シェリフ氏

経団連のアメリカ委員会連携強化部会(豊川由里亜部会長)は10月19日、政策トレンドの予測を強みとする戦略コンサルティング企業であるキャップストーンのダニエル・シルバーバーグ氏とエリック・シェリフ氏の来日の機会をとらえ、東京・大手町の経団連会館で懇談会を開催した。両氏はイスラエル情勢について現状を分析した後、米国の対中政策について、次のとおり説明した。

■ 米国の対中政策

米国の対中政策を正しく理解するためには、「米国は反中だ」とひとくくりにするのではなく、連邦議会、ホワイトハウス、州政府といった個々の機関の動向を精査する必要がある。

第1に、議会については、共和党と民主党で立場が異なる。共和党にはタカ派が多く、中国が製造するバッテリーの利用制限や、中国人民銀行に対する制裁など、厳しい対中関連法案を提出している。しかし、従来、大企業寄りとされる共和党のなかには、企業の自由な事業活動を阻害すべきでないという意見もある。共和党が一枚岩になっていないため、こうした対中法案を通過させることができていない。

一方、民主党は、対中の文脈で、伝統的に人権や貿易に注目してきた。今では、中国の多面的な脅威を踏まえ、重要鉱物や電気自動車のサプライチェーンの多元化などにも取り組んでいる。しかし、民主党内には、厳しい対中政策を実施することが、米国内のアジア系住民への人種差別につながることを懸念する声もあり、共和党に比べれば対中姿勢は穏やかである。

第2に、ホワイトハウスは、融和的な対中政策の展開を望んでいた。仮に、バイデン政権発足当初に中国の対米姿勢が軟化していれば、トランプ前政権下で課せられた中国への追加関税も撤廃していた可能性がある。バイデン政権には中国に対して経済戦争を仕掛ける意図はない。実際、対中の観点から導入された投資規制は、半導体、AI、量子コンピューティング等、国家安全保障上、必要な分野に対象が絞られている。また、バイデン政権は、グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)を、中国の一帯一路への対抗策となり得るとみている。そのため、同志国である日本が米国に協力できる余地は大きい。

第3に、連邦国家である米国においては、州政府の対中政策もビジネスに大きな影響をもたらす。例えば、州政府関連の年金基金による中国企業への投資規制や、米国内の不動産・土地取得の制限等、連邦レベルで対応が進んでいない政策を州レベルで実施しようとする動きがある。

■ 日本企業への示唆

総じて、米国は、中国からの完全なデカップリングではなく、デリスキングを模索している。この方針のもとで、「フレンドショアリング」がサプライチェーンにおける安全保障を強化する手段として、今後とも重視されるだろう。米国は、日本企業のパートナーシップに強く期待している。実際、米国の産業政策、例えば、インフレ抑制法(IRA)は、気候変動対策としてクリーンエネルギー技術への税額控除や補助金の拠出を定めており、日本企業にとっての好機になり得る。

【国際経済本部】

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