月刊 Keidanren 2000年 2月号 巻頭言

ネットワーク時代のモノづくり

福原副議長 福原義春
(ふくはら よしはる)

経団連評議員会副議長
資生堂会長

わが国製造業の競争力は低下し、またその技術力に対する信頼も失われつつあるとの評価に接し、モノづくりに携わる者の一人として行く末を憂えている。

かつて、「職人」といわれる人々が、“技(ワザ)と心意気”をもって工芸的な生活用品の製作、建造物の細工などに携わってきたが、その精神は工業製品の生産にも引き継がれ、日本人固有の器用さ、頑固なまでのこだわりを拠り所に、高い品質を確保し、世界からの信頼を獲得してきた。ところが、コンピュータの発達、NC化(コンピュータ数値制御)やCADの普及などにより、生産性は飛躍的に向上したものの、素材や工具にこだわり、加工手順に工夫を加えるという独特の技能や現場の技術といった「職人」芸の世界、すなわちクラフトマンシップに支えられた志は、今やコスト優位の国々との競争の名のもとに潰えようとしている。

時代はマルチメディア、インターネット社会の真只中にある。コンピュータ・テクノロジーは、過去の記憶を保存し再現する最適な技術であり、また、蜘蛛の巣(ウェブ)のように張り巡らされたネットワークは、複合的な情報の収集、異質で多様な「知」の交換に、その機能を発揮するまでに進化してきた。このような情報化技術を巧みに活用することで、かつて最強といわれた日本国のモノづくりの技術や経験が伝承され、また、技術の融合化による新たな「知」の創出がなされるなど、新しい時代のモノづくりの仕組みが生み出されるのではないだろうか。

その際に重要となるのは人材であり、そこで手先が器用で繊細な感性を持ち、精密なモノづくりに強い日本は、知的資産の充実とあわせ、再び技術立国として巻き返す時代を迎えることになると確信している。産業の空洞化や新規産業の創出に悩む日本にとって、情報化で武装された現代の「職人」たちの活躍こそが、二一世紀を生き抜く技術競争力の源泉となろう。モノづくりに携わる一人ひとりの使命感とこだわりの精神の発揮が大いに期待されるところである。


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