月刊 Keidanren 2000年 9月号 巻頭言

自由貿易協定の積極的推進を

槙原副会長 槙原 稔
(まきはら みのる)

経団連副会長
三菱商事会長

経団連では7月に、自由貿易協定の積極推進を政府に要望した。7月9日から11日まで開催された日米財界人会議の場でも話題になり、経団連の考え方につき米国参加者からも理解を得られた。多角的貿易体制の強化一本槍だった政府の方針が方向転換し、シンガポール等との間で自由貿易協定の締結可能性につき、検討が進んではいるが、率直にいってスピード感に欠ける。深く研究することも大切だが、早く実現することが肝心で、産業界としても大きな声で、政府をサポートしていきたい。

世界の貿易・投資の自由化がわが国にもたらす利益については、多言を要すまい。国内の構造改革を促進するという側面も重要である。WTO体制下でのグローバルな自由化を進めていくことが理想だが、加盟137カ国でのコンセンサスづくりは容易ではなく、加盟国や地域のニーズにタイムリーに応えることは難しい。現在世界で約120存在する自由貿易協定が、90年代以降急増したのもこのような背景からだ。WTOの枠組みの中で、小回りのきく自由貿易協定がWTOを補完するかたちで併存するというのは、極めて自然な姿である。また、投資取り決めを含む自由貿易協定も出てきており、WTOが現状では取り上げにくい課題を先取りしている点も重要である。

自由貿易協定に入っていないことで被る不利益も大きい。たとえばメキシコはNAFTAのメンバーであり、EUとも自由貿易協定を締結している。日本からの対メキシコ輸出は、関税面(自動車や家電で10〜20%)で欧米に比し非常に不利である。世界の貿易大国で自由貿易協定に入っていないのは、日本、中国、韓国、台湾だけであり、メキシコ以外でも、日本が関税のハンディを負わされるケースが次々に出てこよう。わが国として、WTO体制を補完するかたちでの自由貿易協定の締結が急がれる。わが国とのつながりの深いアジア、および複層的に自由貿易協定が進行している米州各国が、優先対象地域となろう。


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