月刊 Keidanren 2001年4月号 巻頭言

ジェッダで考えたこと

森下副会長 森下洋一
(もりした よういち)

経団連副会長
松下電器産業会長

 うららかな陽射しが春本番を告げる今日このごろですが、大寒を前にして寒風吹きすさぶ1月の中旬、はるか中東へと旅立ちました。目的はサウディアラビアの商都ジェッダで開かれた「ジェッダ経済フォーラム」への出席です。

 マサチューセッツ工科大学が協賛し、テーマにeビジネスを掲げたこのフォーラムで私が行ったスピーチの演題は「ITで変わる社会」。携帯電話やデジタルテレビを皮切りに、身近な家電製品が次々とネット端末へと進化をとげ、高度なデジタルネットワーキングがどこにいても可能なユビキタスネットワーク社会が誕生する。こうしたビジョンをフォーラムに集った地元企業家の方々に紹介したところ、実にさまざまな反応が返ってきました。

 とりわけ印象に残ったのは、時を同じくして生じているITへの期待と不安です。国の発展にITは欠かせません。たとえば教育の領域でも、才能の発掘や創造性の高揚といった側面で、ITは大いなる力を発揮するでしょう。しかし社会の特性をかえりみないIT化が進めば、国の礎として連綿と継承されてきた文化や伝統に思わぬ影響が生じてしまいます。質疑応答を通じて強く感じたのは、このようなITをめぐる複雑な心情でした。

 日本はいま国を挙げてIT化に邁進するただなかにあります。そうしたなか私が考えてやまないのは、やはりわが国は技術で立ち、叡智を世界にお届けする日本であらねばならないということです。ただしそのお届けが画一的なものとなってはなりません。

 世界各地の社会がもつ独自のバックボーンを見すえて技術を展開してこそ、日本の信用も高まるというものです。技術そのものの強化、蓄積とともに、まさにこれが21世紀の日本に求められるのではないでしょうか。それぞれの社会から共感を得ることなくして、真の技術立国は成立しえないといえるでしょう。

 このような思いを改めて鮮明にさせたジェッダでのフォーラムでした。


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