月刊 Keidanren 2001年11月号 巻頭言

構造改革の視点

櫻井委員長 櫻井孝頴
(さくらい たかひで)

経団連経済政策委員長・財政制度委員長
第一生命保険会長

 夏休みに米国西海岸のラスベガスとサンフランシスコ周辺を訪ねた。広大な米国で都市や地域の活性化がどのように行われているかを自分の目で確かめたいという思いもあった。ラスベガスは今や神戸市、京都市に匹敵する人口140万人、年間の観光客3400万人を超える一大消費都市である。サンフランシスコ湾は東京湾とほぼ同じ面積であるが、その南端にあるシリコンバレーも全米のベンチャー企業の四分の一が集まる人的資源の一大集積地を形成している。

 そもそもラスベガスは、20世紀初頭には砂漠の小さなオアシスに過ぎなかった。世界恐慌後の不況対策として打ち出されたフーバーダムの建設にあわせて、ネバダ州当局がカジノ解禁という大英断を下したのがことの始まりである。ただし、今日のラスベガスの繁栄はそこに集まったホテル経営者が、熾烈な競争の下、知恵やアイデアを絞る努力を重ねた成果であることも忘れてはならない。公共事業と個人消費の拡大が半世紀を経て見事に結びついた顕著な例である。

 一方、シリコンバレーも農業と軍の通信研究施設の他に産業といえるものはほとんどない土地であったが、スタンフォード大学が東部の大学から優秀な人材を積極的に集め、カリフォルニア州がベンチャー創業や投資に有利な税制・法制を整備したことで発展の基礎が築かれた。

 両者に共通するのは、単なるハコモノだけではなく、そこに参加した自治体や住民が知恵やアイデアを競い合い、莫大な付加価値を産んだということである。まさに「知価革命」の例証であろう。

 翻ってわが国では、構造改革の一環として魅力ある都市づくりが脚光を浴びているが、「国土の均衡ある発展」を目標に、長らく画一的なハコモノ偏重の地域振興が行われてきた。このため、地域の自治体や住民も中央に依存しがちで、知恵やアイデアを競い合うことが苦手のようだ。

 「知恵と工夫の競争」が付加価値を産み、生産性の向上をもたらす。財政再建が叫ばれ公共事業の見直しが進められているが、これを子孫の借金にするか魅力ある財産にするかは、国、自治体、企業、国民それぞれが知恵を絞り、創意工夫を重ねる情熱を持てるかにかかっている。


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