月刊・経済Trend 2002年 9月号 巻頭言

全ての基盤は教育から

樋口副会長 樋口公啓
(ひぐち こうけい)

日本経団連副会長
東京海上火災保険会長

 日本の経済発展をもたらした原動力の背景には、わが国の高い教育水準と、持ち前の勤勉さと創意工夫、異文化や新技術にしなやかに対応し、消化してきた受容能力の高さがあったと言われる。しかしIMD(国際経営開発研究所)が発表した国際競争力ランキング2002年版で、日本の教育システムが全49カ国中47位、大学教育については最低の49位にランクされるなど、このところ教育面の質の低さについての指摘が目立つ。「分数ができない大学生」といった書物等を引用するまでもなく、学習意欲の低下による学力の低下、創造性の欠如、モラル低下といった事象は、かつてわが国成長の原動力であった人材面の優位性の明白な低下に繋がるものであり、今後のわが国経済発展に及ぼす悪影響を懸念せざるを得ない。

 資源に恵まれないわが国は、戦後いわゆる傾斜生産方式による産業振興政策と、持ち前の生産技術を活かし貿易で国の経済を支えてきた。しかし世界最大の債権国となった今日でも資源を持たない構図に何らの変化はないし、まして今は食料需要の約60%を輸入に依存している現状もある。こうした環境下で日本がこの二十一世紀にも豊かな社会を維持していくためには、やはりわが国経済の競争力確保は必須である。

 こうした中、「知的財産戦略大綱」が正式に決定された。経済活性化への即効薬とは言えないまでも、「知財重視戦略」の明確な位置づけは、厳しい価格競争や産業空洞化を脱する今後の日本産業の方向性と戦略を明確に示したという意味で意義は大きい。「知的財産立国」実現に向け、産・学・官が連携してわが国の英知を結集する一大プロジェクトを各所で立ち上げ、知的財産を積み上げていくことは産業競争力確保の上で不可欠のことである。

 それにつけても全ての基盤となるという意味で重要なのは教育の問題である。この問題は短期間では成果が出ないものだけに、知的財産の現実の担い手でありキーファクターである人材、すなわち創造力と意欲、さらに倫理観にゆらぎのない人材をいかに早期かつ継続して育成していくか、この「大綱」が実効性ある教育改革のきっかけになることを期待したい。


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