月刊・経済Trend 2002年10月号 巻頭言

個人消費活性化のために

鈴木副議長 鈴木敏文
(すずき としふみ)

日本経団連評議員会副議長
イトーヨーカ堂社長

 内需拡大、景気回復の牽引力となる個人消費の回復が待たれている。もの余りの時代、ものが売れない時代といわれて久しいが、それは、消費者の購買意欲が減退したわけではなく、むしろわれわれ売り手やつくり手側の問題である。経済産業省の消費者調査によると「品質は同じで低価格」と「価格は同じで品質向上」のどちらを希望するかという質問に対して、紳士・婦人服や映像・音響機器などでは後者を選択する人も多く、価格引下げが必ずしも購入増加につながらないという結果になった。過去のもの不足の時代は、「売れない時は価格を下げれば売れ続ける」ことが経験則として成り立っていた。しかし、もはやこの経験則は通用しないのである。

 この変化を見逃して売り手が過去の発想でものづくりを進め、消費者が求めている「新しい価値」を提供できていないことが、ものが売れない最大の原因と言える。今や、価格のみならず、機能や品質さえも消費者にとっては「当然の前提」であり、購買意欲を掘り起こす決め手とはならない。激しく変化し続ける、時代のトレンドまできめ細かく取り込んだ「新しい価値」こそを、消費者は求めているのである。われわれは、機能、品質、価格など馴染み深く形の見える世界から、心理や情報といった形の見えない世界に、さらに一歩踏み込むことが求められている。昨今、「安心」や「信頼」が社会のキーワードと化している点にも、心理が現代社会に占める重さがよく示されているだろう。

 消費者心理という点からは、金融システムの安定化や構造改革の着実な進捗によって、将来に対する不安心理が取り除かれることが重要である。また、われわれ企業においても消費者の目に見える形で、健全な企業統治機能を確立することが不可欠だ。今、消費者(国民)は「改革」への期待感を高めている。これに応え、早急に新しい展望を示すことが必要である。


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