月刊・経済Trend 2002年11月号 巻頭言

少子高齢化を「社会改革の原動力」に

伊藤副議長 伊藤助成
(いとう じょせい)

日本経団連評議員会副議長
日本生命保険会長

日本は今、世界に例を見ない少子高齢化の進行に加えて、人口減少の世紀を迎えようとしている。現状の社会制度に安住すれば、国の衰退は避けられない。

この変化の波を前に、立ちすくみ、暗いシナリオばかり描いても将来の展望は見えてこない。今の日本に求められるのは、少子高齢化を社会改革の原動力とするポジティブな発想への転換である。太古より長生きは人類が夢見た願いであり、むしろ世界一豊かな長寿社会を築き上げるとの目標を掲げるべきである。

その実現には、三つの改革が必要となる。第一は、国民全体に新しい社会創りへの覚悟を促す抜本的な社会保障制度改革である。世界第二位の個人金融資産を持ちながら、将来への不安感が社会経済を萎縮させている。健康かつ経済面で余裕のある「元気印の高齢者」には、新しい社会創りへの活躍を求める一方で、個人の自助努力を支援する環境整備を進めることが不可欠である。

第二は、女性や高齢者など、誰もが働きやすい雇用環境への改革である。単に将来の労働力不足を補うという経済的な理由だけでなく、老若男女が多様な領域で活躍する可能性を拡大することは、個の確立・自立を促し、経済社会を活性化する。

第三は、アメリカ型ライフスタイル(大量生産・大量消費・大量廃棄)を超えた生活様式への改革である。20世紀の拡大型経済が抱える、資源、食糧、環境といった矛盾を解決するため、「人間の幸せとは何か」を問い直し、新たな価値観に基づく多様な生活様式を創り出さなければならない。

企業としても、社会貢献活動や多様な働き方の創出等を通じ、新たな社会創りに積極的に挑戦していく必要がある。また、その実現には、地域社会や個人ごとに多様化するニーズに対応できるNPOの育成も欠かせない。日本には世界一の長寿を誇る人材と豊かな自然が残されている。国民一人ひとりが、改革への覚悟を決めて取り組めば、世界に先駆けて活力ある長寿社会が実現できるものと確信する。


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