月刊・経済Trend 2003年5月号 巻頭言

先導的技術の提供・普及によって世界の経済発展と環境保全の実現を

千速副会長 千速 晃
(ちはや あきら)

日本経団連副会長
新日本製鐵会長

21世紀において人類社会が直面する重要課題の一つは、地球環境問題への対応である。

わが国産業界は、1970年代の石油危機以降20%を超える省エネルギーを達成する等、世界最高水準の省エネルギー・環境技術を確立してきた。日本経団連としても自主行動計画に沿った温暖化対策を進めてきており、CO2排出量対90年度比横這いという目標を着実に達成してきているが、産業界としては今後ともさらに技術やノウハウに一層磨きをかけて環境問題に取り組むとともに、風力・バイオマスといった新エネルギーの実用化と併せて、長期的視点に立った低コスト水素製造法の確立やCO2分離・固定化技術などの技術革新に努めていく考えである。

しかしこうした産業界の着実な取組みにもかかわらず、昨今わが国では温暖化問題の短期的施策として、環境税導入や排出枠を前提とした国内排出量取引(Cap & Trade)など規制強化に向けた議論が展開されつつある。グローバルな課題である地球環境問題を国内規制の強化だけで対処することは、わが国産業の国際競争力を損なうばかりか、長期的な技術革新に向けた産業界の自助努力を阻害することから、この動きを強く懸念している。

むしろわが国としては、産業界の持つ技術やノウハウを発展途上国等にトランスファーし、地球規模の「経済発展と環境保全の両立」に活かしていくことが国際貢献に直結する道である。たとえばオランダでは企業が行うCDMやJIプロジェクトから得られる排出クレジットを政府自らが買い上げることによって、自国の京都議定書の目標を達成すると同時に、世界の温暖化問題の解決にも貢献しようとしている。

わが国産業界としても、他国における具体的な省エネプロジェクトを積極的に発掘した上でCDMやJIへとつなげていく考えであり、政府におかれては環境ODAの拡充等を通して、産業界の活動を支援していただくようぜひともお願いしたい。官民一体となったこのような努力は、今後わが国が科学技術立国として地球社会への貢献を果たしていくために不可避であると確信する。


(注1) CDM (Clean Development Mechanism―クリーン開発メカニズム)
先進国の資金・技術支援により、発展途上国において温室効果ガスの排出削減等につながる事業を実施する制度。削減された量の全部または一部に相当する量を先進国が排出枠として獲得できる。
(注2) JI (Joint Implementation―共同実施)
温室効果ガス削減等につながる事業を、削減目標を有する先進国間で実施するもの。その事業が実施されたホスト国で生じる削減量の全部または一部に相当する量の排出枠をその事業に投資した国がホスト国から獲得し、その事業に投資した国の削減目標達成に利用することができる。

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