月刊・経済Trend 2003年9月号 巻頭言

世界を舞台にした日本の成長

森下議長 森下洋一
(もりした よういち)

日本経団連評議員会議長
松下電器産業会長

昨今、長引く不況で「日本全体が閉塞状況に陥っている」という言葉を聞くが、今の日本経済は一様ではなく、まだら模様になっている。

たとえば、従来から国際競争にさらされてきた自動車・精密・電機等の製造業では、グローバル連結ベースで新たな成長方向に向かっており、閉塞感は少ない。一方、国内を主要市場とする製造業は景気後退による需要減退に苦しんでいるが、その中でも高度な技術力を持つ企業は成長を果たしている。そして、国内需要を基盤とするサービス業等は、需要減退と供給過剰に苦しんでいる。労働人口の約七割がこの業界の就業者であり、ここでは閉塞感があろう。このように今の日本は状況が異なる三つのグループからなる“三重構造”を呈していると思う。

ところで、先般発表された2002年度国際収支によると、貿易黒字は1998年以来4年ぶりに拡大、特許使用料等収支が初めて黒字に転じたようである。戦後、欧米の先進技術を導入し産業復興を図って以来、特許使用料等収支は一貫して赤字であり、今回の黒字転換は感慨深い。そこで国際収支の観点で日本の成長を考えてみたい。

まず、グローバル企業群は、先端技術・知財を核にさらに競争力を高め、貿易収支と特許使用料等収支の黒字を拡大することが責務である。そして、そこで得られる収益を更なる開発や設備に投入し、所得分配等を通じて国内需要を押し上げ、雇用増に繋げていく“成長の循環”の構築が大切である。また、国内型企業は高度な技術力やマーケティング力で国内需要を顕在化させる一方、規制改革等による競争環境整備もより重要になる。また、観光産業に本格的に力を入れ、世界の需要を取り込むことも極めて重要と考えている。

こうした取り組みにより、日本が貿易収支も特許使用料・旅行収支などサービス収支も黒字で、「世界でも類を見ない国家」を実現できれば、経済の好循環によって国民全体が豊かさを実感できるようになり、閉塞感は過去の言葉となろう。


日本語のホームページへ