月刊・経済Trend 2003年12月号 巻頭言

戦略的通商政策の立案・実行に向けて

槙原副会長 槙原 稔
(まきはら みのる)

日本経団連副会長
三菱商事会長

9月に開催されたWTOカンクン閣僚会議は、農業に加え、投資などの分野で「途上国対先進国」という対立の図式が顕在化し、非常に残念な結果に終わった。しかし、WTOが国際通商システムの根幹であることには変わりなく、戦後50年以上もGATT・WTO体制の下における貿易自由化の恩恵に浴してきた日本は、これまで以上にWTO体制の強化に向けたイニシアチブをとるべきである。そこで、これまでの反省を踏まえ、通商戦略における「司令塔の構築」と「官民一体の推進体制確立」の二点を提案したい。

日本の通商戦略には司令塔不在のため、バイ(二国間)の交渉でもマルチ(多国間)の交渉でも、相手との交渉と同時に国内問題の調整に汲々としている。カンクンでも、存在感が希薄であった日本政府代表団と、USTRが取り仕切る米国や15カ国を束ねるEUなどとの交渉姿勢の差は歴然としていた。旧態依然たる省庁別の縦割りを乗り越え、総合戦略に基づく国内の利害調整を図った上で、対外的な交渉に臨むという体制を早急に確立しなければ、先進国にも、途上国にも相手にされないということになりかねない。

「官民一体」という点も早急に対応すべき大きな課題である。メディアにはあまり取り上げられていないが、欧米諸国のカンクンでの官民連携は見事であった。政府の代表団に民間人が参加しているだけではなく、交渉の節目には必ず政府と民間の協議を行い、利害調整を怠ることがない。現場レベルの意見の吸い上げ、官民のトップレベルにおける頻繁な意見交換など日本も見習うべき点が多い。

近年のWTOや各国とのFTA交渉において、日本の対応が常に後手にまわったことは、「通商立国」たる日本として大いに反省すべきである。経済界としても、その責任を政府に押し付けるだけでなく、その責務の一端を担うべく、情報収集・分析力、提言力、交渉力等の向上を目指すべきであろう。


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