月刊・経済Trend 2004年2月号 巻頭言

地に足のついた産学官連携を

伊藤副議長 伊藤源嗣
(いとう もとつぐ)

日本経団連評議員会副議長
石川島播磨重工業社長

わが国では、数々の国家プロジェクトによって官民の基盤技術の向上と人材の育成が実現し、産業の急速な近代化、戦後の高度成長に寄与してきた。

一方で、基本的に日本の産業技術はキャッチ・アップ、改良を主としてきて、独創性の点は最重要視されなかった傾向があるが、今日的にはフロントランナーとして多くの技術的可能性へ挑戦することで、グローバル競争の中で資源の選択と集中を迫られている状況である。

これまでの産学官連携の課題としては、まず相互の理解不足が挙げられる。大学側は毎年学生にテーマを与え、研究評価は論文第一という傾向があり、一方企業は自らのニーズを大学に個別のテーマでなく、戦略的立場から伝える努力に欠けていた。また官側には企業のニーズや納期、知的財産権、契約などの重要性に対する理解が欠如していた。人材交流でも企業から官側に一時的に人を派遣することはあるが、官・学から企業への障壁は高く、異動は退職が前提になっている。

これらの反省を踏まえて、これからの産学官連携においては以下の三点が重要であると考える。

まず、産学官の人材交流の促進である。何と言っても有効なのは、産学官を相互に往来できる人事システムの構築であり、このことにより企業を知り、知識と意欲を持った人材を学・官が育成でき、企業からは学・官の中で実業への応用力のある人材を育成できる。

そのためにも第二に、企業と大学の連携は、企業の研究者と大学の教官といった個人的な結びつきから、企業と大学との組織間の連携強化を進めていく必要がある。

第三に、近年盛んに模索されている地域連携、知的クラスタの促進は、産学官を広く地域に密着させる地道な活動として成果が上がるものと確信する。


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