月刊・経済Trend 2005年2月号 巻頭言

「官から民へ」―社会制度の改革

宮内副議長 宮内義彦
(みやうち よしひこ)

日本経団連評議員会副議長
オリックス会長・グループCEO

日本経済は「失われた十数年」から抜け出し、前向きに考える余裕が生まれてきた。そして構造改革は、十分な速度ではないが歩みを積み重ね、日本経済に変化をもたらしつつある。その中でも規制改革には私も長く関わってきたので、その思いはひとしおである。

規制改革でまず取り組んだのは、民間経済であるが規制色の強い部分、「統制経済」を市場経済に移行させることであった。この分野は、個別の経済行為に対する規制などが徐々に取り払われることにより市場経済化が進み、この十数年間で民間企業と「霞が関」との距離は遠くなり、企業は市場経済下での競争に真剣に取り組み始めた。

現在、「統制経済」に次いで取り組んでいるのは、「官製市場」といわれる分野である。「官製市場」では、官が市場のあり方を決め、その中の全てに関与し、それがすでに一つの社会制度として成っている。医療、福祉、教育や農業制度、あるいは労働慣行などが典型である。これら「官製市場」では、「公共性、公平性を担保するため、官が全てに関与する必要がある」との考えが深く根付いているが、これは正しいのであろうか。「官製市場」に民の活力や創意工夫を入れ込むことができれば、国民の選択肢が増え、効率も上がる分野は数多くあるはずだ。官は公共性を担保するシステムをつくり、自由で公正な競争が行われるように監視し、事業そのものは民間の創意工夫に委ねるのが今後の社会のあるべき姿だと思う。

社会は常に変化する。諸制度もこれに対応して柔軟に変化することが求められる。規制改革の役割は、社会の変化にあわせた、よりよく、より効率的な制度づくりに資することだ。しかし、社会に深く根付いてしまった規制の塊である社会制度の改革は、既得権益を持つ人からはもちろん、制度に慣れ親しんだ人からも直ちには賛同を得られにくい。「官製市場」の改革は、ようやく手をつけたばかりであり、道はまだ遠い。


日本語のホームページへ