月刊・経済Trend 2006年12月号 巻頭言

新たな時代のエネルギー政策

柴田副議長 柴田昌治
(しばた まさはる)

日本経団連評議員会副議長
日本ガイシ会長

アジア諸国をはじめとするエネルギー需要の急拡大、石油資源枯渇への懸念などによって、今夏は原油価格が高騰した。投機的な要因もあったが、一時80ドル/バレル近くまで急激に上昇し、現在も下がったとはいえ依然高い水準にある。エネルギー価格は過去10年ほど安値が続いていたため、いわば水や空気のように安定供給されることが当然になってしまい、世間一般では危機意識が薄れていたのが実態だ。

だが、ここ1〜2年の間に日本経団連のミッションで中国やインド、ベトナムを訪問した経験によれば、各国首脳は異口同音にエネルギー確保やインフラ整備の重要性について訴えていた。こうしたエネルギー需要急増の見通しが原油先物市場に影響して価格高騰の一因となり、また最近の資源ナショナリズムの台頭とも称すべき風潮や引き続き不安定な中東情勢も、このような見方に拍車をかけている。

こういった情勢に鑑み、日本経団連では本年5月に「わが国を支えるエネルギー戦略の確立に向けて」と題した提言を公表した。その基本的な考え方は、エネルギー政策実行における政治の強力なリーダーシップを求め、官民の明確な役割分担と連携の下で、原子力政策推進を中心とするエネルギーの最適供給バランスを実現すべしというものだ。ぜひご一読いただきたいと思う。

経済産業省ではエネルギー安全保障を主題とした「新・国家エネルギー戦略」を発表し、資源エネルギー庁では「エネルギー基本計画」の見直しを進めているなど、今後のエネルギー政策の重要性について関係者の問題意識は共有されている。

幸いにも以前のオイルショックとは異なり、わが国は原油価格の変動に耐えうる産業構造を作り上げており、今回の異常とも言える価格高騰にも大きなパニックは起きなかった。現在の状況を、あらためてエネルギー政策を見直す大変よい機会と捉え、関係省庁や日本原子力産業協会をはじめとする諸団体と密接な連携を取りつつ、提言の着実な実行を働きかけてゆきたい。


日本語のホームページへ