月刊・経済Trend 2007年4月号 巻頭言

持続的発展のための雇用対策と慎重な論議を要する「格差問題」

鈴木副議長 鈴木正一郎
(すずき しょういちろう)

日本経団連評議員会副議長
王子製紙会長

少子高齢化社会を迎え、労働力人口が減少するなか、日本が持続的に発展していくためには、イノベーションによる生産性の向上に加え、それを支える人材の確保が不可欠だ。そのためには、従来の雇用のあり方にとらわれず、新たな発想で対処しなければならない。

労働市場の流動化は、産業間・企業間での労働力需給ギャップ解消の前提である。「終身雇用」「年功賃金」「退職金」「企業年金」といった従来制度の転換を伴うが、労使の徹底した論議に基づく制度構築が重要だ。

同時に、若者・女性・高齢者などの広範な人材の活用が必要だ。特に、「就職氷河期」と言われる時期に就労機会を逃した若年層が、フリーター、ニートとして固定化しつつあり、こうした人材に対する就労支援などの積極的雇用対策は急務である。

さらに、「ワーク・ライフ・バランス」の推進は、少子高齢化に企業が対応するための鍵である。実現に向けては、派遣、パート労働、在宅勤務や、労働時間等規制を適用除外とする自律的な働き方など、就労形態の多様化に適応した環境整備が求められている。

構造改革を推進し、市場原理による経済効率を高めたことが、格差社会を助長したと短絡的に結びつけてよいものだろうか。確かに、一部の統計資料は、ジニ係数や貧困率の拡大を示している。しかし、こうした統計の大半は、2000年代前半、つまり、日本が景気回復を迎える以前、もしくは直後の、さまざまな改革を断行しはじめた時点のデータに基づいたものだ。「格差は拡大しているか否か」を語るためには、現在も続いている景気拡大が格差に対しどう影響したかをもって、もう少し慎重な論議が必要である。

不景気こそが格差問題を悪化させることは言うまでもなく、経済を持続的に発展・成長させることが、格差問題解消に向けた最も有効な手段であると信じている。


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