月刊・経済Trend 2007年7月号 巻頭言

『過則勿憚改』

西室議長 西室泰三
(にしむろ たいぞう)

日本経団連評議員会議長
東芝相談役

物事を計画するに当たっては、可能な限りの情報を集め、それを分析・検討し、将来についての予測を行った上で最善の方針を決定することになる。

重要な案件だからといって、十分な時間が与えられるとは限らないし、場合に依っては極めて重要な決断を限られた情報で行わなければならないことすらある。

検討にいたずらに時間を費やして、決断のタイミングを失ってしまっては、如何に優れた計画でも無価値なものになってしまうことを考えれば、拙速な決定があり得るのも当然と認めざるを得ない。

最初から決定に自信が持てないのでは論外であろうが、決めてしまったことについて反省してみる謙虚さと、決定の成果の検証は必須であるし、変化する周囲の情況に基づく変更なくしては如何なる計画も継続的な成功を収めることはおぼつかない。手直しで済むこともあろうが、大切なのは、自分が責任を持って決定したことの間違いに気付いたら、それを抜本的に改める勇気を持つことであろう。外聞を気にして面子を重んずるがために、失敗の泥沼に沈んでしまった例は意外に多いと思う。

論語の中では、“過ちて改めざる、是を過ちと謂う”とか、“小人の過つや、必ず文る”とか、このような過ちについて説いた個所が多いが、私は“過則勿憚改(過ちては則ち改むるに憚ること勿れ)”を信条としていきたい。

事業の実行に当たって、経営者として重要なことは、将来について常に思いを致し、計画そのものの意義を反芻して、新しい視野での検討を続けていくことではなかろうか。


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