月刊・経済Trend 2007年9月号 巻頭言

道州制と分権

奥田副議長 奥田 務
(おくだ つとむ)

日本経団連評議員会副議長
J.フロント リテイリング社長 兼 大丸会長

道州制についての議論が盛り上がってきた。安倍内閣において初めて道州制担当大臣が置かれ、その諮問機関として道州制導入に関する基本的事項を議論する道州制ビジョン懇談会が発足、国民の関心も徐々にではあるが高まりつつあるように思われる。

明治、昭和と二度の奇跡的な経済発展を実現したわが国の中央集権体制であるが、価値観の多様化、社会の成熟化、グローバル競争の激化といった環境変化に対応できず、今では全国一律に同じ基準を押し付けることの非効率・不経済が目立つようになってきた。また、権限と財源を握る中央省庁がある東京に人口・産業・情報が集中して、それ以外の地域との経済格差を生み、その格差は現在も拡大を続けている。

これに対し、道州制を導入することにより、それぞれの地域が個性を発揮して経済の活性化を競い合うようになり、その結果日本経済全体が活性化し、かつ地域間格差も縮小していくことが期待されている。ここで注意すべきは、地域がその個性を発揮するためには、単に都道府県の規模を拡大するだけの道州制では不十分であり、地域が自立し、自ら考え、自らの責任で決定できるよう、「分権」を進めていく必要があるということである。

激しい環境変化に対応すべく、企業が変化の最前線に位置する現場に権限を委譲してきたように、住民に一番近い基礎的自治体(市町村)にできるだけ多くの権限を与え、広域自治体である道州は国からの権限移譲を受けて基礎的自治体が対応できない課題に取り組み、中央政府は外交・防衛・通貨管理等、中央政府でないと対応できないことのみに専念する、いわゆる「補完性の原理」に基づく分権を推進すべきである。

道州制についての議論は、道州の区割りや道州が取り組む課題に偏りがちである。しかし、それだけにとどまらず、基礎的自治体の役割と移譲すべき権限、権限移譲後の中央省庁のあり方、さらには、権限の裏づけとなる財源の移譲についても踏み込んで議論する必要があることを忘れてはならない。


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