月刊・経済Trend 2008年5月号 巻頭言

「融合イノベーション」に向けて

榊原副会長 榊原定征
(さかきばら さだゆき)

日本経団連副会長
東レ社長

世界経済の大きなうねりの中で、わが国が持続的に発展し、世界に目に見える貢献をしていくためには、科学技術に立脚した産業競争力の強化が不可欠である。地球温暖化などの環境問題を例にとってみても、その本質的な解決には、独創的な産業技術を世界に発信していくことが喫緊かつ重要な課題である。

一方、科学技術を取り巻く環境は、純粋な科学だけではなく、経済性、環境負荷、地域貢献、教育、倫理など多くの因子が複雑に絡み合っている。このように複雑で多様化する時代に、いやこのような時代にこそ、われわれが強く意識すべきことは「融合」ということであろう。独創的な産業技術を創出するためにも、伝統的な区分の中での学問や単一の技術の深化による積み上げではなく、従来と異なった横串による技術融合によって、新たな科学技術体系を構築することが求められている。

古来、わが国は、東アジア文化圏や欧米からの多くの異文化と技術を自国の固有文化と融合させながら発展してきた。日本人は、世界でも例のない、融合に長けた、融合による独創に長けた民族であるといえる。

イノベーションは、異分野の融合領域に発生しやすいと言われている。科学技術の融合においては、産学官や異業種の企業連携の機会を増やすことが新しい価値創造のトリガーになるであろう。すでに、ナノテクノロジーとバイオテクノロジーなど最先端の技術融合領域でいくつかの顕著な成果が出始めている。このような大きな技術体系に基づいた技術革新は、一企業だけではなく国家の事業として捉えて進めていくべきであろう。また、融合は、自然科学の中だけで行われるものではなく、人文科学との融合にまで広げることによって、イノベーションのパワーはさらに大きくできるはずである。

わが国が環境問題など地球規模の課題解決に向けて世界をリードし、世界におけるプレゼンスを高めていくには、多面的な融合を軸としたイノベーション加速のための国家レベルでの新施策が必要であると考える。


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