月刊・経済Trend 2008年7月号 巻頭言

「緑の革命」はわが国にこそ

米倉議長 米倉弘昌
(よねくら ひろまさ)

日本経団連評議員会議長
住友化学社長

まずは読者の皆様に一言就任のご挨拶を申し上げたい。4年間務めた副会長職に引き続き、5月28日の総会で評議員会議長を拝命した。これまでの経験を活かして執行部からの諮問に手際よく答え、微力ながら全力で御手洗会長を支えていく所存なので、引き続き皆様のご支援とご協力をお願い申し上げる。

さて、前回本誌の「巻頭言」に寄稿したのは一昨年4月。その際には「アフリカの大地に緑の革命を」と申し上げたのだが、2年経った今、「緑の革命」はむしろわが国にこそ必要なのかもしれないと思い始めている。もちろんアフリカでも「緑の革命」を成功裡に導き、ミレニアム開発目標(MDGs)を達成するとともに、わが国の食料の安全保障を長期的に担保していくという戦略が描ければ、素晴らしいことだ。しかしながら現下の状況は切迫している。BRICsをはじめ新興工業国の台頭による資源需要の急速な拡大や、地球温暖化対策や原油価格の高騰によるバイオ燃料の争奪戦等の影響に旱魃や台風の被害が度重なり、世界の食料の生産・輸出大国は農産物の輸出規制に本腰を入れ出した。海外で水揚げされる水産物の売買でもわが国の「セリ負け」が続く。こうしたなか、経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)を締結しても、はたしてそれがわが国の食料の安全保障に繋がっていくのだろうか。事実、この5月に発表された内閣府の「食育に関する意識調査」によれば、食生活に悩みや不安のある人々は全体の44%で、そのうちの34%が「将来の食料供給」を不安の理由に挙げたという。政府も迅速に対応している。「食料の未来を描く戦略会議」の提言や「21世紀新農政2008」はこうした厳しい認識の下に取りまとめられた。日本経団連でも会員企業が農器具の改善や品種の改良についてさまざまな提案を行う等、農業団体に積極的に協力している。

少し前のこと、ある新聞の見出しに「空腹が世界乱す」とあった。アジアやアフリカで食料をめぐる暴動が起こる一方、世界の食料援助量の約3倍に相当する年間1900万トンにも及ぶ食品廃棄物が国内で発生するのをどう解釈したらよいのか。洞爺湖サミットでは「音のない津波」と呼ばれる食料問題が主要テーマの一つだ。わが国の「緑の革命」は待ったなしの状況にある。


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