月刊・経済Trend 2008年10月号 巻頭言

今求められている「日本の技術」の役割

佃副会長 佃 和夫
(つくだ かずお)

日本経団連副会長
三菱重工業会長

本年5月31日,わが国が20年の歳月を費やして開発した国際宇宙ステーション用の実験棟「きぼう」が,スペースシャトル「ディスカバリー」に抱かれて宇宙へと旅立った。ディスカバリーの乗組員の一人,星出彰彦飛行士の見事な船外活動により無事宇宙ステーションの仲間入りをした「きぼう」では,早くも無重力下での流体実験が始まり,今後順次実験が計画されている材料や生命科学分野での革新的な進歩が期待されている。また,これからの宇宙ステーションの維持活動では,日本が開発中のH−IIBロケット(H−IIAロケットを大型化したもの)やHTV(宇宙空間物資輸送機)が,米国,EU,ロシアに伍してその責任の一端を担うことも考えられている。

ケネディスペースセンターで今回の打上げに立ち会った私は,NASAグリフィン長官をはじめ多くの人たちが,日本の技術とその国際社会への貢献に大きな期待を抱いておられることを肌で感じることができた。国際社会におけるわが国の競争力や存在感を支えているのはやはり「日本の技術」なのだと、改めて認識した次第である。

一方,「日本の技術」の当面の重要な役割として特記すべきは,環境・エネルギー問題への対応であろう。先の洞爺湖サミットでも最重要課題として議論されたように,3E(環境保全,エネルギー安定供給,持続的経済発展)の同時推進は至難の業であることに相違ないが,日本にとってこのピンチはむしろチャンスととらえるべきではないか。

わが国は1970年代の石油危機をバネに,環境・エネルギー問題に関する先端技術を有しており,かつ現在も更なる革新的技術の開発に不断の努力を続けている。この成果を活かし,エネルギー変換効率の向上,再生可能エネルギーや原子力の利用拡大,電気自動車の普及等を強力に推進し,化石燃料への依存度を劇的に減らすことにより資源国への日本国民の財産の限りない流出を防ぐならば,日本での3Eの同時達成ができると信じている。それは同時に,人口増加に伴う地球規模での深刻な問題の解決に向けたリーダーシップを、日本の技術が取れるということになるのではないだろうか。

徹底した議論を通じてきちんとした技術評価,経済評価をし,ロードマップを描き,しかる後に速やかに具体的な行動に出ることが求められていると思う。


日本語のホームページへ