月刊・経済Trend 2009年4月号 巻頭言

半導体が起こすイノベーションの乗数効果

西田副議長 西田厚聰
(にしだ あつとし)

日本経団連評議員会副議長
東芝社長

100年に一度ともいわれる未曾有の経済危機のなか、危機を乗り切る強い意志と実行力が求められている。同時に、景気回復局面に向け、周到に準備を進める好機でもある。昨年来、過去に例を見ない半導体メモリの価格低迷と円高が進行し、システムLSIや個別半導体の採算悪化と併せ半導体業界は激震に見舞われている。

1948年にトランジスタが発明され、それが半導体集積回路に応用されて以来、素子寸法の微細化が進み、集積度はムーアの法則に従い1年半から2年ごとに2倍のペースで増加してきた。最先端の半導体の回路線幅は30数ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)に達した。これによって、高集積化、高速化、価格の低下が実現した。現在、半導体集積回路は、あらゆる産業で使われ、「産業のコメ」と言われる。JEITA(電子情報技術産業協会)の世界生産見通しによると、半導体素子事業28兆円を含み、2008年の全電子情報産業は237兆円に達する。

半導体集積回路は、パーソナルコンピュータ、デジタルカメラ、携帯電話、インターネットなどのさまざまな新製品を生み出す原動力となり、社会に広く普及した。さらに、自動車や社会インフラでの応用も進み、社会の変革を底辺で支えている。インターネットを支えるネットワークとサーバの情報処理量は、今後、飛躍的に増大するが、その消費電力を削減するグリーンIT技術も半導体技術の進歩によるところが大きい。最先端の半導体の応用分野は更なる拡大が見込まれ、超小型の同時音声翻訳機器によって世界の人々と互いに母国語で意思疎通ができるようになり、携帯センサーによる健康管理や遠隔医療も現実のものとなるだろう。

1990年以来、新興国の経済成長とともに、電子機器・半導体のコモディティ商品の製造は新興国にシフトし、日本のモノ作りの優位性が揺らいでいる。業界再編をも見据えた半導体産業の競争力強化を早急に推し進める必要があろう。半導体産業の競争力強化は、その10倍の市場規模をもつ電子情報産業を成長させ、自動車産業や社会インフラなどの産業にも好影響を与える。このような、産業間の垣根を越えた「イノベーションの乗数効果」が、日本経済の景気回復と持続的成長を支え続けることを信じて疑わない。


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