月刊・経済Trend 2009年7月号 巻頭言

イノベーションに取り組む決意

三浦副議長 三浦 惺
(みうら さとし)

日本経団連評議員会副議長
日本電信電話社長

現在、世界は深刻な同時不況からの脱却に取り組んでいるが、長期的に見れば、日本は他国に先んじて少子高齢化時代を迎え、医療介護・教育の充実や経済の活力維持、地方活性化などの課題も抱えている。また、低炭素革命も世界に先駆けて達成すべきである。

こうした経済危機や社会の諸課題を克服していくための鍵は、「イノベーション」である。なかでも、世の中の仕組みや一人ひとりの行動パターンを変え、新たなモデルを創出するようなイノベーションが求められる。では、このようなイノベーションのためには何が必要となるのか。

まず、技術や産業の発展によって国境や業界の壁が崩れ、さまざまな分野で融合が進みつつあるなか、既存の垣根を超え、異なる業界の人々が知恵を出しあい、刺激しあうことが必要である。そうしたコラボレーションのなかから、新たなビジネスモデルが生まれてくる。また、新技術の研究開発はもちろんだが、それに劣らず重要になるのが産官学連携などを通じ、技術とマーケットの橋渡しをすることだろう。そのためにも、迂遠なようだが人材面の全般的なレベルアップがまず必要であると考える。特に科学技術を理解するマインドを文系・理系の区別なくさまざまな立場の人が持てるよう、低学年を含めたあらゆる段階での理科教育を充実すべきである。そうしたなかから本格的な研究開発や技術経営を担う人材も育つのだろう。

日本独自の発展を否定的に捉える向きもあるが、日本企業は高度な技術力と感性の細やかさに裏打ちされた応用力を活かして、環境対応自動車やコンビニエンスストア、ゲーム機などの新市場を切り拓いてきた。各国のユーザーニーズをうまく掴まえることができれば、世界中でイノベーションを先導していくことは可能であろう。

新たな経済成長や社会的課題の解決につながるようなイノベーションは、従来の製品・サービスや事業のあり方、さらには仕事やライフスタイルの変革を迫る側面もある。だが、今回のような経済危機はイノベーションの絶好のチャンスでもある。経営者として自社の技術や事業を新たな視点で捉え直し、さらなる発展に向け変革をしていきたい。


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