月刊・経済Trend 2010年3月号 巻頭言

生物多様性と日本の技術力

大久保副議長 大久保尚武
(おおくぼ なおたけ)

日本経団連評議員会副議長
積水化学工業会長

今年10月、約190の国と地域が名古屋市に集まり、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開かれる。地球規模で急速に進む自然破壊をどう防ぐかを討議するためだ。

このところ地球温暖化(CO2削減)問題に世界の関心は集中しているが、近い将来、より根幹をなす問題として生物多様性の破壊に関心が移るに違いないと私は思っている。なぜなら、人類の生存は食料を含めた生物多様性の恵みに大きく依存しており、しかもそのバランスが(主に世界の人口増と経済発展により)近年急速に崩れてきているからだ。

COP10では「生物多様性とビジネス」も重要な議題の一つに位置付けられている。企業として生物多様性にどう取り組み、どんな貢献ができるのか。企業関係者からも積極的な発言や提案が求められている。

企業としてやるべきことはたくさんあるだろう。「木を植え森を育てる」といったCSR活動は多くの企業が取り組んでいる。製造現場における「原材料のムダ排除」などの負荷削減は生物多様性の保全に直接効く活動だ。こうした現場での地に足のついた活動を地道に続けることがまず大切だ。

とはいえ、地球規模での、特に発展途上国でのすさまじい自然破壊を目にし(私自身、毎年の自然保護協議会のミッションで10カ国以上での惨状を見てきた)、また専門家たちによるこれまで積み重ねられてきた議論を聴くにつけ、正直、われわれ企業レベルでの活動をもう一段深化させる必要を強く感じるのだ。

生物多様性のためにできる企業ならではの貢献は、「より進んだ技術開発」だと思う。あえて名付けるならば「グリーン・サステナブル・テクノロジー」。具体的には次のような分野の技術革新だ。

  1. 農・水・林業の生産性アップ(食糧危機が迫るなかで、バイオ技術による生産性向上など)
  2. 生物資源リサイクル技術(廃木材、廃衣料など、未解決のリサイクル技術)
  3. 生態系保全・再生技術(開発のなかで水・土・森などの生態系をどう保全し再生させるか)
  4. 情報モニタリング技術(森林破壊・海洋汚染などの衛星探査)

世界の専門家たちの日本の革新技術力に対する期待は大変なものだ。かつて、省エネ技術の開発で示したずば抜けた技術突破力を、生物多様性についてもぜひ発揮していきたい。


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