経済くりっぷ No.1 (2002年7月9日)

6月11日/貿易投資委員会(委員長 槙原 稔氏)

WTO新ラウンドの模様と今後の見通し


昨年11月のWTO閣僚会議で立ち上がった新ラウンドでは、農業、サービス、非農産品市場アクセス、ルール(AD、補助金、地域貿易協定)、TRIPS、環境、DSU(紛争解決了解)の改正、実施問題を対象に交渉が始められている。そこで、外務省経済局の鈴木参事官より、交渉の進捗状況と今後の見通しについて説明をきいた。

○ 鈴木参事官説明要旨

  1. 交渉の進捗状況
  2. (1) 農業:
    市場アクセスの実質的な改善、輸出補助金の段階的撤廃を目指した削減、貿易歪曲的な国内助成の実質的な削減に関し、2003年3月末までに更なる約束の形態についてモダリティ(交渉の方法・スケジュール)を決定することが決められており、現在、非貿易的関心事項と共に議論が行われている。

    (2) サービス:
    各国は、初期リクエストを6月末までに提出することとなっており、これを受けて来年3月末までに初期オファーを提出することとなっている。

    (3) 非農産品市場アクセス:
    わが国をはじめとする先進国は、4月末までにモダリティを決めるべきと主張している。これに対して途上国は、中国がWTO加盟時に約束したレベルまで関税率を下げるように先進国から要求されることを恐れており、非農産物の市場アクセスの進展を阻止している。非農産物の交渉の遅れは、他の交渉の足かせになりかねない。農産物の自由化を今次ラウンドの最大の目玉にしたいと考えているケアンズ・グループの間には、焦りが見られる。日本としても非農産物の市場アクセス交渉が遅れるような事態は避けたい。

    (4) ルール策定:
    投資、競争、貿易円滑化、政府調達の透明性については、第5回閣僚会議においてルール策定に関するコンセンサスを得て交渉に移行することとなっているが、予断を許さない状況である

  3. 今後の見通し
  4. 次回閣僚会議(2003年9月開催予定)では、市場開放の取扱いとルール策定交渉の開始が焦点となるが、途上国問題と、米国の対応が交渉を左右する。

    (1) 途上国問題:
    今次ラウンドでは、途上国は交渉から得られるものがないと考えているか、もしくはメリットが見出せずにいるため、交渉に積極的ではない。途上国が競争力を有する繊維については、2004年末までに繊維協定がGATTに統合されることとなっているが、先進国(特に、米、カナダ、EU)がどこまで途上国に歩み寄るのか明らかでない。農業も途上国が自由化を主張できる数少ない分野だが、実際に競争力を有しているのは中南米の一部の国に過ぎない。

    (2) 米国の対応:
    米国の動向も注視しなければならない。鉄鋼セーフガード、新農業法、TPA等、米国が国内生産者重視の政策を展開していることに対してWTO加盟国より批判が出ている。米国の保護主義的姿勢は新ラウンドの推進力を弱めることになりかねない。

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