経済くりっぷ No.2 (2002年7月23日)

7月4日/輸送委員会企画部会(部会長 横山善太氏)

投資家から見た空港の民営化


わが国では現行の第7次空港整備七箇年計画が2002年度をもって最終年度を迎えることから、現在、国の空港整備計画の策定作業が本格化している。経済界としては、わが国産業の国際競争力を強化していく観点から、人流・物流の効率化に資する、大都市圏の国際拠点空港の整備・管理運営のあり方などについて検討を深めていく必要がある。そこでUBSウォーバーグ証券会社投資銀行本部の伊藤友則本部長より、投資家からみた日本の空港の民営化などにつき説明をきくとともに、意見交換を行った。

I.伊藤本部長説明(要旨)

1.空港民営化のトレンドとその手法

 これまで空港民営化を行った国としては欧州諸国が多いが、近年、中国やインド、またメキシコやアルゼンチンなどでも実績があり、空港の民営化は一般的になりつつある。先駆となったのは、1987年にIPO(株式公開)により民営化した英国空港会社(BAA)であり、90年代以降、他の欧州諸国でも民営化がみられるようになった。
 空港民営化において用いられる主な手法として、(1)IPO方式、(2)第3者への売却方式、(3)合弁会社/戦略的パートナーシップ方式など、民間への所有権の移動を伴う民営化手法がある。また、(4)マネジメント契約方式、(5)BOT方式(民間事業者が施設を建設、維持管理および運営を行い、事業終了後に公共に施設所有権を移転)、(6)リース/コンセッション方式など、契約に基づく民営化手法もよくみられ、欧州の多くの空港では(1)、米国の空港では(4)の方式がそれぞれ用いられている。

2.民営化の主な目的

 空港の民営化に当たって考慮すべき点は、何よりもまず空港が重要な戦略的資産であるということである。したがって、国としては民営化後も、国益が満たされるよう、空港資産を適切に維持することが重要である。また、空港が自然独占の性格を有することから、国による規制の枠組みが必要である。一方、政府の過剰なコントロールは民営化の効果を損ないかねないため、着陸料などのサービスの内容・料金について、空港運営会社が最適なサービスミックスを提供することが求められる。
 事業戦略においては、経営効率の改善が重要である。現在の成田の着陸料は世界一高く、当該空港を利用する全旅客のうち、乗り継ぎ中継地として利用する旅客の割合(ハブ機能)をみると、フランクフルトの51%に比して成田は9%に過ぎない。成田でハブ機能を向上させることができれば、収益の増大が見込める。また、着陸料などの航空系収入と、免税店、飲食店など商業施設収益などの非航空系収入をみると、成田の非航空系収入の割合が32%であるのに対して、BAAでは70%を超えている。これは、民営化されたBAAの営業努力によりヒースロー空港などの商業施設が充実し、売上が伸びたためである。成田を民営化するに当たっても、非航空系収入をどれだけ伸ばせるかが、大きなポイントとなろう。

3.民営化における成功要因

 BAAが87年に株式公開した際、BAAの価値評価は2,600億円強であったが、2002年7月現在、時価総額は1兆1,670億円にのぼっている。これは、BAAの努力により、投資価値が飛躍的に増大したことを表しており、空港民営化の成功例と言えよう。現在の上場空港数は世界で10余りあるが、近い将来民営化が予定されている空港も多く、本年以降、上場空港数は26程度まで増加すると見込まれている。
 市場価値を重視する投資家にとって、空港株は魅力的と言える。とりわけITバブルの崩壊以降、空港株のディフェンシブ性(景気変動に左右されない安定性)が注目されている。こうした市場における選好は、空港株が現市場環境下で市場平均を上回る株価を示してきたことにも表れている。
 一方、最近の投資家にとっての主要な懸念事項は、成長性(航空利用旅客は今後も堅調に増えるのか否かなど)やコスト削減の可能性である。このため、機関投資家は、必ずしも必要ではない設備投資計画の見直しや中止、また需要予測に応じた柔軟な設備投資計画の変更など、航空収入の減少の影響を和らげる施策を期待している。
 いずれにせよ、潤沢で安定的なキャッシュフローとコスト削減による収支改善余地があるため、空港は魅力的な資産であり、空港民営化の成功に係る大きな要因となっている。一方で、環境問題を含め明瞭な規制環境の有無、経験豊富な経営陣の有無、また直接的な競争の有無などが主な留意点として挙げられよう。
 成田の投資ケースについては、豊富で安定的な2国間旅客需要、最先端の設備、平行滑走路完成後の成長性など大きな強みを持っているほか、店舗販売収入など非航空系事業収入の成長性が期待され、成田が成功裏に民営化するための条件は十分に整っている。ただし、高い負債比率、地元住民の反対など環境問題、高コスト構造などは、依然として懸念材料である。

4.上下分離方式のメリット・デメリット

 現在、国土交通省では、国際拠点空港の民営化に関して、成田、関空、中部の3空港の上下分離方式(空港整備や土地など下物部分については、3空港一体として公的法人が保有。ターミナル管理や空港運営など上物部分については、空港毎に完全民営化)を検討している。しかし、3空港の下物に係る負債を平準化することによって、成田の施設使用料が本来の水準より高くなれば、民営化された空港運営会社の株式価値を押し下げる要因になる。
 また、他空港の債務負担軽減を目的とした、個々の空港運営会社への債務の移譲は、大きく株式価値を減じるものと考えられる。投資家や格付機関が、施設使用料を事実上の債務とみなす可能性も高く、上下分離方式が空港の価値評価に対して好影響を与えるとは限らないことに留意すべきであろう。

II.質疑応答(要旨)

経団連側:
3空港の下物部分を一体化することにより、成田が関空の債務を引き受けると、追加的負担が発生し、成田の投資価値が減じると思われるが、成田の民営化の可能性は。
伊藤本部長:
将来、成田の努力次第で収益性が向上するなどのポテンシャルを考慮する必要があるが、現状で判断する限り、成田の民営化はより困難となろう。
《担当:産業本部》

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