経済くりっぷ No.3 (2002年8月13日)

7月17日/経済法規委員会コーポレート・ガバナンス部会(部会長 村山 敦氏)

日本の強みを生かしたコーポレート・ガバナンスの改革を

−日米欧のガバナンスの要素の比較から


経済法規委員会(委員長:御手洗副会長)では、コーポレート・ガバナンス委員会(2002年度をもって経済法規委員会へ統合)の機能を引き継ぎ、新たにコーポレート・ガバナンス部会を設置した。7月17日の第1回部会では、5月に改正された新しい商法の下でのコーポレート・ガバナンスのあり方を探るべく、国際的監査法人のKPMGUKパートナーのマーク・ストック氏を招き、日米欧のガバナンス・モデルの比較について説明をきき、今後のコーポレート・ガバナンスの課題について意見交換をした。

I. ストック氏説明要旨

1.「原則」「開示」のルールによる英国

コーポレート・ガバナンスのあり方を考える上で、各国の市場の中でどういった要素が重視され、それが経営に生かされているのかを考える必要がある。米国企業は短期的利益の追求に、日本企業は長期的経営を重視している。欧州諸国の企業経営の目標は日米の中間に位置するものが多い。上場会社であってもファミリー経営をしている企業が多いこともその背景にある。
投資家等への情報の開示は、国によって考え方や運用が異なる。開示ルールを詳細に定めているドイツや日本、さらに、問題がおきるごとに改訂を行なう米国の一方で、英国、オランダのように「原則」を定め、後は運用で対応する国がある。原則を定めて柔軟に対応する英国ではエンロンのような事件が起きたとしても、このような世界的大問題にまでは波及しなかったと考える。
米国企業は取締役会の大勢が社外者によって構成されているが、およそ8割の企業では取締役会長とCEOが兼務している。したがって任命権者であるCEOに異議を述べることは困難な状況にある。これでは経営の執行と監督機能の分離がなされていない可能性があり、社外取締役の本来の機能の発揮が担保されない場合が往々にしてありうる。一方英国では、非執行取締役(事業に直接関わりのない取締役を指し、社内取締役でも、事業からの独立性が保たれていれば非執行とされる)が取締役会長となり、CEOとは分離されており、経営の執行と監督の分離が徹底されている。英国では原則の運用は個々の企業に委ねられており、原則を適用しない企業は理由を開示し、投資家に判断させることになる。米国のように社外性、独立性の細かな要件を定める代わりに、原則の適用状況を開示している。日本も今年の商法改正により、ガバナンスの選択制を導入した。法律で規定はするが運用には企業ごとの判断に委ねる余地を残したと聞くが、そうであれば比較的正しい方向であろう。

2.各国の取締役会の構造比較

米国、英国の取締役会の構造は一階層制である。ドイツはマネジメント・ボードとスーパーバイザリー・ボードからなる二階層制だが、最近は監督機能を持つスーパーバイザリー・ボードに監査委員会を置くこともでき、米国型に近づいてきた。日本でも取締役会内に監査委員会を置き、監査役を置かない一階層制(委員会設置型)を選択できるようになった。世界は同じ方向に収斂しているように見えるが違いもある。
ドイツでは従業員代表を取締役会の構成員としてきた。フランスでは社員持株会を通じて、英国では退職者年金基金を通じて、社員の意向を経営に反映している。欧州の企業経営は、米国のように投資家を重視するものとは異なり、社員をステークホルダーの重要な一員と捉えている。日本もこれまでの中長期的な戦略の実践や社員重視の慣行などの経営指針まで失うべきではない。
米国では短期の業績を重視しており、四半期ごとの業績達成が強く要求される。こういった短期志向の圧力や社内文化は、企業を誤った方向にリードする可能性があるため、議論がある。短期的な業績を挙げ、手早く金持ちになれれば、3年後はどうなってもいいというような経営者は育てないようにしなければならない。

3.コーポレート・ガバナンスと内部監査

コーポレート・ガバナンスとは,企業の業績と企業価値を向上させるためのシステムとプロセスである。市場の国際化の進展に伴い、投資家などのステークホルダーは、企業の説明責任基準、企業行動基準、業績基準などの高度な基準を要求するようになっている。内部監査機能は、従来の内部統制システムが意図したように機能していることを保証する機能に加え、リスクマネジメントにとっても重要な役割を果たすものとなっている。
世界の模範となる企業のガバナンスは、

  1. リスクを最適化し企業価値を高めるための統制環境、
  2. 経営者の確信プロセス、
  3. 監督機能の独立性を高める取組み、
という3つの防御体制を備えている。リスクを最適化し経営者が意図したとおりに機能する統制環境が整備され、事業目的に適合し、また機能していることを経営者が確信し、それを監督する態勢が全社的に配備・機能していることがガバナンス構築上重要である。
1999年にイギリスで公表されたターンバル委員会報告書は、リスクマネジメントと内部統制を経営に組み入れ、それを対外的に明示するというガイドラインを示している。対外的に説明できるようにすることで、過剰な内部統制による価値の低下を防ぎ、リスクへの挑戦を正当化できる。リスクとコントロールがバランスしなければ価値は最大化しないのである。

II. 意見交換

日本経団連側:
日本の商法改正の印象はどうか。
ストック氏:
監査委員会の役割をどう定義づけるかが重要である。ガイドラインが必要ではないか。

日本経団連側:
日本には日本の文化にあったガバナンスがあるのではないか。
ストック氏:
欧米企業のビジネススクールでは、利益の最大化が企業にとって最も重要な原点であることを最初に教える。エンロン事件の反省点は、利益の最大化のみに集約した経営スタイル、短期的業績評価、自国第一主義であり、今後は海外にも学ぶべきだ。しかし国際的に活動するには以心伝心では伝わらない。グローバル化の中でコミュニケーションの充実は不可欠だ。
《担当:経済本部》

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