経済くりっぷ No.3 (2002年8月13日)

6月26日/資源・エネルギー対策委員会企画部会(部会長 石井 保氏)

エネルギーセキュリティとわが国の課題


エネルギー政策には、「エネルギーセキュリティ」「環境」「経済合理性」の3Eの課題がある。近年、米国同時多発テロ事件などにより、エネルギーセキュリティへの懸念が改めてクローズアップされている。資源・エネルギー対策委員会企画部会では、日本エネルギー経済研究所の十市勉常務理事・首席研究員を招き、エネルギーセキュリティとわが国の課題について説明をきいた。

I. 十市常務理事説明要旨

1.高まるセキュリティへの関心

2000年秋、欧米諸国で石油製品の価格が高騰し、第一次石油危機以来の大きな混乱となった。さらに米国同時多発テロ事件、パレスチナ、イラクの問題など、中東地域の安定に対する懸念が高まってきた。
また、中長期的には、アジア諸国、とりわけ中国のエネルギー輸入が増加し、日本のセキュリティにとって看過し得ない要因となる。
一方、電力・ガス自由化もセキュリティに影響を与える。自由化によって短期志向が強まると、原子力発電所や送電網のような長期的な設備形成が難しくなるためである。

2.日本の現状

日本のエネルギー自給率(1998年)は6%、準国産の原子力を含めても20%にしかならない。石油依存度(52%)は低下しつつあるが、中東依存は高まっている。アジア全体でも中東依存は高まっており、供給途絶が起きればアジア経済への影響は大きい。
日本のセキュリティ対策は、備蓄、石油自主開発、代替エネルギーの3つを柱としてきた。現在、効率性や官民の役割分担に関して見直しが求められている。

備蓄
国家備蓄5000万kl、民間備蓄70日を目標に、国備基地の整備、民間備蓄への補助等に取り組んできた。備蓄量は160日を越え、OECDの平均を上回る。第二次石油危機や湾岸危機を見ても、備蓄は有効に機能している。石油公団の再編の中、備蓄についても、公団の資産を国に移すことで、責任は国が持ち実際の運営は民間企業に任せるという、官民の役割分担の見直しが図られている。

石油自主開発
石油公団の成果が十分でなく、公団の再編の発端になった。探鉱事業に対する国の出融資制度が見直された。

代替エネルギー
原子力、LNG、石炭、新エネルギーに注力してきた。中軸である原子力では、核燃料サイクル等の課題がある。

3.欧米の自由化政策とセキュリティ

世界各国でエネルギー市場の自由化が進展している。ただし欧米は、セキュリティを担保した上で競争を導入している。
米国は昨年「国家エネルギー政策」を発表するなど、国家としてのグランドデザインを持っている。さらには、その軍事・政治力がセキュリティの拠り所となっている。
EUは、北海油田の枯渇まで時間があり、ロシア、アフリカとのパイプライン網も整備されるため、エネルギーで余裕がある。このことが自由化政策の土台となっている。
エネルギー産業ではここ数年で巨大企業化が進んだ。石油メジャーは一気に再編が進み、ExxonMobil、ChevronTexaco、BP Amocoが登場した。ドイツでは、電力会社だったRWEやE.ONがガス会社などを買収し総合エネルギー企業となった。これら巨大企業は、アジアを含む世界市場で積極的に事業展開している。

4.日本のセキュリティ対策

日本も、自由化にあたってはエネルギー政策のグランドデザインを描くべきである。強力なエネルギー企業が存在しない状態で直ちに競争を導入するのは望ましくない。
セキュリティ対策の第1は、原子力、新エネルギー、省エネルギーなどの技術開発である。戦略として明確に位置付け、世界と技術協力を進めながら推進すべきである。
第2は、供給のネットワークというコンセプトである。欧米では、送電線やガスパイプラインのネットワーク化によって、供給の多様性や柔軟性が増している。日本も送電網、ガスパイプライン網の整備強化に取り組むべきである。中長期的にはアジア諸国とのネットワークが現実化する。これは物理的なものだけではなく、例えば石油では日韓で共同市場化の構想がある。
第3は、実際のエネルギー供給を担う競争力のある民間企業をいかにつくるかである。欧米で巨大企業化が進展する中、自由化の過程で既存企業を解体するのは望ましくない。だたし、競争力強化のためには、外資も交えた競争環境を整備すべきである。

5.官民の役割分担

原子力
電力自由化で市場環境が不透明になり、総括原価方式が崩れてきている。そのため、自由化を経た多くの国と同様、バックエンド対策等における官民の役割分担をもっと明確にすべきである。

自主開発
石油公団は、プロジェクトを絞り込み、金属鉱業事業団と統合する方向が決まっている。公団傘下の企業は、石油自主開発を担える中核的企業を作るためには、自立できる企業を統合してから民営化すべきであろう。解体してしまうのでは、これまで投じてきた資金が生かされない。

ガスパイプライン
サハリンのガス田は、日本がコミットしなければ他の国に持っていかれる。開発には主体となる強い民間企業の存在が不可欠である。国は、そのような企業を育てるべきである。

日本のエネルギー政策は個々のセクションでの短期的な対応に終始していると感じている。国家としてのグランドデザインを描き、その中で何をすべきかを考えるべきであろう。

II. 意見交換

日本経団連側:
電力・ガスの自由化で外資が導入されれば、競争の活性化の観点からは好ましいが、セキュリティの問題は生じないか。
十市常務理事:
既存企業を解体せずとも、既存企業に対し新規参入者と外資が組むなどすれば、競争は活性化できる。その際は、石油産業がOECD自由化コードの留保業種となっているように、電力・ガスについても投資のルールを設定すべきである。

日本経団連側:
アジアとの関係はどう考えるべきか。
十市常務理事:
石油についてはアジア太平洋エネルギー研究センター(APERC)を中心に情報の共有化を始めている。中国、台湾の石油備蓄に対しても日本からの協力の動きがある。中長期的には技術開発で貢献できるだろう。これらは日本のセキュリティにとっても有益である。
《担当:環境・技術本部》

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