経済くりっぷ No.4 (2002年9月10日)

8月6日/倒産法改正に関する打合せ会

倒産実体法に金融取引などの変化の流れを取り入れる

−獨協大学 高木教授と意見交換


9月3日、法制審議会総会は「会社更生法改正要綱」を法務大臣に答申し、秋の臨時国会に新会社更生法案を上程予定である。1996年に開始した倒産法制の改正作業もいよいよ破産法・倒産実体法の改正を残すのみとなった。法制審議会の倒産法部会は、9月からの破産法・倒産実体法の改正作業を開始するが、その前に経済法規委員会倒産法改正に関する打合せ会は、獨協大学の高木新二郎教授を招き、倒産実体法の改正についての考え方について意見交換を行った。

I.高木教授説明要旨

1.プロジェクト・ファイナンスへの対応

今後の企業融資においては、不動産の交換価値に着目した不動産担保融資のみならず、プロジェクト・ファイナンスやシンジケート・ローンなど事業の収益力を重視した融資が増えるであろう。
これらの融資では事業の収益力やキャッシュフローを重視するとともに、不動産だけでなく機械設備、原材料、仕掛品、製品、知的財産権、営業ノウハウ、売掛金、預金口座に至るまで、対象となる事業用の財産が根こそぎ担保の対象とされる(浮動担保、財団抵当)。いったん倒産すると、その後の運転資金に使えるものが何も残されないという事態になる。
そのような事態があるとすればDIP(Debtor in possession)ファイナンスについての手当が必要になる。再建手続開始後の新融資による債権にスーパー・プライオリティを認めて超優先共益(財団)債権とすることや、既存の担保権に優先する担保権の設定を認める「プライミング・リーン」の導入を検討する必要がある。事業用資産は事業を継続しなければ価値が低くなるから、ニューマネーの融資により再建が可能となり、既存担保物の価値が維持増大するのであれば、元々の担保権者にとってもプライミング・リーンを認める合理性がある。
法制審議会担保・執行法制部会では、短期賃貸借の廃止や商事留置権の見直し、執行制度の改善が論議されているが、さらに集合動産公示制度の創設や財団抵当の改正などに進むべきであろう。
民間金融機関等が続々と再生ファンドを立ちあげるなど企業再建の環境が変化しつつある。既存の論点だけでなく、これらの変化に即応した法整備が必要となる。

2.証券化への対応

不動産の証券化の障害となっているとされる「適正価額による売却であっても不動産を売却して消費しやすい金銭に換えることは特段の事情のない限りは詐害行為として否認の対象となる」との大審院判例は、すでに解釈で実害が無くなっている。改正法ではこの判例の考え方を明文で否定し、不動産の換金が詐害行為に当たらないことを示す必要がある。
また、将来の賃料債権譲渡を禁止する破産法63条は、リース債権の証券化の阻害要因となっており削除すべきである。否認権行使により詐害的な賃料債権譲渡は防げる。
ショッピングセンターの不動産所有権及びその受益権の信託譲渡の中には、証券化の名を借りた融資となっているものがあるとの指摘がある。更生担保権として扱うべきだというのである。こうした指摘は証券化の普及に重大な波紋を投げかけた。米国でも「真正売買」かどうかの判断基準について議論があるが、先般、下院を通過した連邦倒産法改正法案(未成立)中に「全国的に認められた格付機関により最上級の投資適格があると格付けされた場合には財団に組み入れることができない」との条文がある。裁判所ではなく格付機関に真正売買かどうかの判断を委ねてしまうというのである。真正売買でないとすれば、優先部分はともかくメザニンローンや劣後部分の支払いに問題が生ずる。
倒産隔離の問題もある。証券化資産の信託譲渡を受けた受託者たる信託会社が倒産した場合に受託財産の独立性を保つ必要がある。倒産手続開始時に、受託財産と固有財産が混合しないようにする必要がある。
SPCに倒産手続開始原因が生じることは仕組み上考えにくいが、もしSPCについて倒産手続開始原因があれば、濫用的申立であるなどの例外的な場合を除き、倒産手続を禁止することはできないだろう。

3.未履行契約の再考

倒産手続開始を契機に、従来までの関係に決着をつけて再出発を図るために、双方未履行双務契約の解除・引受の制度があるが、それは双方未履行双務契約だけでなく、全ての未履行契約共通の問題である。未履行契約の解除をした場合に、相手方の損害賠償請求権が破産債権・再生債権・更生債権となることは当然だが、相手方がなした請求権、原状回復請求権が財団債権・共益債権となるとの現行制度には疑問がある。未履行契約の解除選択の障害となっており改正が必要である。

4.実務の声を反映した改正を

今回の破産法・倒産実体法の改正検討事項は、従来からの課題を幅広く拾いあげているが、金融取引や証券取引、担保取引の新たな変化を十分に取り入れていない。産業界・金融界からの問題提起に期待したい。

II.意見交換(要旨)

日本経団連側:
わが国の現状でスーパープライオリティーやプライミング・リーンを認めるのは困難ではないか。
高木教授:
現状が変わらないことを前提とする限りはそのとおりである。超優先債権については、労働団体側から異論が出るだろうが、再建を達成できなければ労働債権はもとより雇用も確保できないことを理解してくれると思う。また不動産担保中心ではなく棚卸資産担保や包括担保などを考えると、既存の担保権に優先させることにも抵抗が少なくなるはずだ。

日本経団連側:
リースにはさまざまなものがあり、実情に即した取扱いが必要と思うがどうか。
高木教授:
最高裁判例はファイナンス・リースを更生担保権とした。しかし民事再生法の担保権消滅請求で消滅させられるのは、利用権なのか所有権なのかという問題が持ちあがった。濫用的脱法的でないかぎり、当事者の合意による契約内容をできるだけ尊重すべきだと思う。
《担当:経済本部》

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