経済くりっぷ No.5 (2002年9月24日)

9月3日/新入会員代表者との懇談会(司会 和田事務総長)

新入会員代表者より新団体に対する率直な意見・要望をきく


昨年度後半に入会した会員代表者7名および奥田会長、和田事務総長ほか事務局役員4名の出席を得て、日本経団連としては初めての標記懇談会を開催し、率直な意見交換を行った。

I.新入会員代表者発言要旨

1.NEC東芝スペースシステム
  林 宏美 社長

当社は、NECと東芝の宇宙関連事業を統合して、昨年10月1日に営業を開始した。まだ、営業を開始して日も浅いが、宇宙関連事業には昭和30年代から携わってきており、その意味では、古い事業内容を柱としている。
当社の課題は、いかに最先端技術を開発し、その成果を活用して、国際競争の中で事業の拡大を図っていくかにある。
また、わが国においては、産業の空洞化が懸念されている。特に、製造業の海外移転が一段と進展しており、海外から半導体などの部品を調達せざるを得ない状況にある。しかし、それでは安定的な供給は望めないし、何かことが起これば、部品の供給がストップされてしまう。
したがって、日本経団連には、わが国の産業の空洞化を阻止するため、国内に生産拠点を持ちながら、技術開発などを行えるような環境づくりに尽力してほしい。

2.パワードコム
  種市 健 社長

当社は、電力系通信会社10社(PNJグループ)が、企業向け通信事業を強化するため、データ通信部門を統合し発足した。現在、通信会社には高度なサービスの提供が要求されている。当社の強みは、中継系からアクセス系まですべて自前の光ファイバー網を保有しているところにある。また、全国11ヵ所でエリアごとに、24時間監視体制の下で通信ネットワークを運用しており、顧客企業からは高い評価を得ている。
日本の社会は、何か問題が生じるとそこが大きくとりあげられ、全てが否定されてしまう傾向がある。また、販売店ベースでは値下げ競争でコスト割れをおこすことも見うけられる。本来の自由競争とは何なのか、疑問を感じている。

3.シー・アイ・シー
  佐藤 磨 社長

個人信用情報の新規利用額は70兆円を超え、日本の国家予算に匹敵する。クレジットカードの発行枚数も2億3,000万枚に達している。当社は、主要クレジット会社の共同出資により、昭和59年に設立されたクレジット業界の個人信用情報提供会社である。保有情報量は2億375万件、平成13年度の月間の平均照会件数は1,440万件となっており、信用情報サービス会社としては国内最大規模である。
当社の業務で最も重要なことは、個人プライバシーに関する信用情報をいかに保護していくか、加盟会員が利用しやすく、必要性の高い情報を整備していくかにある。
現在の最大の関心事は、先の通常国会で継続審議となった、個人情報保護法案の成否の行方である。住基ネットとの関連から、同法案の成立が急がれているが、当社では、法案が要求する水準以上の十分な情報保護体制をすでに業界の自主ルールとして定めている。
今後、日本経団連におかれても、個人情報の保護と利用のあり方や信用情報産業確立のための施策を考えてもらいたい。

4.パトリス
  和田 裕 社長

パトリスの社名は、特許情報専門のオンラインシステム「PATOLIS」(Patent Online Information System)に由来する。このシステムは、約30年前に、産業界から資金協力を得て、特許申請の増加に対応すべく、先行事例調査をはじめとする特許データの検索・解析をコンピュータでできるようにしようという試みから生まれた。そのため、特許庁は審査・審判に専念し、特許情報については(財)日本特許情報機構が提供することとなった。2000年11月には、民需用特許情報サービス事業を引継ぎ、いわゆる公益法人民営化の第1号として「パトリス」が設立された。
現在、官庁が保有する膨大かつ詳細な情報をどのような形で一般に公開するのか、それにより民間のビジネスが圧迫されることがないか等の議論がまったくなされていないのが現状である。特許情報業界では、特許庁が無償でデータを公開してから、業界全体の売上が従前の3分の2に減少した。官民の役割分担の見直しが急務である。

5.日本アバイア
  鵜野 正康 社長

日本アバイアは、2000年9月にルーセント・テクノロジーから分離・独立して誕生した。その理由は、企業向けの製品提供・開発に注力するためである。日本では、大規模コールセンター向け交換機やCRM(Customer Relationship Management)市場に大きく貢献している。
現在、地域経済の活性化という観点から、コールセンターの誘致が盛んになりつつある。たとえば沖縄では、NTTなどがコールセンターを開設しており、東京や大阪などの大都市圏に居住する顧客からの電話対応にあたっている。世界的に見ると、米国などの英語圏はインド、欧州はアイルランドにコールセンターを設けている。特に、インドは人材育成に熱心で、同じ英語でも国ごとに発音を変えられるように、オペレーターをトレーニングしている。
すでに当社は、AT&T、ルーセント時代を含めると15年以上日本において事業活動を行っている。この間の若い人たちの生活、職業など対する価値観の変化には驚くべきものがある。そのような人たちにモチベーションとモラルを持たせ、いかに能力を発揮させていくか、企業はもとより日本の経済社会にとっても大きな課題となろう。また、韓国やシンガポールの若者は、日本の文化に対して大変な憧れをもっている。
そこで、日本経団連には、世界に対するさまざまなコミュニケーションを通じて、日本に対する理解を深める役割を担ってほしい。

6.ドリームインキュベータ
  堀 紘一 社長

2000年6月に「ドリームインキュベータ」を設立した。その理由は、それまで経営コンサルタントとして大企業の経営者と話をしていて、現在の日本経済低迷の原因は、政治ではなく、企業側にあると感じたからである。特に、今の大企業には、チャレンジ精神がない。着地点や結果を気にしすぎて、人に語れる失敗経験すら持ちあわせていない。
さらに、日本では、ベンチャー企業がなかなか育たない。ベンチャーキャピタルは多数あるが、知恵やノウハウを教えるベンチャー支援企業がない。米国では、ベンチャー企業が成長することによって、経済が支えられてきた。そこで、大企業がチャレンジや失敗できる風土をつくるとともに、ベンチャー企業の育成を通じて、日本経済の再生を図るべく会社を設立した。
その一方で、ソニーの出井会長やユニチャームの高原会長から、日本経団連で新事業・新産業の育成に力を貸してほしいとの要請があった。よく話を聞くと、日本経団連に入会して手伝えということであった。自分自身の人生の哲学として、いかなる政党や団体にも属さないことを一番大切にしてきたため、一度は断ったものの、日本経済の再生を手伝うということは、自分が会社を設立した理由と同じであることに気づき、一生で一度の例外として、日本経団連に入会し、新産業・新事業の育成に取り組むこととした。今まさに懸命に取り組んでいるところである。

7.加藤文明社印刷所
  加藤 純男 社長

印刷業界は、ITの急速な普及によって、技術革新が進展した。以前は、活字を一つ一つ拾っていたが、今ではコンピュータで短時間に処理できる。その結果、中小の印刷会社は淘汰された。かつて印刷業界は、15兆円産業といわれたが、今では半分の8兆円規模まで縮小している。当社は、1914年の設立で、社長として3代目にあたるが、大変環境厳しい中、種々の新たな課題にチャレンジしながら、経営を行っている。
当社の特長は、教科書の印刷に強みを持つことにある。しかし、最近の教科書はカラー化が進んでおり、受注競争も激化している。一方で、会社を大きくすることだけが良いこととは思っていない。適正規模の、経営がしっかりした会社にしていきたいと考えている。

II.自由懇談(要旨)

パトリスの和田社長からは、

  1. 委員会における意見交換の時間が短い、
  2. 日本経団連の意見が政府の政策にさらに反映されるように工夫すべき、
  3. 国民に対して活動内容をより広報する必要がある、
との意見が出された。
また、ドリームインキュベータの堀社長からは「事務局は優秀すぎて何事にも準備をしすぎる。物事は何が起こるかわからないから面白い。事務局はもう少しいい加減でいいのはないか」との意見が寄せられた。
最後に、奥田会長から「本日話を伺い、日本経団連としても、重厚長大な面を含め、自らを変えていかなければならないと痛切に感じた」との発言があった。

《担当:総務本部》

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