経済くりっぷ No.6 (2002年10月8日)

9月4日/経済法規委員会企画部会(部会長 西川元啓氏)

来年秋の臨時国会に破産法・倒産実体法の改正法案を提出

−法制審議会倒産法部会の審議状況についてきく


法制審議会倒産法部会では、1996年の倒産法制全体の見直しへの着手以来、民事再生法、個人債務者再生手続、国際倒産法制、会社更生法の改正につき要綱案を検討してきている。現在、同部会は、破産法・倒産実体法の改正要綱案について、来年秋の臨時国会提出を目途に議論を進めている。日本経団連経済法規委員会企画部会では、その中間試案取りまとめを前に、法務省民事局の小川秀樹参事官から検討の概況をきいた。また、当日は併せて、司法制度改革推進本部事務局より「仲裁法制に関する中間取りまとめ」についてきいた。

I.法務省小川参事官説明要旨

1.法人に対する破産手続の見直し

法人に対する破産手続は通則的部分であり、多岐にわたる改正を検討している。
具体的には、

  1. 債権者集会を書面で行うことを認める、
  2. 厳格な債権調査と確定手続を緩めて手続の迅速化を図る、
  3. 破産宣告に至るまでの保全処分として包括的禁止命令制度を導入する、
  4. 別除権者の取扱いを見直し配当手続に参加しやすくする、
  5. 大規模破産手続については知識と経験の蓄積のある東京、大阪の裁判所に申し立てができるようにする、
といった内容である。

2.個人に対する破産手続・免責手続

個人の破産については、担保・執行法制部会で民事執行法の差押禁止財産の範囲(1カ月の必要生計費21万円等)について見直しが進められており(平成15年通常国会に改正法案を提出予定)、これと平仄をとって自由財産の範囲を拡大する改正を行う。
個人破産の場合、破産手続と免責手続を一体化することが自然であり、免責決定までの間は個別執行ができないようにする。一方で非免責債権の拡張の要請があり、モラルハザードがおきないよう対応していく必要がある。
その他、破産法の倒産犯罪対応、現代語化といった課題がある。

3.倒産実体法の見直し

倒産実体法は、平時の債権債務関係が倒産時にどのように変わるのかを決める。具体的課題と検討状況は以下の通りである。

  1. 賃借人の破産の場合、賃借人の財産権の保護は破産債権者の利益に一致するので、賃貸人からの解約を認めない。一方、賃貸人の破産の場合、賃借人が登記、登録など第三者対抗要件を備えていれば破産管財人が解除できないこととする。これはライセンス契約の場合も同様だが、登録制度などが一般に利用されていないため、ライセンサーが破産した場合にライセンシーがライセンスを利用しつづけることが困難になる。この問題の対応については、経済産業省が検討を進めており、その推移を注視している。

  2. 一般の破産債権者に対抗できる賃料債権の処分を2ヵ月分に限るとする破産法63条、103条を削除する。

  3. 倒産時に、履行期を異にする複数の債権・債務を一括清算し、残額債権を一本化することを予め定める「一括清算ネッティング条項」を、デリバティブ取引に加え、他の相場のある商品取引でも利用できることを明示する。

  4. 電気・ガスなど継続的給付を目的とする双務契約では、給付を受ける側が破産した場合、供給側は破産申立て前の請求について弁済がないことを理由に破産宣告後の義務の履行を拒むことはできない。そこで、破産申立て後破産宣告前の請求権は財団債権(抵当権などの別除権に次いで優先順位の高い債権)とする。

  5. 租税債権をほぼ全面的に財団債権とすることは批判が強く、一定のものについては優先債権(財団債権に次ぐ優先順位の債権)とすることを検討している。

  6. その他、合意による劣後債権(劣後ローン)については、破産法・民事再生法・会社更生法における位置付けを明確化する。労働債権の財産債権への引き上げや管財人が双務契約を解除する場合の相手方の原状回復請求権の取扱いを明確にする。

  7. ひとつの債権に複数の債務者がいる場合に債務者の何れかが破産した場合の債務者間の求償権の取扱いや、否認権の行使要件については、明確化する。

  8. 破産管財人が催告をし、一定の期間内に破産債権者が破産財産に属する債権と破産者の債権とを相殺しない場合には他に対抗できないこととする。また、破産債権者一般の利益に適合するときは、破産管財人による相殺を認める。

4.今後の日程

これら課題については10月から2ヵ月間の意見照会を経て、来年7月には部会としての要綱案を取りまとめ、来年秋の臨時国会に所要の法案を提出する予定である。
なお、商法の会社整理と特別清算規定については、平成17年頃を目途に進められている商法の現代化の際に併せて改正することとしたい。

II.司法制度改革推進本部事務局 近藤参事官説明要旨

国際仲裁の統計を見ると、アメリカの国際仲裁機関の受理件数は2001年に649件、同じく中国731件、香港307件、韓国65件である。これに対し、日本の国際商事仲裁協会は17件にとどまる。日本の仲裁法制は基本的に110年前に制定されたままであり、経済実態にそぐわないものだからである。そこで、UNCITRAL(国連国際商取引法委員会)国際商事仲裁模範法(1985年制定)に準拠して、新たに整備することとした。
仲裁には、

  1. 裁判所の援助・監督を受けながら、当事者が選んだ専門家による判断が得られる、
  2. 一般に非公開で営業上の秘密やプライバシーが守れる、
  3. 一審限りで、解決に要する期間が短い、
  4. 外国仲裁判断の承認および執行に関する条約(ニューヨーク条約・160ヵ国で調印)があり、外国において仲裁判断を執行することが容易である、
  5. 多数当事者間の紛争解決が図れる、
といった特長がある。
司法制度改革推進計画に従って、仲裁法制は、平成15年の通常国会に所要の法案が提出される。これにより国際化やオンライン化への対応や関連裁判手続・費用・時効中断に関する規定等の整備が進むものと期待される。

《担当:経済本部》

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