経済くりっぷ No.6 (2002年10月8日)

8月9日/資源・エネルギー対策委員会企画部会(部会長 石井 保氏)

原子力を巡る課題


わが国はエネルギーセキュリティや地球温暖化対策の観点から、供給安定性が高くCO2を排出しない原子力の利用を推進している。しかし原子力発電は投資回収に長い期間が必要であり、核燃料リサイクルといった重要な課題もある。資源・エネルギー対策委員会企画部会では、米国科学アカデミー評議員を務める、東京大学大学院工学系研究科の鈴木篤之教授を招き、原子力を巡る課題について説明をきいた。

I.鈴木教授説明要旨

1.核燃料リサイクル

青森県六ヶ所村に使用済み核燃料再処理工場の建設が進んでいる。工事進捗率は90%に至っており、2005年7月の運転開始を予定している。
核燃料リサイクルとは、使用済み核燃料からウランやプルトニウムを分離し、燃料として再利用する計画である。フランス、英国はこれに積極的である。一方米国は20年以上前、再処理せずに使用済み核燃料をそのまま直接処分する方針に転換した。わが国は、資源の有効活用の観点から再処理の方針を貫いており、これまで海外に委託していた処理が一段落するのに合わせ、国内での再処理が始まる。
わが国にある52基の原子力発電所は年間1,000トンの核燃料を消費する。うち年間800トンを再処理する計画である。現在までの直接工事費は2兆1,400億円であるから、計画通り15年間で1万トンを再処理できれば、kWhあたりコストは約1円となる。なお海外に委託すると約0.75円と言われている。このように巨額の建設費がかかっているので高稼働率を維持するための努力も必要である。また、将来的には工場の閉鎖の費用をどう計上していくかも重要である。
再処理したウラン・プルトニウムは混合酸化物(MOX)燃料に加工される。MOX燃料の利用はプルサーマル計画と呼ばれる。これはさまざまな要因から進展していない。わが国はすでに海外で再処理したMOX燃料を保有しており、余剰プルトニウムを持たないという国際的責任からも、地元の理解を得てMOX利用を進めねばならない状況にある。

2.電力自由化と原子力

原子力発電の経済性は既設と新設とで異なる。既設の原発に関しては、運転サイクルの延長、定期検査日数の短縮、出力アップ、寿命延長などの規制緩和策により高稼働率化を図れば経済性を向上できる。これらの施策がすでに講じられている米国では、原子力の発電原価は2〜3円/kWhと言われ、石炭火力と並び一番安い電源となっている。
問題は新設である。エネルギーセキュリティや地球温暖化対策の観点から原発の新設は不可欠だが、多大な建設費がかかるため、自由化の流れの中では各国とも慎重にならざるを得なくなっている。そのような中フィンランドが今年新設を決めたことは、大きなニュースとして受け止められた。

3.中間貯蔵

自由化などの状況変化に対して核燃料リサイクル計画を柔軟に進めるためには、使用済み核燃料の一時的な貯蔵、いわゆる中間貯蔵を進める必要がある。再処理、中間貯蔵、発電所内での貯蔵と3つの選択肢があれば、柔軟性が向上し、経済的にも有利になる。

4.最終処分

高レベル放射性廃棄物は、地下深部の最終処分施設に埋設し処分することが必要であり、最終処分場の立地が各国で課題となっている。今年になって米国では議会が政府の提案する立地点での計画を承認し、フィンランドでも最終処分場の立地候補地を決定するなど、大きく前進した。米国ではまずパイロットスケールの処分を試行できないかと考えているようだ。何かの時には廃棄物を回収できる技術・制度の構築も検討されている。

5.パブリックアクセプタンス

原子力が国民の支持を得るためには安全性、必要性について理解されねばならない。安全性については、原子力関連機関が安全性についての知識を共有する「NSネット」(ニュークリアセイフティーネットワーク)などの試みが参考になる。
フィンランドで最終処分場の立地が決定されたときは、既存の原発からの廃棄物の処分は自分たちの責任であるという認識のもとに議会で徹底的に議論したところ、最終的には圧倒的な賛成を得た。地元も積極的に誘致した。この例は参考になるだろう。

6.国際協力

ロシアが保有する核兵器の解体では国際協力が欠かせないが、わが国は資金的な協力がほとんどである。核燃料リサイクルの経験を積むことで、技術的な協力ができる可能性がある。
最終処分でも国際的視点が欠かせない。自国の中で責任を持つのが原則であるとはいえ、原発をわずかしか持たない国で最終処分を行うことは難しい。台湾がその例で、原発はあるが、国内に最終処分場の適地がなく、問題が先送りになっている。
地球規模の温暖化の問題に原子力が貢献できるならば、廃棄物の問題も地球規模での解決方法を模索すべきであろう。世界的に安定な地層を有する国の一つはオーストラリアと言われており、これは一種の天然資源とも考えられる。環境に配慮した上で、有用な資源を地球規模で利用することも将来の選択肢かもしれない。現在、豪政府は拒否しているが、将来はいろいろな国の間での国際協力がありうる。

II.意見交換(要旨)

日本経団連側:
再処理については、高速増殖炉の実用化までをつなぐのが目的であるから、それに見合うだけの技術を維持する程度の研究にとどめるべきとの意見もある。
鈴木教授:
高速増殖炉の開発動向も含め、将来の状況変化に対応できる柔軟性を確保するためにも、中間貯蔵が重要である。
再処理については、非核保有国としての主体的取り組み、核軍縮への貢献といった観点も重要である。

日本経団連側:
原子力で国際協力を進めると、各国のエネルギーセキュリティの状況や、他のエネルギーとの競合関係を変化させることにつながるのではないか。
鈴木教授:
そのような影響や国際政治上のバランスも考慮した上で協力を進めることが重要である。
《担当:環境・技術本部》

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