経済くりっぷ No.7 (2002年10月22日)

9月27日/防衛生産委員会(委員長 増田信行氏)

平成15年度防衛関係予算概算要求について

−大井防衛参事官よりきく


わが国の防衛力整備の基本である、中期防衛力整備計画(平成13〜17年度)の3年度目となる平成15年度防衛関係予算に関し、先般、概算要求が行われた。そこで、防衛生産委員会では、防衛庁の大井篤防衛参事官より、平成15年度防衛関係予算要求について説明をきくとともに、懇談した。

○ 大井防衛参事官説明要旨

1.防衛を取り巻く内外の環境変化

  1. 世界の基本構造
    世界の安全保障を取り巻く基本構造は、冷戦期の比較的単純な2極構造から、複雑かつ重層的な構造へと変化している。
    政治的には、米国をはじめ先進民主主義国が主導的地位を占めている。軍事的には、米国が圧倒的優位な位置にある。経済的には、市場が米・欧・アジア等に多極化し、相互依存が深化する一方、経済主体は多国籍化、無国籍化している。社会的には、生活水準・貧富の差が拡大している。

  2. 科学技術の動向
    情報通信技術、精密誘導技術等の軍事科学技術の急速な進歩により、米国、それ以外の先進諸国と途上国との間で軍事科学技術の格差が増大している。
    一方、大量破壊兵器、弾道ミサイル等の軍事科学技術の拡散の進展により、これまで想定していなかった危険が増大している。

  3. 安全保障上の不安定要因
    先進国間では、伝統的意味での「戦争」が生起する可能性は、さらに極小化している。
    他方で、複雑かつ重層的な世界構造を背景として、安全保障上の要因はますます多様化、複雑化、かつ増大している。具体的には、民族、宗教、資源、貧困等の多様な背景の下に紛争が発生し、その手段として、テロ、大量破壊兵器、弾道ミサイル等の手段が用いられる。紛争主体についても、ならず者国家、テロ組織などの非国家主体の関与が大きくなり、発生形態も突発性、抑止の困難性等の性格を帯びてきている。

  4. アジア太平洋地域
    わが国周辺は、依然として不安定さを内包しており、民族、政治体制、安全保障観などに共通性の乏しい中国、台湾、韓国、北朝鮮、ロシア、米国等の有力国家が存在し、利害が錯綜する状況にある。領土問題も未解決のまま存在している。
    日米同盟は北東アジアの安定に依然として有効で、よりよい代替システムは見当たらない。一方で、多国間の安全保障の枠組みの果たす意義・役割は増大している。

  5. 安全保障上の不安定要因への対応
    近年、テロや大量破壊兵器の拡散など国境を越えた各国共通の問題が増大し、一国による対応の限界が見え始めており、国連や多国間協調による対処が重要になっている。また、従来の「抑止」に加えて、「予防」、「対処」、「復興」の重要性が増大している。
    さらに、情報化が進み、人的損耗への社会的許容度が厳しくなっており、今後、無人機、ピンポイント攻撃などの人的損耗の極小化を可能とする軍事科学技術が進歩してくるだろう。

  6. わが国の国内環境
    わが国は市場経済、自由貿易を大前提としてこそ、持続的繁栄が維持できること、食料・エネルギー資源を海外に大きく依存することから、国際的に安定した安全保障環境が極めて重要である。
    安全保障問題に対する国民の意識は、大きく変化しており、また、自衛隊が災害、PKO等の活動を担うようになり、わが国が安全保障面で一定の役割を果たすことへの理解が深まってきている。自衛隊活動は、「運用の時代」ともいわれており、国内外のテロ、不審船、大規模災害などのさまざまな危機に適切に対応できる能力を保持する必要がある。
    一方、経済が長期低迷し、厳しい財政状況が続くなか、防衛に関する資源配分の問題に適切に対処する必要がある。
    また、少子高齢化の進展に伴い、若年人口の減少が深刻化するなか、防衛庁・自衛隊としては、自衛隊員の確保の問題にも対応していく必要がある。

2.平成15年度防衛関係予算概算要求

  1. 平成15年度は現中期防衛力整備計画(平成13〜17年度)の3年度目にあたり、平成15年度防衛関係費概算は、5兆43億円の予算要求を行っている。
    現中期防では、策定3年後に必要に応じて見直しを行うとしており、来年度末がその見直しの時期にあたる。
    また、防衛庁では、現在、防衛庁長官の指示で、統合運用に関する検討、防衛力のあり方の検討を進めている。

  2. 平成15年度予算要求の基本方針としては、第1に、米国での同時多発テロ、炭疽菌事案、不審船事案を踏まえ、ゲリラや特殊部隊の侵入対処、不審船対処、生物兵器による攻撃への対処、各種災害への対処に必要な各種機能の充実、態勢の整備を図る。
    第2に、情報機能の強化に向け、情報本部等における情報収集・分析体制の強化や、現在進めている「統合運用に関する検討」を踏まえ、統合運用体制の充実、および防衛庁・自衛隊を通じた高度なネットワーク環境の整備を推進する。
    第3に、軍事科学技術の動向を踏まえ、先進技術開発を推進する。弾道ミサイル防衛に関する日米共同技術研究についても引き続き実施する。なお、固定翼哨戒機(P-3C)の後継機については、現有機の耐用命数を考慮し、初飛行を1年延ばし、平成19年度とする。また、多様な事態における警戒監視・情報収集能力の向上のため、研究用のヘリコプター型の新無人偵察機システムの参考器材の購入のため、約28億円の予算要求を行っている。
    第4に、人事管理施策の推進や装備品の高度化などに対応した教育・部隊訓練の充実を図る。
    第5に、より安定した安全保障環境の構築に向けて、安全保障対話・防衛交流、国際平和協力活動等を引き続き推進する。
    第6に、環境保全に必要な措置を講じ環境負荷の低減に努めるとともに、基地周辺環境の整備や在日米軍駐留経費の確保を図る。

《担当:環境・技術本部》

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