経済くりっぷ No.7 (2002年10月22日)

10月2日/経済法規委員会コーポレート・ガバナンス部会(部会長 村山 敦氏)

市場の評価がガバナンスのあり方を決めるべきだ

−コーポレート・ガバナンスに関する商法改正の残された課題


コーポレート・ガバナンス部会では、本年5月の商法改正で導入された会社機関の選択制度に企業はどう対応していくべきかといった課題を中心に、コーポレート・ガバナンスのあり方について検討している。10月2日には、同志社大学法学部の森田章教授を招き、商法改正を踏まえたコーポレート・ガバナンスのあり方と今後の課題について意見交換をした。

I.森田教授説明要旨

1.取締役会の権限

2002年通常国会で成立した改正商法は取締役会が重要財産委員会に「権限の委任」をすることを認める一方で、重要財産委員会は決議内容を遅滞なく取締役会に報告することを求めている。そのため取締役会が報告を了承しなかった場合に、決定が覆せるかどうかについて疑問がある。米国同様、職務権限を付与できる構成に見直すべきである。
また委員会等設置会社には、取締役会内に監査・指名・報酬の3つの委員会を設け、執行役と一体で導入することが求められるが、これらは必要な機関ごとに選択的に導入できるようにすべきである。
米国は商法上の会社機関の設定が自由であり、むしろ証券取引所の上場規則が社外取締役の人数や委員会の設置を求めている。証券取引法上のディスクロージャー規則が、その状況や非設置の理由の開示を求めており、これら開示を通じた企業の評価は市場で決まる。株式会社の目的は株主の長期的利益の極大化であり、また市場でどのように評価されるかである。機関のあり方が「優れて」いても成果が上がらなければ良い評価は得られない。日本も会社機関を自由に選択できるようにすべきである。

2.資本市場の整備はガバナンスの前提

日本では長年、株主として銀行が大きなウェイトを占め、コントロールを働かせてきた。現在、銀行が保有してきた株式が市場に放出されているが、その受け皿として国が出てこざるを得ないという深刻な事態に陥っている。米国ではカルパースのような年金基金が機関投資家としてガバナンスの状況を監視している。日本においては、市場に放出される持合株式の受け皿をどうするか、企業の評価・選択をする投資家がいないという問題の克服の方が、商法改正より重要な問題である。

3.監査役と監査委員会

1970年代後半、ロッキード事件など世界的な企業の不正支出を契機に、米国ではSECのディスクロージャー規制や賄賂禁止規定等を整備した。日本も昭和56(1981)年商法改正で米国が課題とした事項に対応し、その後も監査役制度の強化をしてきている。
ところが、今回の改正で導入された監査委員会制度は、監査役のような独任制(監査役単独で調査・報告ができる制度)をとらず、監査役であれば単独で行使できる調査権も委員会に諮らないと行使できない。監査委員の選任に株主が直接関与できない、任期が監査役の4年に対して監査委員会を構成する取締役は1年と短い、そのうえ内部統制について自己監査となっているという問題もある。
さらに、監査委員会には米国の監査委員会と同様、内部統制システムや法令遵守プログラムの構築がなされているかを決定する権限があるとされているが、監査委員は執行役を兼ねることができないため、米国のように会計監査人と直接契約を締結する業務執行権がないという問題もある。

4.その他の課題

取締役の民事責任について、委員会等設置会社でのみ過失責任とされ、それ以外の会社では無過失責任とする理由はない。どのタイプの会社でも取締役の民事責任は過失責任とすべきである。
また、過失かどうかの判断は、経営判断の原則に基づくべきである。経営判断の原則とは「将来予測の自由」のことである。現在わが国の裁判官は事後的に経営判断の合理性を判断しているが、これは「経営判断の原則」によるものとはいえない。経営判断の原則が認められないと、大胆な事業に取り組むことは困難となる。昨年12月の改正で代表訴訟についての訴訟上の和解が認められた。和解という「株主と被告取締役の判断」を裁判所が認めるのであれば、会社の経営判断が認められてしかるべきである。
それから、取締役個人に責任を負わせるのは問題である。米国法律協会の「コーポレート・ガバナンスの原理」を取りまとめたアイゼンバーグ教授は、利益相反行為がなければ重過失でも責任を免除すべきだとしている。アイゼンバーグの主張により改正モデル会社法はそのように変更された。
一方で、法人罰の強化が必要である。法人罰の強化は、むしろ不祥事を起こした企業が倒産するまでマスコミに指弾されるということへの歯止めにもなる。
商法上、第三者に対する責任に比して株主に対する責任は明確でなく、これを明示し厳格化すべきである。また単なる配当算定のための書類である営業報告書に代えて会社の動向を読み取ることのできる、株主向け年次報告書を創設するなど、債権者のみならず投資家を保護する仕組みを充実すべきである。また、法人の寄附行為を商法上、容認することも必要である。

II.意見交換(要旨)

日本経団連側:
米国の社外取締役依存の会社機関のあり方についてどう考えるか。
森田教授:
米国の社外取締役の定義は日本より厳しい。しかし、米国の社外取締役は背後に機関投資家の支持があるから発言力があるのである。ドイツのように従業員代表を監査役会のメンバーとし、従業員の声を経営に反映させている国もある。いずれにせよ無責任な部外者が取締役に就任しても機能しない。純粋な社外の有識者を就任させることができるのは、訴訟委員会のような機関に限られることになるであろう。

日本経団連側:
企業が株主への責任を果たしていく上で、政府が採るべき措置は何か。
森田教授:
株主自身に期待できることには限界があり、米国でも対応には苦労している。証券取引等監視委員会が開示書類の虚偽記載を厳しく取り締まるといった措置が必要となろう。

《担当:経済本部》

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