経済くりっぷ No.9 (2002年11月26日)

10月9日/NICC協議会(委員長 立石信雄氏)

共感と信頼の上に顔の見える国際協力をめざして

−NICC協議会設立総会を開催


日本経団連が新たに設置したNICC協議会の設立総会が、10月9日開催され、同協議会の規約ならびに活動方針を決定するとともに、NICCの国際協力活動についての紹介が行われた。また、厚生労働省の長谷川真一国際担当総括審議官よりアジアにおける人材育成の課題について講演をきいた。同協議会は途上国の人材育成事業を実施しているNICC((財)日経連国際協力センター)の活動を支援するための特別委員会である。

NICC協議会設立総会

I.挨拶要旨

1.立石委員長

NICCは、日系企業の海外直接投資の受け皿となる途上国の現地経営幹部の人材育成において、非常に大きな貢献を果たしてきた。NICC協議会ではNICCの国際協力活動に関する会員企業への情報発信とともに、NICCの国際協力活動をより有意義なものにするための助言、提案等を積極的に行っていきたい。

2.奥田NICC理事長

NICCの活動は、途上国の企業活動を人材養成の観点から支援・協力するものである。途上国に対する一方的な物質的援助を行うものではなく、その国の将来を担う人材を育成することを通じて相手国の自立的発展に資することを目的として、企業経営や人事管理というソフト分野での国際貢献を行っている。こうしたノウハウは企業の中に蓄積されているものであり、経営者団体として技術協力を行う意義はそこに存在する。
わが国は、アジアで初めて自分の力で近代化を成し遂げた国と認識されているが、戦後の経済発展の過程では、米国などから多大な支援を受けた。世界経済の相互依存関係がより強まっている今日、途上国が市場経済の発展に充分に参加できるように、その発展に手を貸すことは、日本の責務とも言える。それは長い目で見れば日本の国益とも合致する。

II.NICC活動報告要旨

鈴木NICC専務理事

NICCは、アジア・アフリカ・中南米諸国等途上国の労使関係の安定化と経営者団体の健全な発展を通じて経済発展に寄与することを目的として1994年に設立された。NICCでは、「発展途上国の経営管理者の人材育成」「経営者団体の支援」「各国経営者団体との相互交流・理解の促進」の分野で国際協力活動を実施している。主な事業としては、アジア諸国人事労務管理者育成事業をはじめとする「日本への招聘研修」と「海外セミナーの開催」等がある。招聘研修者の累計は1,500人を超え、海外セミナー参加者を合わせるとNICC事業への参加者は累計で1 万人を超えている。研修修了者は、帰国後、所属企業で日本での研修成果の伝播に努め、リーダーシップを発揮している。途上国のニーズに合わせた丁寧な研修は、修了者の送り出し企業、各国経営者団体、政府等から高い評価を受けている。今後も、途上国との共感と信頼の上に顔の見える国際協力をめざしていきたい。

III.長谷川総括審議官講演要旨

「アジアにおける労働分野の国際協力〜人材養成を中心に」

厚生労働省では、1970年頃から、人材養成に関わる技術協力として、外務省、JICA(国際協力事業団)と連携して各国に職業能力開発施設を設置してきた。そこを拠点として、専門家の派遣や研修生の受け入れ等無償の資金援助も行ってきた。また、APEC諸国を対象とした技能研修事業も実施している。さらに、ILOと協力したマルチ・バイ活動も実施している。
今後の課題としては、アジア通貨危機以降、先進国、途上国間の格差の拡大などグローバリゼーションの社会的側面の問題がある。また、「最低限の労働基準を守って貿易を行うのが義務である」と通商協定に社会条項を求める動きは、アジア諸国から見れば「形を変えた保護主義」と非難の声があがっている。途上国が基準を満たせないのであるならば、満たせるようにするための環境整備(例えば児童労働抑制のための教育のインフラ整備など)に向けた国際協力・支援こそが大切になっている。
従来の国際協力は、施設等モノを提供するといったハード面のものが多かったが、本当に必要なのは現地の自立を促すためのソフト面の支援である。そのために政労使が、それぞれの分野で効果的な協力を行うことが求められており、こうした観点から途上国幹部人材の研修などNICCが行っている「現場ニーズに則した人材養成」という形の技術協力活動は、今後ますます重要になろう。



【NICC協議会の目的】
NICC協議会は、(財)日経連国際協力センターが実施する技術協力活動に関する理解を深め、NICC活動のあるべき姿について委員企業の意見を集約してその活動の向上に資する。そして、NICC活動を通じての発展途上国経営者団体活動強化、経営幹部育成、労使関係安定化を支援することにより、わが国と発展途上国の調和ある経済発展と安定的な国際関係の維持に寄与することを目的とする。
《担当:国際労働政策本部》

くりっぷ No.9 目次日本語のホームページ